“今は、群れから秀でることが簡単な世の中”

羽田圭介「画一化しないように、もがくことが大切」

2017.02.28 TUE

フレッシャーズ 生活白書「R22」 > ロングインタビュー
羽田圭介
はだ・けいすけ
1985年東京都生まれ。2003年、デビュー作『黒冷水』で第40回文藝賞を受賞。15年、『スクラップ・アンド・ビルド』で第153回芥川賞を受賞。最新作『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』(講談社)は、変質暴動者(ゾンビ)が増え続ける日本における日常をシニカルに描きつつ、新入社員必読の強烈なメッセージを投げかける意欲作! ぜひ周りにも薦めよう
『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞したのが約2年前。メディア露出も頻繁。だが、メディアに出るには理由がある。この日もそうで、「少しでも自分の本を売るため」なのだ。Tシャツが新刊『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』の装丁なのもその一環。職業は骨の髄まで小説家だ。しかし、会社員生活も経験している。

「周りが就活で騒ぎ始めて、楽しそうで乗った感じです。エントリーシートがほぼ通っちゃったので、内定が出た3つの会社から決めました。明治大学の付属校に中学から通わせてもらっていたし、親戚や両親を説得するより、まず就職した方が楽だと思ったからですね」 

高3で書いた『黒冷水』でのデビューを経て、在学中から作家志望。会社勤めの傍ら筆を執りながらも、会社には何の不満もなかったし、当時書いた『ミート・ザ・ビート』で芥川賞候補にもなった。しかし「仕事の力の抜き方がわかったら、小説も全然書かなくなっちゃった」。そこで1年半の社会人生活を経て専業作家に転身する。

軽い気持ちで専業作家に!だが、待っていたのは閉塞感


「会社員から大海原に飛び出す苦渋の決断! みたいなことはなくて、軽い気持ちで。マンションも買っていたし、小説で食える自信はありました。でもいざそうなったら、何を書くか悩んで…“中の下〟くらいの生活でしたね。業界全体も、読者は減っても増えはしない。書店の文芸書コーナーは狭くなるし、僕の本はネットで指名買いするくらいしかない状況。公務員の安定に憧れましたよ」

それは自身の失敗というより、出版業界全体が閉塞する危機感に近い。そんな経験をしているからこそ、PRに余念がないのだ。状況が好転し始めたのは、『メタモルフォシス』を書いてから。

「初版4000部で最寄りの書店には置かれず、金銭的には何も変わりませんでしたが、周囲の期待感で充足できたんですね。人間の満足感って、お金より次への可能性を感じられるかどうかなのかもしれません。現実にはそう大きな失敗なんか、みんなしないでしょ。何もないところでひたすら耐えるような生活が大半なわけで。出口のないのっぺりした感じが実在で、それは誰しも訪れる感覚だと思います」

空気ばかり読まないで、群れのなかから秀でること


思えば最新作で絶賛PR中の『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』では、主人公のひとりである作家のKも、そんな生活に埋没している。Kを含め、画一化した文脈で思考停止した世間を“ゾンビモノ〟という枠組みで囲って描く、風刺的な一面もある作品だ。与えられた状況に疑問すら覚えないのは、死んでいるのと同じ。作家として活躍する人生の先輩からのメッセージでもある。

「結局、空気ばっか読んでないで、自分で考えるしかないんですよね。小説でも、そう新しいことはできない。でも自覚がある限り、その中でもがいていれば、ほかと違う光る瞬間があると思うんです」

大事なのは画一化しないぞ!という気持ちと姿勢。

「そこに早く自覚的になることが大切だと思います。今って、みんなスマートフォンとかパソコンでできることしかやらなくなったから、群れから秀でるのが簡単な世の中になったと思いますよ」

吉州正行=取材・文/小島マサヒロ=撮影

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