認められるまでにずいぶんかかった。 ― 岸本斉史、『NARUTO―ナルト―』を終える。

岸本斉史

2014.12.04 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 SACO.=写真
連載終了後はゲーム。
そして「映画」

11月11日の朝日新聞朝刊にインタビューが載った。連動するウェブのデジタル版では、インタビューのロングバージョンに、15年の連載中、物語がどのように展開し、社会はどんなふうに変わったのかを照らし合わせた年表も掲載される充実ぶり。取材が行われたのは『NARUTO ―ナルト―』最終回を描きあげたおおよそ10時間後。描き終えた心境を問われて岸本斉史は「まだ実感がない」と答えた。われわれが彼を訪ねたのは、その取材の約3週間後。

―改めて、心境はいかがですか?

「締め切りがないと、こんなに時間がたつのが早いのかって感じですね。24歳から連載が始まって、締め切りは丸15年間、毎週毎週、何をやるにも後ろの方から睨みをきかせていて、そこへ必ず行かなきゃいけない生活を続けてきたのに、たった3週間で、それがない生活に慣れてきました」

―その分、かつてないほどの大量の取材攻勢ですよね。テレビ、雑誌問わず、われわれで6媒体めですか。

「取材って気恥ずかしいですね。何をどうしゃべっていいやら、写真もどんな顔していいやら(笑)」

―連載中は、どんなふうに1週間を使ってました?

「原稿を上げた日の深夜に次号の打ち合わせをします。で、ネームを上げるのに3日、遅くなると4日かかります。その後3日で描いて、またその日の深夜に打ち合わせ…。今は、連載中にはできなかったことをやろうと。アシスタントがゲームの話をしてるのがうらやましくてですね。終わったらたくさんやるぞと思ってたんで、もうすでに結構やってみたんですが…完全に時代に置いてかれてる(笑)。ゲーム、進化しすぎなんですよ。ハマると思ったのに、全然追いついていけない。あとは映画を観るくらいですかね」

―で、『NARUTO』も映画ですね。

「アニメの会社のぴえろさんが 1本ログライン(=あらすじ)を持ってきてくれたんです。それが、自分では決して描かなかった部分だし、実際読んでみたら“見てみたい”と思えたので、やりましょう、と」

―ナルトとヒナタのラブストーリー。“やめましょう”っていう可能性もあったんですか?

「いい脚本がなければ、ルーティーンで映画を作るのはやめよう、ってずっと言ってたんです。惰性で作ってもしょうがないから。でも、よかった。その後、脚本家の経塚丸雄さんとお話をして、いろんな人と意見を言い合ってさらに脚本を詰めていきました。ここではこのキャラクターはこう動きますと。脚本には第2稿ぐらいから参加して、むしろいろいろ言い過ぎたかもしれないけど、経塚さんがすごく熱い方でわがままに付き合っていただけました。おかげでいいものができたと思います」

700話の営み。
道草のこと

―基本、一人の作業がお好きなんですか?

「そうですね。ネーム考えるのも、ここでカーテン閉めきって、1人でうーんうーんって唸ってました」

―で、その後、アシスタントさんが来て実際に絵を描いていくと。全部で何人でやってたんですか?

「常時6人です。最終の締め切りのタイミングで7人目を入れます」

―アシスタントさんのディレクションとか面倒じゃありません?

「意外とそこはツーカーでイケてました。ウチ、あんまりアシスタントが抜けなかったんですよ。15年ずっと一緒にやって来たのもいたし。僕としてはみんな独り立ちしてデビューしてほしいなと思ってたんですけどね。そのぐらい向上心がないとダメですからね。アシスタントのなかにも、なんとなく『NARUTO』は永遠に続いていくものだっていうニュアンスがあったみたいでした。だから僕は4年前ごろから、“そろそろ終わる準備に入るので、自分たちの作品もやっておけよ”って言ってたんです」

―お話の流れで、「あ、もう終わるな」って分かったんですか?

「ちょうどペイン編の最中で、その後、戦争があって、最後にサスケとナルトのことをやれば終わるな、と。それぞれのシリーズがどのくらいかかるかは読みきれなかったですけど、あと何をすれば終わるかが見えて」

―ストーリーの大きな塊っていつごろから構想してたんですか?

「最初の子ども時代のナルトの話が終わった時ですね。その後、ナルトたちがちょっと大きくなるんですけど、それ以降の流れはこの時に全部考えましたね。いわゆる一部が終わって何週か休みがもらえたので…といっても、そこでも読み切り描かされたけど(笑)」

―連載開始から5年半。単行本だと27巻。最初は「5年は続けましょう」と言われたんですよね? それをちょうど達成したタイミング。

「人気がなくなればジャンプはすぐ打ち切るけど、人気があれば続く。僕がやるべきことはいいものを書いて、読者に面白がってもらうということしかなかったですね。大きな流れは考えながらも、毎週毎週はそこに向けて必死にやるって感じでした」

―その後、岸本先生の30代を全部費やして『NARUTO』は完結しました。もちろん読者を面白がらせることに必死という一方で、じつはこんな思いがあるのではないかと、勝手に読み取ってしまったんですけど…。

「はい」

―たとえば、カカシが角都にいう「オレ達から見たらただのズレた老いぼれだ だからアンタは今ここで死にかけはいつくばっている次から次へと新しい世代が追い抜いていくのさ」(38巻)。44巻でもシカマルがそんな話をしますが、世代交代論は岸本先生が新世代なのか旧世代なのか…。

「僕はすでに自分が長くやってるイメージがあったので、おれが背負うぜという意識はないですね。それよりはアシスタントに…。教える立場ではないんですけど、先輩として早く巣立ってほしいとずっと思ってましたから。いろいろアドバイスもしたし、原稿描きながら一人ずつできるだけ丁寧に話してアイデアも出したりして。その辺はカカシの言葉と結構かぶってましたね」

―ペインの平和の解釈に関しては朝日新聞に任せるとして、彼の「戦争とはいかなるものか」という言葉に、他のぬるい作品への怒りみたいなものがあるんじゃないかと。

「ぬるいっていうのはどういう?」

―敵役やストーリーが主人公のためだけにあるような。主人公の成長を促すためだけに、周りの全部が都合よくお膳立てされてるみたいな…。

「なるほど」

―ペインが言うのは、「特に戦争を知らないお前達の世代は仕方が無い 死に意味を見出そうとするが、あるのは痛みとどこにぶつけていいかわからない憎しみだけ ゴミのような死と 永久に続く憎しみ癒えない痛み それが戦争だ」(49巻)と。現実は主人公に都合よくできてはいない、と。

「僕は実は、それはそれでありかなと思ってます。たとえばわかりやすい勧善懲悪モノにしても、舞台が少年誌で、読者がまだいろいろなことを経験していない子どもたちならば。題材を難しくすることなく、わかりやすく伝えて面白がってもらうのはテクニックがいることで、僕はそういう作品に敬意を払ってます。でもそういう作品ほど描くのは難しい。主人公以外の人たちの背景をきちんと描くと、ドラマは成立しやすいし世界は広く感じられます。ジャンプには勧善懲悪の作品が多かったので、そうではない作品をどうすれば成立できるかなという狙いも『NARUTO』にはありました。だからいわばジャンプにおいては隙間産業です(笑)」

―ずーっと『NARUTO』を描いてこられて、この15年間で、ここで漫画描き続けてる「岸本斉史さん」と、世界で2億部売って地位がぐんぐん上がった「岸本斉史先生」とのあいだの、ズレを感じたことあります?

「僕自身は『NARUTO』を描く前から変わってないと思うんです。たぶん、周囲のリアクションは変わりましたよね。そもそも“漫画描いてること”って、社会ではそんなに認められなくないですか? たとえば大学時代とかでも、そのことを言うと、すごいね! とは言われない(笑)。それを、『ジャンプフェスタ』というイベントに出た時、集まった人たちが大歓迎してくれた。僕を下の名前で呼ぶんですよ。“まさし~!”って(笑)。女の子だけじゃなく、どう見てもオッサンな感じの男の人も(笑)。でも、誰かに認められるのってこんなにうれしいんだって実感したんです。それは『NARUTO』のテーマにもリンクさせているんですけどね」

―主人公に課してる思いが大きいっておっしゃってましたもんね。

「ホント、なかなか認めてもらえなかったですから(笑)。漫画自体が社会に認められなかったし、漫画を描いても編集者に面白いと認められない。…いや、全然面白くないからしょうがないんですけどね(笑)」

―当然、面白いと思いながら描いてるんですよね?

「もちろんです(笑)。新人のころに、面白くない漫画を面白いと思いながら描いていたのが、僕の漫画家としての最大の失敗かな。小学生に向けて、少年誌で描く漫画なんですけど、主人公の小学生が道端で財布を拾うんですよ。で、そこに入ってるお金を遣いきるという。『道草』ってタイトルの漫画を描きました。ジャンプで賞をもらったので、“次作を描きましょう”って編集さんに言われて描いたのが、それ(笑)。世間といかにズレてるか。読者がいて、彼らが望んでることは何なのか…を僕に気づかせる、というところから、編集さんの仕事はスタートしました。『NARUTO』が始まるのはその3~4年後か…思えば長い道草でした(笑)。それから認められるまでにずいぶんかかりましたね」

1974年岡山県生まれ。九州産業大学芸術学部在学中の96年、『カラクリ』で第132回2月期ホップ☆ステップ賞佳作を受賞。その後、『道草』を執筆。99年より週刊少年ジャンプで連載がスタートする『NARUTO』の開始まで、徹底的に漫画や映画制作に関して独学。雌伏の時を過ごす。3年後、テレビ東京でアニメ化。漫画は23カ国以上で販売され2億部を突破。アニメは60カ国以上で放映。劇場版はこれまで9作が作られている。www.naruto-movie.com なお、原作は11月10日発売のジャンプで700話で終了。単行本72巻、2月4日発売。NARUTO新時代開幕プロジェクトとして展覧会と来春の短期集中連載も予定

武田篤典(steam)=文
SACO.=写真

関連キーワード

注目記事ピックアップ

 

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト