もっと勉強したい

池上 彰

2014.07.03 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
自在な解説と質問に
発生する化学反応

6月22日のCNN.co.jpによると、イスラム教スンニ派の武装組織「イラク・シリア・イスラム国」(ISIS)が、イラク西部アンバル州の4都市を制圧したという。あと約100㎞で首都バグダッドに到達する、ということになっている。その6日前、テレビ朝日系の『ここがポイント!! 池上彰解説塾』では、ISISとは何か、そもそもイスラム教におけるシーア派とスンニ派の争いとはいかなるものかを解説した。緊急生放送だった。

この前週の放送で解説されたのは、アフリカの民族と国家の間にある齟齬と、コートジボワールの内戦にドログバという英雄が歯止めをかけた話。ワールドカップに寄せたネタを取り上げるにもそんなやり方をする。

池上さんがあらゆるニュースに関してみっちり解説してくれる、現在、唯一の番組だ。インタビューが行われたのは6月6日。コートジボワールの回が収録された日のこと。
「来週3つぐらいニュースを取り上げる予定なんですが、そのうちの2つの話を、今打ち合わせしていました。もう1つは、まあ何か起こるんじゃないかと(笑)」

通常は週末に収録、翌月曜に放送。時折、臨機応変に生放送に変わる。
番組にはネタ出しから参加し、収録ギリギリまで伝え方について“揉む”。この日とりあげたコートジボワールについては…。
「2週間ほど前からスタッフが調べ、リサーチ結果を見ながらどう扱うかを話し合います。何度もたたき台を出していただいて、やりとりをして修正しつつ、昨日台本をいただいたら、表現の仕方を修正し、それを反映させた台本が収録の直前にできる」

台本を見せてもらうと、そのまま読んでも講義として成り立つ綿密さ。だが収録では、池上さんの語りは自在に枝葉を伸ばすのだった。
「コートジボワールの主産業はカカオの生産なんですが、この価格が下がったことによって経済が悪化した。植民地はそもそもモノカルチャー(単一栽培)だから、その産業がダメになると一気に経済が悪化するし、統治していた国の都合で違う民族を1つの国にしてしまうから対立が起きるのだと。これらはアフリカの植民地の典型例なんですよね。スタジオで説明するうちに“そうだったそうだった”って思い当たったので、アドリブで話したりしました」

台本のゲストの部分には「答える」「質問してください」と書かれている程度。どんなことが問われるかわからない。それでスタジオでの展開は変わる。もちろん池上さんはすべて答える!
「いえ、わかんないことはわかんないって言いますよ(笑)。でも、ゲストのみなさんに視聴者代表として質問をいただくことで新たな気づきがあって、そこから新たな説明が生まれる。わたしはよく“化学反応”と呼ぶんですが、それは醍醐味ですよ」

基礎をみっちり。そして、
とにかく根こそぎ読む

池上さんはNHKの記者だった。20代は、ひたすら基礎に費やした。
「松江放送局の先輩の教えですよ。取材力を徹底的につければ将来役に立つからねと。松江はいわば“ミニ日本”です。県警と所轄署があり、広島高等裁判所松江支部と松江地方裁判所がある。警察で逮捕されたら48時間以内に検察に身柄を送り、24時間以内に起訴するか勾留する。それで、刑事訴訟法を実感する。県庁があって日銀松江支店がある。日本の統治機構の仕組みを基礎から学ぶわけです。当時は記者としての取材力や表現力を身につけるにはどうすればいいかということばかり考えてましたね。その後は広島放送局の呉通信部に行ってカメラを回してました。3年間ずーっと自分で回して画づくりを学びました」

そして1980年の新宿西口バス放火事件、82年のホテルニュージャパン火災、83年の日本海中部地震、85年の日航ジャンボ機墜落事故など数々の事件や自然災害の現場を取材。89年にはキャスターになり、『週刊こどもニュース』の立ち上げに参加。94年にはニュースに詳しい“お父さん”として、子どもでもわかるニュース解説という武器に磨きをかけた。

若いころからイメージしていた将来像は、解説委員。
「こどもニュースやってるころにずっと希望を出していたんですけど、あるとき解説委員長に呼ばれて“オマエはダメ”と。解説委員というのは専門分野を持っていないとダメなんですね。“オマエは何でも解説しちゃうから解説委員ではない”と(笑)。すごくショックでしたね」

NHKをやめてフリーランスになり、今年の春で丸9年。様々な番組で解説してきたが、池上さん自身、想定外だったという。
「私は本を書く仕事に専念したかったんですよ。こどもニュースのときに依頼を受けて書いたら、ことのほか楽しくて。二足のわらじも履けないし、海外にも自由に取材にいけるだろうし。その当時2冊受注していたので、まあ1年は暮らしていけるだろうと思ってやめたんですが…」

あっという間にテレビの売れっ子に。08年から始まった『学べる!!ニュースショー!』では、当初はサブの解説者だったが、その後、池上さんはメインになり、冠番組になった。いろいろな番組で易しくわかりやすくニュースを解説して全民放の解説委員の役割を果たし、選挙特番では他のどのキャスターも聞けない、素直な質問を投げかけて政治家の本性を露わにし、“池上無双”と呼ばれた…のは、解説不要ですよね?

テレビの画面に出て、ニュースを伝えてくれる人は数々いるけれど、池上さん、自ら取材し、いろいろなことを知ったうえで伝える人なのだ。
そして思ったように本を書けないこともあり、11年春にはTV・ラジオの全レギュラー番組を降板。
「充電しなきゃいけないなと思ったんです。アウトプットが多すぎて」

充電期間中、40カ国に取材に赴き、40冊ほど本を書いた。
「この期間で、自分が解説したい人間なんだということに気づきました。TVのニュースを見ていると“これ、その観点だけで解説してちゃダメじゃ~ん!”って。TVにツッコミを入れる年寄りと化してました(笑)。今は定期的にアウトプットがあるから、インプットにもいい!」

そこで、せっかくなので、新聞の読み方を尋ねた。書かれている内容を理解するだけでなく、ポイントをつかむには…。朝日新聞6月6日の朝刊・一面。たとえば、この見出し。「混合診療を拡大 16年度にも、全国で実施 政府方針」。
「これまで日本医師会は患者が全額負担する“自由診療”か“保険診療”しか認めなかった。これを“混合”することを認めようと。アベノミクスでいう第3の矢ですね。日本医師会は反対してるんですが、それを押し切って新しいことをやろうとしている。自民党は最近、農業の活性化を目論んで、JA中央会の制度改革を図ってるよね? それと同じような、“岩盤規制”といわれる規制を壊そうとしている一連の流れなんじゃないかって、読むんです。新聞なんて、毎日目を通していればつながってくる。ただ、最初から丁寧に説明してくれていないからわかりにくいでしょ? だから“しめた”と思う。私のビジネスが成り立つから(笑)。逆に言うと、毎日目を通していると、自民党は支持基盤であるJAとか医師会と戦うのかと。“これは画期的な動きじゃん”ってわかる」

そうした“とっかかり”を見つけることが勉強につながるという。
「へーっと思ったら、それについて書いた本を根こそぎ買ってきて読むんです。そのなかで役立つのは2~3冊。それが“タネ本”。あとはその2~3冊を元にして書かれたということがわかるんです。この過程が“勉強する”ということ。本質が何かということをつかむ。“それらが元になってるのか”とわかれば、あとは日々新聞の見出しを見てアップデートするだけ。25歳から30歳は勝負時。仕事の基礎をどれだけ身につけるか」

あのー、ウィキペディアは…。
「きっかけにはいいけど、本質は自分で見つける。それこそ力がつく部分。そういう興味を持てる、別のニュースと連携できるような“とっかかり”を作るのが私の役割だと思ってます。そのためには、もっと勉強したいかな」

1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHKに。記者として松江、広島放送局などで経験を積み、報道局記者主幹に。94年に『週刊こどもニュース』を立ち上げ、お父さん役として、子どもにもわかる易しく丁寧なニュース解説で人気を得る。05年3月NHKを退局。フリージャーナリストとして活躍中。東京工業大学教授、信州大学・愛知学院大学特任教授。近著に『知らないと恥をかく世界の大問題5 どうする世界のリーダー?~新たな東西冷戦~ 』(角川SSC新書)、『池上彰のやさしい教養講座』(日本経済新聞社)など

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

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