時間通りに現場に着く。 ― 筧 利夫にとっての「成功」とは。

筧 利夫

2015.04.23 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
自己アピールと
役の浸透の一石二鳥

―なぜ、オファーを受けようと思われたんですか?

「そりゃ、だって、押井 守監督ですよ。あの『機動警察パトレイバー』の実写版なんですから。押井監督の手がける映画で、規模的にもおそらく最大なわけですよ。おまけに僕の演じた後藤田って、アニメ版でいう後藤隊長の役なんだから! 役者で“やらない”っていう人はいませんよ!」

―このオファーはうれしかった?

「そりゃそうでしょう。だってどう考えても、この作品は外国でも上映するなっていうのが読めますから。だって押井さんの実写版の大作なんて、海外の監督だってドキドキして待ってるでしょう、どういうもんつくるんだ!? って」

―撮影は、2013年7月から14年1月まで。この間で中編シリーズ13本と長編版も撮ったんですか。

「はい。でも役者の出てくる部分の撮影が終わっただけで、空撮やら何やらはつい最近まで撮ってましたよ。マスコミ試写が終わった後もまだ撮ってたみたいですからね」

―撮影後かなり時間が過ぎましたが、「終わった感」はありますか?

「とりあえず務めを果たしたと思えるのは、5月1日と2日の、公開にともなう舞台挨拶が終わった時でしょうね。でも、まだそこは始まりです」

―ああ、その後の評価とか…。

「じゃなくて海外の映画祭です。招待されたら、僕はタキシード携えて、自腹で行く気満々なんで(笑)。プロデューサーと監督が2人で行くと言おうが、絶対行きますよ、ハイ」

―世界への足掛かりにしたい、みたいな野望もあるんですか?

「ええ! 『パシフィック・リム2』に司令官として招かれないかなと(笑)。前の司令官だったイドリス・エルバが退いたんで。日本チームの隊長でもいいなあ…夢は膨らむばかりですよ」

―7カ月というと、普通のドラマとか舞台よりも長く関わりましたね。以前から、役と一体化して自由に動くには3カ月ぐらいかかるっておっしゃってますよね?

「舞台の場合は、稽古と本番の期間ですけど、映像の場合は演じたシーン数のような気がしますね。今回は最初の1カ月なんか、10日に1回ワンシーンしか出番がなかったんですよ。役の格好してセリフを言っても、なんかしばらくウソっぽくてね。その間、他の出演者たちはどんどん馴染んでいくし。最初はみんなすごくギクシャクしてたのに、僕が次に行ったら慣れ親しんでましたから」

―演じるほど馴染むんですか。

「シーンを経験すればするほど、その役がどんなふうに考えて動くかがわかってくるでしょ? すると別の時についても想像が働く。そうやって役はできあがっていくんですよ。それもあってかなりアピールしていきましたよ」

―筧がいますよアピール。

「だって最初は行ってもやることほんのちょっとなんですよ! 一言二言しゃべったら終わりなんですもん! 押井さんが監督の時はいいんですが、シリーズでは他の方も監督されてるし、そういう場合には “ここはこうした方がよくない? “こういう出方はどうかな?”って。やるのはこのぐらい(指を2㎝ぐらい開く)なのに、こんだけ(両手をめいっぱい広げる)言うんですよ! たとえばその日のシーンは“誰それいる?”って顔を覗かせるだけ。でもそこに手榴弾のおもちゃがあったら“じゃあこれをコロンコロンって投げて滑り込んで入って、あーあぶねえあぶねえってやるのはどう?”とか(笑)」

―それは、役者として筧さんに染み付いてるものですか?

「染み付いてるっていうか、僕が演じる後藤田にもいろんな部分があるので。それをできるだけ見てほしいんですよ。だってほうっておくとどんどん主人公優先になっていって周りの人は軽視されるから(笑)。実は主人公って、生きている一人の人物としては他の人とおんなじなんですよ。たまたまたくさん映ってるだけ。それが作り手の意識として、つい主人公中心に物事を考えてしまいがち。ただでさえ後藤田って普通のシーンが多いんですよ。指令出してるだけとか、見てるだけとか。ほうっておいたら“こうしてこうしてナニナニするように。以上!”でやること終わっちゃうんです。ちょっと待て、と。ホントだったらオレが呼びに行ってみんなが揃って指令を出すのが順序じゃないかと。ならば呼びに行くところから始めねばならないだろう…って、全部段取りをやってみせる。賢い監督なら“なるほど、じゃあそのシーンを廊下から撮りましょう”って決断するんですよ。そうして、なんでもないワンシーンが膨らんでくる」

―出番が多くなってきたら?

「いろいろ余計なことやらなくてすむようになる(笑)」

―義務感なんですか?

「いや、戦いです。撮影は戦いなんです! 言われたとおりにハイハイやってたら、どんどん後ろにやられるわけですから。ただ、自己アピールだからといって嘘はやらないですよ。ホントにそうであって、そうしたほうがいいっていうことしか提案しないです。これは、映像の仕事において一番めんどくさく、かつ大切なことだと思っています」

―それって映像ならではですか?

「あー…考えてみれば舞台だって同じかもしれないですね。蜷川(幸雄)さんのシェイクスピア劇だって、なんにもやらないヤツは後手後手に回りますもんね。蜷川さんの場合は初めから“好きにやれ”って言ってくれますけど」

今朝も3時起床
間もなく打ち上げ。

―「失敗」をどう考えますか?

「それはたぶん、準備が足りてなかったということじゃないかな。あ、そこまで考えてなかった、…っていう」

―相手が伝え足りてない場合でも反省するんですか?

「それはイーブンじゃないですか。そういう時は失敗とは思わない。満を持して行ったはずなのに、そこまでは考えてなかったというのが失敗。今回の映画で糧になったというか、準備の大切さを実感したのは衣装合わせでしたね」

―制服は白シャツに黒のパンツ。私服は渋めの革ジャンでしたね。

「僕のなかに、手ぶらで衣装合わせに行っても決まらないという意識ができあがったんですよ。だから今回私服を決める際、事前に押井さんに方向性を聞いて、“それは『攻殻機動隊』のバトーのイメージですね”って提案したんです。それで、いつもお願いしてるスタイリストに、グワーッと、ホントにグワーッと革ジャンやら何やら集めてもらって、まずうちの事務所で衣装合わせ。2時間ぐらいかけて靴までコーディネートしました。それから実際の衣装合わせの時にそれを持参して“これでいいですね?”って」

―普段からそうなんですか?

「あらかじめ監督と十分話し合わないと、絶対決まりません。そのうえで監督が衣装さんに発注するなら、通常の衣装合わせでもいいんですけど、その準備の工程をすっ飛ばしていきなりやるとダメですね。経験上、4回ぐらいはかかります。ほとんど初対面の人たちと進める衣装合わせが、どれほど口の中が乾くものかわかりますか?(笑)。好みや役のイメージをはっきり伝えるべきなんですけど、最初は言いにくいので、みんなの前では“うん”“まあ”って相槌打っておいて、衣装合わせ終わってから“実はさあ”って耳打ちすることのめんどくささ(笑)」

―他にも「準備」にはもうまさに満を持してらっしゃいますね。

「いやになっちゃうほど、してます」

―NHKのインタビューで拝見したんですが、家を出る何時間前起床でしたっけ?

「7時に家を出るなら、起床は2時半から3時ですね。体操したりウォーキングするのに1時間半とって、4時にメシを食う。メニューは玄米か五穀米、味噌汁、サラダ、梅干し・昆布・つけもの、熱海の干物屋のおじさんオリジナルの抹茶と玄米を混合したお茶。前の日に奥さんがつくって冷蔵庫に入れておいてくれるので、チンして食ってます。これね、メシというより朝のスイッチなんですよ。あとはトイレに行ってから家を出る」

―いつからそうなったんですか?

「役者の仕事ってね、よほど特殊な役じゃない限り、セリフを覚えて体調管理して、現場で体を動かすことだけなんですよ。演技の良し悪しなんて、実際はあんまりはっきりしない。たとえば舞台なら、その日の本番に向かって行って“やり遂げた!”“今日1日終えた!”って達成感があるでしょ? 映像の場合はそういう感覚を得にくいんですよ。だから考えた。とにかく早く起きてあらゆる準備を済ませて、時間通りに現場に到着してカメラの前に立つ! それでその日は成功って。そうしようと自分で決めたんです」

―なるほど、達成感を得るポイントを自分で設定されたと。

「ええ。仮に次の日休みでも、翌日が撮影だと、時間をずらさない方が体調を万全に保てるでしょ。仮に2~3日空いても、やっぱりずらしたくない…って思ううちにずーっと3時起きになっちゃった(笑)」

―「50歳以降は楽しく生きる」ってご本で読みましたけど、仕事の準備はかたくなになってきてますよね。しんどくないんですか?

「楽しいですよ! 3時過ぎからウォーキングし始めるんですけど、夜のお店がまだやってて、そこを歩くのって非常に楽しい。それでお昼の3時にはその日の打ち上げが始まって、夜7時には寝る(笑)」

―なるほど、毎日成功があって、毎日打ち上げもあると。ちなみに今日はどういう予定ですか?

「午後2時過ぎには終わるから、3時ぐらいから焼肉屋さんで打ち上げかな(笑)。お昼は食べないから、実はもうお腹ペコペコです!」

1962年静岡県生まれ。大阪芸術大学在学中に「劇団☆新感線」で演劇を始め、卒業後は「第三舞台」に。野田秀樹、つかこうへい、蜷川幸雄ら名だたる演出家の舞台で絶賛を浴びるのみならず、ドラマ・映画・バラエティなど、活躍の場は幅広い。本文中の「著書」とは『群れずに生きる』(ワンテーマ21)。出演ドラマ『ボクの妻と結婚してください。』(BSプレミアム)が5月10日22時より放送開始。4月より『筧 利夫のサタ☆ハピ!しずおか』(静岡朝日放送)もスタート。

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

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