足かけ4年で最新映画『ひるね姫』が完成!

アニメ監督・神山健治、壮絶な制作現場の2年半を語る

2017.03.15 WED


【プロフィール】 かみやま・けんじ 1966年埼玉県生まれ。代表作に『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ、『東のエデン』などを持つアニメ監督・脚本家。最新作となる映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』は、緻密なプロットを美しい映像で紡ぐ、極上のエンターテインメント作品。高畑充希、満島真之介、江口洋介、古田新太など“声”にも定評のある実力派俳優の掛け合いは必見だ。神山監督の4年にわたる苦労の成果は、3月18日(土)全国ロードショー 撮影:林和也
「仕事が忙しい…」。社会人なら当たり前に抱く感覚のひとつだろう。だが世界は広い。世の中には一般的なビジネスマンなんて足もとにも及ばないほど忙しい人たちもいる。たとえばアニメ業界。そこで働くプロフェッショナルは、どんな忙しさで、激務の合間にどんな息抜きをしているのだろうか。『攻殻機動隊S.A.C.』などで知られる神山健治監督に話を伺った。

アニメ映画は通勤して作る作品。頭脳労働ながら体力勝負

神山監督、実は3月18日(土)公開の映画『ひるね姫』を完成させたばかり。足かけ4年にわたる制作期間は、長い道のりであるとともに多忙を極めた日々だったとか。

「企画は4年前、脚本は3年前、実制作は2年半くらいです。ちょっと長めではありますが、2年以上かけることが現在の劇場作品のサイクルになっていますね。ただ今回は脚本に時間がかかりました。震災以降、どういう作品を作っていくべきかが見えない時期だったことも影響したかもしれません。日本全体が閉塞感や経済の停滞を感じているなかで、(『攻殻機動隊』シリーズなどのような)平和に対する問題提起のようなものより、もっと個人の思いに寄り添った作品の方がいいのかな、というような」

かくして完成したのは、日常を丁寧に描写しながら、ファンタスティックな夢の世界が現実とクロスオーバーする作品。岡山県倉敷市を舞台に、高校三年生の森川ココネ(声:高畑充希)が家族のピンチに立ち向かい、自身の出生の秘密を知る…というストーリーだ。練りに練ったプロットは、産みの苦しみをじゅうぶんに感じさせる。

「ここ(アニメ制作会社・シグナル)以外に自分の事務所もあるので、脚本はそこで書いていた感じですね。なるべく雑務に気を取られないで、自分と向き合う時間にしていました」

仕事の時間配分を自分で決められるだけに、作家の生活に近そうだ。我々のイメージする凄絶なアニメ制作の現場は、脚本が完成してから始まる。

「アニメっていろんな工程があるんです。実制作が始まると、まずはストーリーボードを作るプリプロダクション(制作準備)の作業が始まって、絵コンテができたらそれを絵にするアニメーターとの打ち合わせがある。今回は約1300カットを、正味60人くらいが描く。彼らと打ち合わせをする毎日で、一日中しゃべっている日もあるわけです。また、打ち合わせで浮かんだアイデアを具体的にアウトプットする時間も別に必要です。もう、結構なんてものじゃないくらい消耗しますよ」

なにせアニメの制作現場は、たいてい日勤と夜勤の2勤体制で24時間稼働。彼らへの指示は監督の仕事だから、寝る間を惜しむ必要がある。

「実写作品と違って、アニメは通勤しながら作る長期戦なんです。全員と顔を向かい合って、絶えずどうしたらいいかの答えを求められるなかで、先回りしてその答えを出す作業は、頭脳労働ながら体力勝負でもある。だからレッドブルとかやたら飲んじゃう」

終わったら飲みに行く…が難しい業界。必然的に、ひとりメシ


13時くらいに出社して深夜2時くらいに帰るのがお定まりのパターン。その後、世間との接点のために録画しておいた番組をチェックし、最低限のインプットのためにDVDなどで映画を観る。「そうじゃないと何も知らない人になってしまうから」。翻って“職場”の息抜きはどうだろうか。

「終わったらみんなで飲みに行くのが難しいんですよ。勤務時間がそれぞれなんでね。帰るときに今来たヤツもいるわけで、連れて行くわけにもいかないし、かといって連れて行かないと角が立つ。というか、そもそももうしゃべりたくないんですよね。その日すでに7時間くらいしゃべっていたりするので。だからひとりメシの時間が増えるし、かといってひとりメシはストレス…みたいな連鎖になります。あとは打ち合わせの合間に、気絶するために整体に行く。その繰り返しの1年半でしたね」

根本的な息抜きは、制作が終わるまでできないのだ。

「だから実写の監督さんで引退した人って、ほとんどいないでしょ? 実写なら、(素材をゼロから作らなくても)映画を撮ることはできるから。それに監督が黙っていた方がいい場合もある。でもアニメの場合は、すべてを創るから監督の手間がものすごく掛かる。有名な監督さんが引退宣言をされることも、わからないでもないですよ」

しかしそこには、毎回イヤだイヤだと思いつつも、戻ってきてしまう魅力がある。

「ストイックな作業だと思いますよ。でも大変であるがゆえに自分で作る醍醐味がある。延べ200人以上が関わって、できあがりに立ち会う人間は監督だけですから。クリエイティブな表現が数多くある中で、映画って全部が入っている贅沢なものなんですよ。こちらが任意で決めた時間をもらって、作り直しがきかないもの。なんというか、ビルを造る感覚に近いんじゃないかな」

作品の合間が息抜き期間。旅行に行きたい…作品のために




(c)2017ひるね姫製作委員会
あとはこうした取材を受けたり、劇場であいさつをしたりといった細かな作業は残っているが、公開を目前に控えた今、職場も解放ムードに包まれるのかと思いきや。

「ここが残酷なところで、アニメはそれぞれの作業が終わった瞬間に解散するんですよ。実写の方はクランクアップの節目があるけど、アニメはないんです。ひとり欠け、ふたり欠け、『ああそろそろ終わるんだな』という感覚がイヤで。だから最後までいる人になりたいと思ったんですよ。新人のころにね」

もう、ずっと仕事をしていたい! …ということではなく、「いや、大変だからさっさと終わりたいんですよ」と神山監督。かくして監督としての作業を終え、ようやく肩の荷がおりたらしい。

「いったい自分は何を作ったのかを振り返りつつ、その余韻をちょっと楽しむ時期ですかね。次回でやりたいことは、実はもうあります。というかそういうアイデアは、前の仕事に取りかかっているうちから出てくるんですね。でも今回は旅行とか行きたいかな。4年も掛けてしまって、その間にあまりインプットできなかったんです。それに買った本がものすごく溜まっているので、静かなところで読みたいなとは思っていますけど」

息抜きの時間の使い道も、なんだかんだで仕事に繋げてしまうところは、おそらく性分。イヤよイヤよも好きのうち、ということなのだろう。そう遠くない未来に、また産みの苦しみの日々が始まるハズだ。レッドブルとひとりメシ、気絶するための整体を合間に挟みながら。

(吉州正行)

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