もうひとつのマンボウはウシマンボウ。 ― さかなクンのコミュニケーション力とは。

さかなクン

2015.05.28 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 SACO=写真
最新情報・貴重映像
満載の子ども向け映画

テーブル型の水槽が2基。丸いガラスの天板の向こうからこっちを見ているのはジョーフィッシュ。大きな目で私たちを視認しているのだとさかなクンが解説してくれる。水槽は、夢で見たのと同じもの。銀座の熱帯魚屋さんで発見したところ、所属事務所の社長がすぐに、水槽を製作している山梨の工場に連れて行ってくれた。そして千葉・館山の自宅と東京の事務所に導入。魚を俯瞰するから「バーズアイ水槽」と呼ぶらしい。…まだギョあいさつだけ。インタビューは始まっていない。テーマは水槽ではない。映画『さかなクン研究所 さかなの世界へレッツギョー! 飛ぶ! 闘う! 踊る! 編』のことを聞くのだ。

―登場する魚はさかなクンが選んだんですか?

「お魚はあらかじめ決まっていました。NHKの人気番組『ダーウィンが来た!』の、選りすぐりの貴重な映像をたくさん集めていただいています。でも私自身のコメントは考えさせていただきました。たたき台の台本をいただいて、そこに“これもぜひ!”というポイントをギョ相談。さかなクン的表現でお伝えさせていただきました」

―いちばん印象的だったのはムツゴロウですね。

「ギョギョ!!、やっぱりそうですよね! 旭川の映画館で親子試写会に参加させていただいたときに、いちばん歓声が上がりました。お魚なのに陸上で飛び跳ねて、目玉が出たり引っ込んだり、愛嬌もありますし」

―背ビレがすギョいですよね。

「ムツギョロウにかぎらず、お魚は、泳いでるときには意外とヒレをたたんでることが多いです。ブレーキをかけたり求愛や威嚇するときにバッと広げるんです。ムツギョロウのこの行動は威嚇と求愛です。何もしていないと棒のように細長いお魚ですが、産卵の時期になるとメスとパートナーになるためにオス同士が競います。ヒレを広げてカラダを大きく見せる“側面誇示”といいます。“オレの方が大きいぞ”“何を!! こっちの方が大きいぞ!!”という感じで。決着がつかないときにはジャンプで高さ比べとか体当りしたり噛み付き合ったりするんです」

―魚の生態が陸上で見られるのって貴重なんですか?

「ハイ!! なんであんなふうに陸上で元気に跳んだり、歩くように移動できるのか見てみると、胸ビレが筋肉の柄で支えられてるからなんですね。まるで私たちの腕みたいな格好になってます。それで泥の上も歩くように進むことができるんです」

―マンボウもよかったなあ…。

「マンボウとされていたお魚には、実は2種いたということがわかったんです。こちら、『日本産魚類検索』という、日本のお魚が全部図で解説されている大図鑑なのですが(電話帳サイズの図鑑のマンボウのページを光の速さで開く)…マンボウには、カラダの後ろにある舵鰭がなだらかなタイプともこもこしたタイプがいまして、これまではオスメスの違いじゃないかと言われていたんですが、DNA解析した結果、完全に種が違うということがわかったそうなのです。それでもうひとつのマンボウはウシマンボウと名付けられました。今回映画に出てくるマンボウは、館山の『波左間海中公園』というダイビングショップのみなさまがつくられている『マンボウランド』で撮影されたもので、この施設は海の中を大きな網で囲んでマンボウを飼われていて、ダイバーが一緒に泳げる施設なんですが、この映画の映像を見せていただいたら間違いなくウシマンボウもいましたので、そのように解説させていただきました」

―面白いですねえ。

「自然界への橋渡しというのでしょうか。映画をきっかけに本物を見たいと思っていただく…そこにつながるのがすばらしいと思います。お子さまがいらっしゃる方は、家族ぐるみで楽しんでギョ覧になられると会話が弾むでしょうし。見た後で実際に川や海に行かれると、一層楽しめるのではないかと。オトナの方にはぜひ!! “見たことある光景だ”とか“このお魚塩焼きにしたらウマそうだな”とかいろんなことを思っていただいて、忘れかけていた何かを思い出していただくのが、乙な見方だと思います」

好きすぎるから
引き寄せるのか

水槽の中でモアイの置物とならんだヒゲダイを指して「ヒゲに味覚がある」と解説してくれるさかなクン。ホウボウやカナガシラの仲間は胸にある指のようなヒレに味蕾細胞があって味がわかる話や、ハコフグやブダイが、パリトキシンという毒を持つことがわかった話などをしてくれる。

―いつ勉強してるんですか?

「勉強というよりお魚の本を見ているだけで心がなギョむんです」

―でも各地の水族館や漁港に行ったり研究者に会ったり、アマゾンを取材したり、聞くところによると、1年で全都道府県を網羅するとか。旅には巨大な本は持っていけないでしょ?

「あ、そんなことないです。わりとダンベル代わりに(笑)」

―はー。ところでさかなクンにとっての先生って誰ですか?

「幼魚(=幼い頃)のときからお魚が大好きで、毎日お魚屋さんや市場や水族館や熱帯魚屋さんに通っていて、そこでたとえば板前さんが、“オマエよく魚知ってんなあ! 今度釣り行くかあ!”と誘ってくれたり、お魚のプロの方々が丁寧に教えてくれたんですね。それが幼魚の頃から今まで何も変わってないんですね。自分にとってはお魚を毎日扱ってらっしゃる方は、大先生なんです。えらく上手な釣り好きの少年も先生。年齢も立場も関係ないです」

―なぜそんなにいろんな人と仲良くなれるんですか?

「たぶん、“お魚大好き!”っていう気持ちがすんギョい伝わりやすいのだと思うんです。会いたかったお魚に会えたときはもう“やった!ここにいたんだ~っ!”って跳んで喜ぶし、食べておいしいと“うひゃ~っ、おいし~っ!”ってなるから、“オマエ、ホント魚好きなんだな。今度船に乗るか!”って言っていただいたり。自然になんだかそういうふうになるんですね」

―“魚好き力”がすごい、と。

「それと、自分おっちょこちょいで、準備が足りてなかったりすることが多くて…そんなときに周りの方々がものすギョ~く心配してくださって“オマエ大丈夫か!”“このカッパ使え!”って」

―放っておけないんですね。

「はい! でも、いつも“ギョギョッ!”とか言ってるんで、数年前に結石ができてクルマのなかで“イテテテテテテテテテテ~”ってのたうち回ってたんですが、しばらく誰にも気にもとめられずに(笑)。それで救急病院に連れて行っていただいたら即入院。普段から食べ過ぎて“おなかイタタタタタタ~”ってなってるので、オオカミ少年化していたみたい…。おばあちゃんがよく言ってたんですけど、命まで取られなければいいのよって(笑)。それでこれまでの人生、周りのみなさまに助けていただいて、今元気でいられてるので、よかったと」

―なるほど(笑)。

「思うんですけど、ちっちゃい頃から、“このお魚に会いたい”っ考えるとフラ~ッと泳いできたり、絶滅種とされていたクニマスの絵を真剣に描いてたら、漁師さんから届いた箱を開けると本物のクニマスが入っていたり、“タモリさんに会いたい”と思ったら、番組に呼んでいただいて、プライベートでも親しくさせていただいたり…」

―今のお仕事の成り立ちもそんなところありますよね?

「ハイ! 最初にタコが好きになってお魚を好きになって、絵を描いて図鑑にするような人になりたいなと思って。タコの研究をして奥谷喬司先生のいらっしゃる東京水産大学(現・東京海洋大学)に入りたいなと思ってたら、お魚のことばっかり好きすぎて勉強をしなかったから入学できなかったんです…。ところが、奇跡のような巡りあわせで2006年に東京海洋大学のマグロのシンポジウムにお招きいただき、そこでお会いした当時の副学長・刑部真弘先生が笑顔で“テレビで見てるよ、何か一緒にできるといいねえ”っておっしゃってくださいました。そしたらその年の秋に客員准教授に任命してくださって。“エ~ッ!”て。刑部先生が推薦したくださったんです!! それで奥谷先生にギョ報告したら、“よかったですねえ”とお喜びくださいました。“私は名誉教授なので、大学に顔を出すことは少ないけれど、またどこかでご一緒しましょう”とお手紙をくださいました。その後、なんと!! お会いする機会をたくさんいただきました。今月もイカの講演会で(笑)。本田圭佑選手が小学校の卒業文集に“ミランで10番つけたい”って書かれた夢が叶いましたよね♪ 自分もそうなんです。幼魚の頃から神様のように憧れる奥谷先生のいらっしゃる“東京水産大学に入りたい!”って書きました。だから今度、小さなお子様の前でお話しするときに言おうかなと思ってるんです。卒業文集は、思いを込めて書くと、神様がそれを本物にしてくださる魔法のような宝物かもしれませんよって(笑)」

東京都生まれ、千葉県館山市在住。東京海洋大学名誉博士。小学2年生のときにタコに夢中になり魚を好きになって、中学3年生で、日本では珍しい水槽でのカブトガニの人工孵化に成功。2010年には絶滅したと言われていたクニマスを発見。ちなみにお魚は食べるのも大好き。「愛でる/食べる」の差は「活魚か鮮魚かの違い」だという。テレビ・ラジオ・講演会などでひっぱりだこ。公式Facebookはwww.facebook.com/sakanakun.official

武田篤典(steam)=文
SACO=写真

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