どこにもいたくない

コロッケ

2014.03.20 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
“しんちゃん”で得た
新しい芸の可能性

いかにもゲストらしいキャラだった。その名も「下町コロッケどん」。コロッケのかぶりもののゆるキャラ。終盤まで、メインキャラの脇にいて「~だコロ~」ってしゃべりながら、作品を賑やかしていた。

昨年、コロッケはクレヨンしんちゃんの映画で声優を初体験した。

で、なぜか今年も、新作『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん』に出演。2年連続のゲストは史上初らしい。

「僕が一番驚いてますよ(笑)。こういうゲストって普通は旬の方でしょ。去年の場合は“コロッケ”というメニューから選んでいただいたからわかるんですが…」

しんのすけの父・野原ひろしは、ある日メンズエステを体験。気づけばロボットのカラダになっている。実はこれ、ある秘密結社の計画のひとつ。そうして野原一家とかすかべ防衛隊の、秘密結社との戦いが激化していく…。コロッケが演じるのは敵のマッドサイエンティスト・頑馬博士。そして、ロボットとか。

「2年連続で声をかけていただくからには、なにか“コロッケだから”という期待があるはず。去年と同じなら、たぶん僕はダメだと思います」

きわめてマジメなのである。

実は、演じるロボットは彼自身のネタと非常に関係がある。

「それをどう形にすべきなのか、ものすごく考えてます。ロボットっぽい声を出すのに“倍音”はどうだろうか、とか。歌うところだけは違う声で話すときはそれを使うか、とか。ハリウッド映画では、ロボットの声を表現するのに、肉声を一度機械に通して加工してるんですが、それを僕は、できれば肉声のまんまでできないかな、と練習してるんですよ」

移動中はいつも映画を観ているというコロッケ。ロボットの声が決まった以降は、『パシフィック・リム』『ロボコップ』『トランスフォーマー』『スター・トレック』を観て、“いい声”を探し続けてきたという。

まさに、いつものものまねのネタ作りと変わらぬ真摯さでゲスト声優に取り組んでいるのである。

「それ以上です(笑)。僕のものまねは、すでにいる方々の声の感じをつかんで、不思議な組み合わせをしてどんどん外れていく。声優さんの仕事は“ゼロから”作り出す。その絵を見たときに“こんな声で話しそう”というイメージから外れずに、自分の声を入れて命を吹き込むんです。正直、ものまねの方がはるかに楽ですね(笑)」

昨年は声を数パターン考えつつ、最終的に決めたのは録音現場。キャラクターに合うのはもちろん、他の声優の声とかぶらないよう配慮して決めた。声の収録独自のマナーも興味深かったという。絵の流れるタイミングでしゃべり、すぐに画面の前から引け、音を立てないようにし、ベテラン声優の動きのクセを把握して干渉しないようにする。

「僕、そういう観察大好きなんですよ(笑)。レギュラーの方が多くて温かい空気なのに、一方で戦ってる感じがある。レギュラーじゃない方からは“ここはバシッと決めるよ”っていう気合も感じられて…」

でもそんな声優としての作法よりももっと大きなものを得た。それは「誰も決めてない声の面白さ」。

どんな仕事も楽しんで。
進化するロボット。未来

「たとえば徳川家康とか織田信長の声って、ものまねできないじゃないですか。骨格からおおよそこんな声だというのは想像できるけど…。この間、後輩のライブでちょっとやったんですよ。一番ウケたのは聖徳太子かな(笑)。“10人の話を聞けるってホントですか?”“んー、まあ8人までかなあ?”って(笑)。あのシュッとした顔から受けるイメージで声を作ったんです。そんなふうに、声優さんの体験はかなりの刺激になりましたね」

たとえば“ない声”を演じる。応接室の片隅の観葉植物。テーブルの上のマグカップ。「世界観が変わった」と興奮気味にいう。

「“新しく自分で声を作り上げる”というのは面白いなあと。自分たちで、そういうのを使って楽しいことできないかなって。それで山(寺宏一)ちゃんと、新作アニメやったら面白いよねって話してたんです。ふたりとも歌えるし。お互い30ぐらいの声はできるから。今、僕、『ものまね楽語』という、淡谷のり子先生や田中邦衛さんなどいろんな人が登場する落語をやってるんですけど、何か形として残せるよね、っていう意欲が出てきてます」

たぶん、いつもそうみたいだ。

それが仕事であろうが何であろうが、何かしら楽しむ。たとえば学生時代の新聞配達のバイトでも、夕刊をスパッと新聞受けに挿し込むのを何連続でうまくできるかゲーム感覚で楽しんだり、100軒配った時点でアーモンドチョコレートを1個食べて可、みたいなプライズを設定したりして楽しんだ。

ネタを作るときも同じだという。コロッケのものまねにはイリュージョンがある。1980年、20歳のころから…もっというなら、熊本の高校時代からスナックで披露していたモノマネだが、ネタを考えるのに苦労したことはないという。

「“あ、思いついた”みたいな(笑)。たとえば五木ひろしさんのロボットバージョンでも、考えていく作業はワクワクですよ。あのロボット、最初は300kgぐらいあったんですよ。それでひざとか腰にサスペンションがついてる(笑)。一歩進むとこのぐらい沈むだろうなって動きを考えて。足音ひとつでも300種類ぐらいあるから、そのなかから『契り』という曲に合うものを試して。サスペンションのバネの音入れたほうがいいのかどうか、1個ずつ考えて」

大変なのは唯一、覚えるところ。

「効果音と音楽と動き、0コンマ数秒刻みで作りますからね。♪トントントントン…♪とインテンポで音を作ると、お客さんに読まれちゃうんです。だから♪トン…トトン、トントト……トトトン♪みたいにすれば間合いを外せる。でも、その分、自分で覚えるのが大変になる」

五木ロボットひろしは15周年。表現もずいぶん変わったという。

「音も動きも、最初とは全然違います! 今はアンドロイド的な動き。映画でいうと『アベンジャーズ』のハルク。誌面だとアレなんですが…」

と、コロッケ、動く。まずはカクン、カクン。これは旧型のロボット。続いて、ひとつのカクンのあいだに4~5クッション入れる。カカククゥ~ン、カカク~ン。

「これが今のロボット。CGなんですよ。人間らしく見せるために眉を動かしたり、首を横にずらしたりする。それを生身の人間が再現するというのをやりたいんですよね。うまくできるとハイスピードカメラがなくても、ゆっくり動いてるように見える。これについては、また別で考えてることがあるんですけどね」

昨年と、今年の声優体験は、コロッケの脳内に新たな回路を開いた。新しいことを実践するのに「ワクワク感がすごい」という。

「よく後輩にも言うんですけど、僕の仕事の基本は『気づくか気づかないか』『やるかやらないか』『できるかできないか』、この3原則で成り立っているんです。“こうした方がいいかも!”って気づいて、たとえば深々とお辞儀することにした人と何もしなかった人では、たった1年でも大きな差が開く。気づいてもやらなければ同じだし、やり始めても続けることができなければ同じです。でも、実は今ってラクな時代だと思いますよ。ちょっとしっかりしてるだけで“しっかりしてる人”として認められるんだから(笑)」

そんなふうに刻んできたキャリアは、今年で34年。仕事に対して真摯なだけでなく、常に楽しんで向き合ってきたのは、前述のとおり。

「これまでやってきて、やめたことってないんですよね」というのは、たぶんそれが楽しいからだ。

つまり、面白がってやっていくことは年々増えていくばかり。声優からのモチベーションの高まりを見ても、そこは明らかだろう。

「10年後どうなっていたいかって考えたら、自分は“どこにもいたくない”って思ったんですんです。もちろんモノマネのコロッケです。でもそれだけじゃない。ここにいて、あそこにいて、いろんなことをしている。そんなふうにしてこれからも生きていければ最高だと思いますね」

1960年、熊本生まれ。80年8月、NTV「お笑いスター誕生」でデビュー。浅草芸能大賞新人賞、ゆうもあ大賞、ゴールデンアロー賞・大賞及び芸能賞受賞。ものまねで全国コンサートを行うかたわら、TV・ラジオなどで活躍。ものまねレパートリーは300種類以上。ロボットバージョンやヒップホップダンスとの融合など、つねに新境地を開拓。また、海外公演も大成功。東京・明治座、名古屋・中日劇場、大阪・新歌舞伎座、福岡・博多座などの大劇場での座長公演を定期的に務め、13年3月には松尾芸能賞・演劇優秀賞を受賞。毎週金曜21時よりBS日テレで『コロッケ千夜一夜』という“日本一おもしろいショーパブ”を放送中

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

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