映画『ひるね姫』で真っ当な会社員(悪役)を熱演!

古田新太「仕事は太極拳。急所さえ突けば、勝てる」

2017.03.10 FRI

ロングインタビュー
ふるた・あらた
1965年兵庫県生まれ。大阪芸術大学在学中に、「劇団☆新感線」の舞台『宇宙防衛軍ヒデマロ』に出演し、いつのまにか所属。91年から『オールナイトニッポン』パーソナリティを務める。舞台・映画・ドラマなどの話題作に数多く出演。アニメ作品も『ポポロクロイス物語』(98年)、スタジオジブリ『となりの山田くん』(99)、『ギブリーズ』(02)や『ONE PIECE FILM GOLD』(16年)など多数出演。舞台劇団☆新感線『髑髏城の七人 Season 花 』がIHIステージアラウンド東京で3月30日(木)から開幕し、映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』では、野心溢れる会社役員・渡辺一郎を渋い声で演じる。緻密なプロットを美しい映像で紡ぐ、極上のエンターテインメント作品。3月18日(土)全国ロードショー
この日の古田新太さんは、キテレツな格好で現れた。場を和ませるための演出…というわけではなく、衣装。映画『ひるね姫』の完成披露試写会の舞台あいさつが間もなく始まるのだ。演じるのは悪役・渡辺一郎。だが、見方を変えればいたってまともな社会人。古田さんの型破りで愉快なキャラクターとは裏腹に。

嫌われたくないから、声優として違和感なく演じたい

「野心を抱えて仕事熱心で、会社員としては至極真っ当なんですよ。別にヤクザでも怪人でもないですしね。これが『ONE PIECE』とかなら『うらあぁぁああ!!』とかやりますけど、ある程度地位を持った企業人であるからには、実直さとか真面目さのようなものを表現しなきゃいけないと思いましたね」

『ひるね姫』はアニメ作品だ。舞台は東京オリンピックを3日前に控えた、岡山県倉敷市。自動車修理工の森川モモタロー(江口洋介)を父に持つ高校三年生のココネ(高畑充希)は、眠るたびにファンタスティックで不思議な夢を見る。そんな折、突然モモタローが逮捕されてしまう。どうやら父親の持つ“あるもの”が理由らしい。それを付け狙うのが、古田さん演じる渡辺一郎だ。東京に本社を持つ世界的企業の役員なのだ。

「夢の中でもちゃんと国を守ろうとしていたり、生き方は至極真っ当なんですよね。逆にモモタローなんか、野心がなさ過ぎて心配になるくらい。大人としては渡辺が正解ですね。目指すべきはそっち!」

現実世界と夢の中が次第にリンクしていく。その夢には、森川一家の大きな秘密が隠されていて…というストーリー。夢の世界における渡辺一郎は、ベワンという王国の家臣。夢と現実、過去と未来が絡み合い、メカニカルなアクションとハートフルな物語が同居する緻密なプロットは、『攻殻機動隊S.A.C.』などで知られる神山健治監督によるもの。

「神山監督との接点はもともとなかったんですけど、うちの奥さんが『攻殻機動隊』が好きで。うちにタチコマ(シリーズに出てくるマスコット思考戦車)がいっぱいあるんです。だから引き受けましたよ。『申し訳ないです。ここまでしかできていないんです』というやりとりがありました」

邦画アニメ作品の場合、完成状態でアテレコに臨めるケースはほとんどない。本作も、線画の状態で収録したらしい。

「でもね、充希と満島(真之介)はすでに声が入っていたのかな。その状態であてられたので、随分やりやすかった。おいらは声優のとき、最初の収録にされて、ガイドライン役やらされることが多いから」

その芝居はみごと。配役を知らされずに観れば、プロの声優が演じていると信じて疑わないだろう。ゲスト声優がキャスティングされた結果“ひとりだけ声が浮いている”という違和感のない作品だ。これだけ俳優陣が揃っているのに。

「本当はおいらもアニメとか洋画は、声優さんがやったほうがいいと思っているんで。やっぱり映像中心の俳優の芝居は小さいんですよね。ただ舞台出身の人たちは、それこそ野沢那智さんとか山田康雄さんもそうでしたが、芝居がデカいんですよ。だから声だけで演じる声優との親和性が高い。でも最近の若い役者は、うまいですよね。充希も舞台屋だからうまくて」

その点、様々な舞台に出まくり、ラジオパーソナリティもこなし、アニメ作品の仕事も数多く経験してきた古田さんは場数が違う。

「いや本当にね、アニメファンとか声優ファンの人たちに嫌われたくないから。エンドロールまで声優じゃないとバレない芝居をしたい。呼ばれて来ているんだからやっぱり声優としての芝居をしないといけないし、客寄せパンダじゃなくて『いい仕事しているな』って言われたい」

作り手側にしてみれば、古田さんに対する信頼感もあるに違いない。“ガイドラインをやらされる”というのはアニメ作品に限ったことではないのだから。

「とりあえず古田のスケジュール取れたら先に入れとけっていうのがあるらしいです。映画でもドラマでも。おいらが舞台屋なもんで、演出家の注文を聞く作業に慣れているんですよね。映像の人たちは自分のテンションをどこまで高められるかが勝負なんですけど、舞台屋は作品における自分の立ち位置を決めて、どれくらいのボリュームを出すべきかをコントロールするところから始めます。だから、便利なんだと思います」

さらに、気を遣い場を盛り上げてくれる。便利に使われるポジションは「あざーす」という感覚。基本的にはあらがわない。「いやでもここは…」と内心思っていたとしても、いわない。「それができてこその職人だから」。

「それでフラストレーション溜まるとかもないですよ。だいたい、監督やディレクターが笑ったら、勝ち。『笑ったじゃねーかよ、今』ってね」

基本的には仕事を選ばない。仕事の幅を広げられるから

そのスタンスに落ち着いたのは30代半ばのことらしい。

「うちの劇団のいのうえひでのりが『ゲストを呼ぶのに古田がいるとやりやすい』とか、蜷川幸雄さんとか野田秀樹さんに『古田入れておけば助かる』とか、こちとら番頭じゃねえんだ、便利に使いやがって! って思っていましたし、おいらはそういうことがしたくて芝居やってるわけじゃねえという気持ちがありましたけど、30代半ばくらいから、『みんなが重宝してくれるなんて、そんなにいる人材じゃないんだな』って思い始めたんです」

いい意味で欲が抜けてきたということ。だから基本的に来た仕事は受けるし、えり好みは仕事の幅を狭めるのでもったいないという感覚が強くなってきた。

「去年『ルドルフとイッパイアッテナ』で犬役やりましたけど、犬なんて何回もやってるし、昆虫までやってるわけです。だからそういうスタンスでいると、ありえない役が来るからかえって楽しい。ただ一回企画の内容聞いて、ドつまんなそうだったらやらないですけどね」

かといって、ドつまらなくない作品をすべてホイホイと受けられるわけではない。便利で気の利く職人は、どの業界においても引っ張りだこなのだから。

「まず舞台が3年前に決まっちゃうんで。そのうえで空いてるところに映画が入って、『稽古中だけどいいですか?』というところに、それでも大丈夫だというドラマが入ってくる。そりゃ一つの期間は一つの作品に向き合うのが正しいと思いますよ。舞台の本番が終わって、夜は別の舞台の稽古が入って。そこから高畑充希なんかと飯食いに行く。そりゃ飯食いに行くのを省けばいいんだけど、そうもいかない(笑)」

多忙を極めるが、まったくそうは見えない。不思議だ。

「力が抜けてるからだと思う。太極拳じゃないですけど、急所さえ突けば勝てるんですよ、ホントに。人前に立つのは緊張もするし、注文があれば力むべきところは力みますけど、それ以外ではなるべく映らない。出しろを少なくする。あとはギャップですよね。グローバルな見方での古田新太は、小太りのボーッとしたおじさんですが、急に踊り出したりすると、お客さんは『うそん!』ってなるじゃないですか」

それがラクだし、かっこいいのだ。だからずっと力が抜けていると思われたいし、それが古田さんの人間的な魅力にも繋がっているといっていい。とはいえもう50歳。映画の現場でも最年長というケースも少なくない。しかし「早く手抜きおじさんのイメージをみんなに植え付けたい」と、太極拳を極める気満々なのだ。だがもちろん、古田さんを語るうえでは“酔拳”の方も欠かせない。

「そこは当然、そう! 旅公演とかでは行く先々で飲んでますよ。もうだいたい決まってて、『今回は3日間しかないから、こことここ行って、ここは行けねえな』みたいな。長いロケなら初日によさげな店を地元の人間に聞いて、そこがおいしいというところをベースにフラフラする。ただ、時間で切り上げるようになっちゃいましたね。『じゃ、ここでお開き』みたいな。もう一軒行こうぜは絶対ない。シンデレラなんです。飲んでしゃべるの大好きですから、声かれちゃうんですよね。だいたい12時くらいまでかな。でもそれがその日の初回公演だから、戻ってひとりで飲み直すんですけど」

柳井隆平=取材・文/林 和也=撮影

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