『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉の新人時代は…

人気ミステリ作家 デビューは経理

2015.02.26 THU


ひがしがわ・とくや 1968年広島県生まれ。文中で紹介したデビュー作は、『中途半端な密室』。同名の短編集(光文社文庫)に掲載されている。『探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて』(幻冬舎)は天才少女とヘタレな30オトコが大活躍するコミカルなミステリー。東川作品の入門にもオススメ! 撮影/林和也
「ガラスびんメーカーに就職しました。福岡の就職説明会で話を聞いているうちに、あれよあれよと内定が出たんです」

『謎解きはディナーのあとで』が大ヒットし、今や押しも押されもせぬ人気ミステリー作家となった東川篤哉さんだが、社会人デビューはサラリーマンとして。

「経理に配属されたんですけど、大学も法学部なので、ぜんぜん知識も関心もない(笑)。当時はパソコンも普及していなくて、手作業とワープロ。簿記の資格は入社して取りました。経理って、数学じゃなくて、ひたすら数字を合わせていく根気が試されるんです」

現金出納の額が合わないという小さなミスはあったものの、仕事の素養はあった模様。

「楽しい思い出もありますよ。同期は7~8人いましたが、新橋に飲みに行ったりとか」

だが結局「組織のなかで働くことに向いていなかったんです」と結論。入社から約4年を経て退職を決意し、小説家へと転身を図る。

「といっても、小説家になりたくて退職したわけではないんです。『何かしないと』という思いから、好きだったミステリー小説を書こうと思って。もともと大学時代に一度挑戦しているんですけど、手書きで原稿を書く大変さにくじけてしまったんですよ」

ワープロで挑戦するも、また挫折。さらに2年を経た12月24日の夜。ようやく歯車が動き出すのだ。

「有馬記念に大負けした夜、たまたま思いついたトリックがあって。光文社の『本格推理』というコンテストの締切が年末だったので、一気に短編を書いて応募したんです」

翌年、見事入賞! だが作家とアルバイトの二足のわらじが続く。

「初めて書いた短編が活字になったら、やっぱり嬉しいですよね。でもまだアマチュア作家。長編出版を目標に続けていました。バブルだった会社員時代の貯金を食いつぶしながら、どうにかやりくりしていましたね」

月1本は短編を必ず書き上げることをノルマに長編出版を目指すこと6年、『密室の鍵貸します』で長編デビュー。作風はその当初からユーモアを織り交ぜたミステリーである。それは軽妙さとトリックのバランスが絶妙な最新作『探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて』でも然り。初志貫徹!

「書いているものも、書くペースも実は変わっていないんです。好きなものを好きなように書いてきただけなので、周りの評価が変わった感覚ですね。僕は会社辞めて始めたわけですけど、実際うまくいく可能性って本当に低くて、宝くじに当たるようなもの。だから小説家とか何かを目指すのはいいですけど、少なくとも会社は辞めない方がいいと思います」
(吉州正行)

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