いろんな“音”作りかな

小室哲哉

2014.05.15 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真 photography PEY INADA
「今、聴く」ことを
あくまでも意識して

軽快な4つ打ちのリズムに、宇宙っぽかったり瞑想的だったりするような音が絡み、ビブラフォンみたいな気持ちいい音が見え隠れする。音色は少しずつ増え、曲は疾走感を増していくが、暑苦しくはない。自然とリズムが取れる感じ。で、そのままたとえばメールを送る、資料を探す、メモを取る、何か検索する…なんとなく仕事に手を付けるうちに「自分は今、音楽を聴いている」という意識はなくなっている。

『DRESS2』はそんなふうに始まる。1曲めは「Come on Let’s Dance 2014」。1986年の、曲はそのままに、ボーカルもアレンジも曲も録り直した新しいバージョン。リプロダクト、というらしい。これは彼らの初期の音源10曲をリプロダクトしたアルバム。TMネットワークの活動30周年を祝う1枚だ。

「この30年で音楽業界のテクノロジーの革新は相当行われてきました。今の音楽のユーザーのなかには生まれていない人も多いですよね。昔の曲って自分でもちょっと聴きづらくて古い。レコーディングに使っていたのもアナログテープレコーダーでしたし、今の再生環境に合う音色じゃないんですよね。だから“衣替え”という意味も含めて」

89年に『DRESS』というアルバムがあった。自作曲を世界の有名プロデューサーに託し、再構築させたものだ。それを今回は自分で。

「ファストフードやネットショッピングなどで、生活のスピードも変わっています。それに合った音楽じゃないと聴いたときに違和感を覚えます。またはなんか心地よくない。デジカメの画素数と同じように、“音符のサイズ”も変わってきてるんですよ。昔は4分音符1個は小さい単位だった。今はすごく巨大。2万~3万円の機材を使えば4分音符1個を128分割ぐらいまでできます。その無数のタイミングのどこに合わせて音を出せば気持ちいいか。それがセンスです」

その気持ちよさを極めていくと「聴いていることを意識させない」境地にいたるのかもしれない。

「でも大前提として忘れちゃいけないのが、メロディですよ、やっぱり。そしてアクセント、タイミング、メロディーラインの長さ、全部の組み合わせは、億では利かない。音楽には終わりはないと思いますね」

普段は、自作曲はほぼ聴かない。

「聴くと後悔しかないから(笑)。アーティストならみんなそうだと思いますけどね。でも今回は聴かざるを得なかった。それで、おそるおそる。すると案の定“なんでこんなにBPM速かったんだ!”“なんてちゃっちいキックの音なんだ!”ってツッコミどころが随所に。でもそれがやりやすかったですね」

つまりそこが変えるべき点だから。聴きながら、1曲終わるころには、曲の構想はできていたという。それは今回に限ったことではない。「基本、1曲は、その1曲分の長さでだいたいできます。3分の曲か4分の曲か、“歌アタマ”にするか“サビアタマ”にするかみたいなことは最初にできます。イントロから終わりまでパッて。それに“ハイ、ギターソロ!”って振られたときに弾くような感じでメロディーを乗せて、最後に歌詞を乗っける感じ」

この作り方を確立したのは86年、渡辺美里に提供した「My Revolution」のころ。天才とはこういうものか。

「音楽って耳で聴きますけど、目で見る場合がある。どうするかというと、テープの時代には四角い枠の中をテープが通っていく姿を“見る”っていってたんですけど、ハードディスクレコーディングの時代になって変わったんですよ。曲のアタマから終わりまで、波形をデザインとして見られる。イントロとAメロとサビがあってっていう構造が、いわば建築のデザインのように立体的に見えるようになったんです。それが大きいですね」

進化なくしてビジョンなし
環境に合う音、すごい音

30周年の最初は、アルバムとシングル「LOUD」とライブツアー。

「幸運にも30年間やることができたっていうことが大きいですね。僕のなかではEDM(=エレクトロニック・ダンス・ミュージック)のカルチャーが大きくなるなあと思っているので、TMネットワークにもその要素は入れていますね」

3歳からバイオリンを始め、幼いころから作曲に天才を発揮し、大学時代にはプロのミュージシャンとして活動。ソロでもきっといけた小室哲哉にとって、TMネットワークとは、いったいなんなのだろう。

「TMは、いわゆるJポップに、音楽におけるエレクトロニクスや技術革新をどう取り込んで時代に合わせたものを作り出していくかという場所です。名前をつけた83年には“ネットワーク”っていう言葉も一般的じゃなかったですし、ずっと新しいことをやってきた自負はありますね」

新たな音楽作りへのチャレンジはもちろん、スターライトと呼ばれる照明を導入したり、サラウンドを使ったライブを開催したり、楽曲をインターネット配信したり…。

「他と差別化したかったんです。僕たちの活動自体が“変わってる”と見られて、それで歌番組に呼ばれることもある。たいてい歌番組には“変人枠”があるので(笑)。“3人組枠”も意識しましたね、アリスしかり、かぐや姫しかり…ちょうどYMOが83年に“散開”して、とって代われると思ったんですけどね(笑)」

31年目以降のビジョンに関しては「ゼロ」だという。

「この1年をどう終わるかで精一杯。来年、テクノロジーがどこまで進化してるかわかりませんし。たとえばプロジェクションマッピングなんて、去年の頭には“すごいもの”だったのに、今はわりと普通です。そんなスピードですからね。今は技術の進化にアンテナを張り巡らせています。ただ、30周年の最後は、みなさんに驚いてもらいたいとは思っています。たとえばARとマッピングを応用して“完全に野外なのに、完全に屋内”みたいな背景を創りだすとか。これは今ある技術でできそうな気がするんだよなあ…」 

小室哲哉個人としての動きも興味深い。ソロアルバムをリリースし、EDMを広げる活動はもちろん、“音作り”を実践する。たとえばレストランのBGMのようなもの。

「何店かで使われているんですが…会話してるときにはその音楽は気にならないんだけど、ときどきシーンとするような瞬間ってありますよね。そこで音が流れてることに気づく。シーンとなっても居心地が悪くない。それが本当に必要かどうかは、僕自身検証できてはいません。森や林の中の、あのなんとも言えない“静けさではない静けさ”が心地よかったりもしますし、まだそこはよくわからないですね」

静かすぎるハイブリッドカーや電気自動車の“走行音”“エンジン音”のプロデュースもしたい。

「僕もハイブリッドカーに乗ってますが、背後からゆっくり近づくと、本当に気づかれないんですよね。そういうときにクルマらしい音があった方がいいと思う。それに若いころ、ニュートラルでふかしたり踏み込んだりした音の気持ちよさって大切じゃないかな」

生活のなかで聞こえる、音。

「違和感がなくて気持ち悪くなくて、でもよく聴くと凝ってるようなものが作れたらいいですね。でもそれだけじゃなくて、ときには人を驚かせたい。夏フェスなんかで、みんなが両手を挙げざるをえないような、誰も聞いたことのない音。ポップスというよりは環境に応じたいろんな音作りをやっていくのかな。最終的には“ポツン”っていう音を作るんだろうか(笑)」

それは今。現時点でのビジョン。それはたぶん変わる。新たなテクノロジーが開発されることによって、やれることはどんどん増えていく。だから、「今やりたいこと」がそのまま将来のビジョンにはならないのだ。だからアンテナを張り巡らせつつ、着地点をぼんやり考えることはある。

「いろいろなエンターテインメントの巨星がいますよね。マイケル・ジャクソンを含め、数多の人々。自分は終わるとき、どのぐらいのポジションかなって。上から数えて100番目なのか1000番目なのか。僕がもし、エンターテインメントの世界に何か残せたとしたら、どのあたりの位置なんだろうって」

1958年11月27日東京都生まれ。音楽家。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家、編曲家、キーボーディスト、シンセサイザープログラマー、ミキシングエンジニア、DJ。83年、宇都宮隆、木根尚登とTMネットワークを結成し、翌年デビュー。93年にtrfをプロデュース。これ以降プロデューサーとして大ブレイクした。篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle With t、globeなどを手がけ、時代を築く。30年来取り組んでいるEDM(Electronic Dance Music)をフィーチャーしたソロ活動も活発。4月にはアルバム『TETSUYA KOMURO EDM TOKYO』もリリースした。公式サイトはhttp://avex.jp/tk/

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真
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