賞を全部ほしい

朝井リョウ

2014.04.17 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 サコ=写真
新刊のインタビューに
どのように応えるか

「自分を甘やかしてくれる人ばかり来るので、当然楽しいです」

3月の3連休の中日、出版社の最上階にある応接室に朝井リョウはいた。池袋の書店でサイン会を終えた感想が冒頭の言葉だ。お客さんの顔ぶれは7対3ぐらいで女性が多かった。24歳で直木賞作家で、今年3年目を迎える会社員でもある。

社会人1年目に仕事の空き時間に書いて直木賞を穫った『何者』では、就活生の自意識が生々しく描かれる。語り手に同調して読み、冷水を浴びせられる。20歳のときのデビュー作『桐島、部活やめるってよ』では、高校のバレー部キャプテンが不意に部活をやめ、ざわめく同級生たちを、視点を変えて丹念に書いた。

これまで朝井リョウには“青春”という冠が載せられがちだったが、新刊『スペードの3』は8作目にして、初めて社会人が主人公。しかも女性3人。ミュージカル女優、つかさのファンクラブを取り仕切る美知代。友だちもおらず地味で、でもつかさに憧れと共感を抱くむつ美。そして、スターになりきれず少しずつ落ち目になっていくつかさ。3人の視点で語られる3つの章。

つかさの章では“物語”について言及される。ある人のキャラクターや活動に関して「なるほど」と思えるような理由を人々は求める。でもそれに頼らなくてもいいんじゃないかと。まさにこのインタビューページもそう。なんとか朝井リョウの“物語”を語ろうとしている。

「僕はホントにいつも後付けでしゃべってるんですよ。きっかけなんてなくて、パッて思いついて書いた小説もこれまでいっぱいあった。そういうふうにできたものに関して50分でお話しして10分で撮影したものが記事になる…それは悪いことじゃないと思っています」

それはそれとして。

「AV女優さんがインタビューで自分の過去を語る姿を見るとモヤモヤして。トラウマがあって、とか、愛が足りなくてとか、“最終手段”じゃないとAV女優という仕事を選んだことが許されないような日本人の感覚が嫌なんです。何かそういうことが表現できればなとは思っていました」

講談社の小冊子『本』4月号に、彼の『変化』というエッセイがある。

瑞々しい感性といわれるようなものに頼らず、同世代のリアリティという点で評価されようとしない、「ミステリー小説に挑戦したい」という野望など、『スペードの3』で胸の中に秘めていたものに手をつけることができた、と書く。会社員としてのルーティーンな日々が、自分で自分を変えねばならないことに気づかせてくれた、とも(「講談社BOOK倶楽部」のサイトから読めます)。

「でも、人の思考って変わるんですよね。『スペードの3』は連載だったので、最初からどんどん書いていかないといけない。書き始めたころ、そんなことは考えていなかったと思うんですけど、連載を続けていくなかで3人の物語を書くことになって、インタビューでお話しするときにはー“キャラクターってどうやって生まれるんですか”って聞かれることも多いのでー何か3人の共通点を見いださないとしゃべれないなと思っていて、書いた結果がこれだと思うんです。作品を書いた後に、こうしてエッセイを書かせていただくと今後の土台が定まるので、いいと思います」

『スペードの3』では女性の感情や生活の描写があまりに生々しい。関連会社で毎日毎日変わらぬ事務仕事ばかりしている美知代の、本社の新入社員に対するコンプレックス。つかさの一人暮らしの部屋のゴミ。芸能人なのに微妙に古いコート。

「いやー…それは経験してないから想像力が膨らむところですね。男子のことを書こうとすると、こんなこと言わないよなとか、こんなことしないよなってわかるのでブレーキがかかるのが早いんです。僕の作品で男子が何かを決意して動き出す話って結構少なくて。男子が“そういうことしないよな”って自分が知ってるから。女性にはなったことがないので書けてしまうんです。でも、“こんな女性はいない!”と思っている読者も普通にいると思いますよ」

普通に就職したわけ。
そして意外な野望のわけ

「正直、前に小学生の話を書いたので、そういうイノセンス的なものの反動で『スペードの3』みたいなものが生まれてきたんだと思います。すぐに飽きちゃうんです」

作品の選び方に将来を見据えた戦略みたいなものはないという。

「そこに計算が働くなら、もっと僕、高校生の青春とか書き続けてます。今回は暮らす環境の変化も大きかったかと。会社勤めで積み重なったものが出ているのは確かですね」

出社前の早朝と終業後に書く。週末にはこうしたPR活動も。社会人3年目は会社の仕事も大変だ。

「作家って、定義が曖昧すぎて肩書だけで生きていると何にでもなれる気がするんですよ。でも自分の器がそれほどでもないことは自分が一番わかっている。会社はそのあたりのことを毎日思い知らせてくれてる気がします」

専業作家にならなかったのは、「20代前半で“先生”と呼ばれると人間がダメになる」という動機もあったが、「肺呼吸みたいな感じ」。

「大学を卒業したら就職するというのが自然の摂理かな、と。とくにほかの理由が何か入り込むわけでもなく、二足歩行しているみたいな感覚で就活しました。そのあたりにも物語はとくにないんですよね」

就職の件も、会社で粛々と業務をこなしている(であろう)点も、目の前で話している様子もそうだ。直木賞作家といえば、世間的には間違いなくセレブリティなのに、朝井リョウは普通だ。

「ネット世代だからというのがすごく大きいと思います。中学のころからクラス別掲示板があって“人目につく行動百選”みたいなものができあがっていた。その地雷原の中で生き延び続けた結果、こんなさとり世代(笑)みたいになったっていう…残念な産物です」

それと「自分は普通である」とずーっと思っているところもある。

「でも、僕と同じ選考にのぼって落ちた方や、僕の前に受賞された百七十何人の方にもすごく失礼だから。直木賞獲った人間に“私ごときに作家の資格はない”なんて言われたら僕も嫌だし、そんなことは言うなって先輩の作家さんにも言われたので…今は表現をいろいろ変えて言ってます。うちの普通の親の子どもが作家なわけない、とか(笑)」

『スペードの3』の後は、アイドルの話を文春で書く。執筆スケジュールは2年後までは決まっている。

「兼業ということもあって、何年も先まで押さえるようなスケジュール組みはしていないです。僕の場合は支社転勤とか普通にありえますし。一応2016年までは版元も書くテーマも決まってはいます。でも新刊も出たことですし、今、息抜きに『世にも奇妙な物語』を書きたいなと思ってるんです。勝手にそういうタイトルで。版元がどうとかは考えてなくて、趣味で書こうかと」

この話を、前に知人の元編集者にしたところ、ツッコまれたそうだ。

「“息抜きって旅行とかだよ”って…。僕は全然自覚的ではなかったんですけど、“息抜きに書くということは、たぶんずっと書いてるんだろうね”って言われて。そうかもしれないなって納得しました」

今ほしいものを尋ねたら、この24歳男子は「複合機」と答えた。会社で出合って感動して、「インタビューの直しとかにも便利!」って。なるほど、さすがだ。でも、それよりももっとほしいものがある。

「賞を全部ほしいんです。僕、2作目を出していい意味がわからなかったんです。デビュー作は賞をいただいたので、1000作以上のなかから審査されて“出版価値あり”というお墨付きを得たことになると思うんですが、何の審査も経ずになぜ2作目が出るのかと。そんな感覚が今もずーっと続いてるんです。賞って本が出て1年後とかにいただけるものなんですが、少なくとも賞をもらうと新人賞で本が出たときのように納得できるんですよね。“この本は出してよかったんだ!”って判を押してもらえた気分になるんです。だから、全部賞がほしいです」

1989年5月生まれ、岐阜県出身。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。12年には同作が映画化され、日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ、おもだった賞を数多く得る。大学卒業後、就職し兼業作家に。社会人1年目に書いた『何者』で第148回直木賞を受賞。23歳での受賞は戦後最年少。直木賞受賞後第1作の『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。『変化』が全文読める講談社BOOK倶楽部はhttp://bookclub.kodansha.co.jp/books/topics/spade/

武田篤典(steam)=文
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