ドラマや映画、音楽活動まで、随所でインパクトを残す名優

竹中直人「30代だしこうしようとか考えもしなかった」

2017.03.29 WED

ロングインタビュー
竹中直人
たけなか・なおと
1956年1956年3月20日、神奈川県横浜市生まれ。多摩美術大学入学と同時に映画制作を開始。在学中から『ぎんざNOW』に出演、モノマネで有名に。また劇団青年座の夜間研究員に。卒業後正式に入団。83年、『ザ・テレビ演芸』でグランドチャンピオンに。同時に俳優として活躍、シティーボーイズ、宮沢章夫らとコントユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」にも。91年には『無能の人』で映画監督デビュー。96年、NHK大河ドラマ『秀吉』で主演。ミュージシャンとしても活躍。今年4月19日には約6年ぶりのアルバム『ママとカントリービール』を発売。また3月17日よりNetflixで『野武士のグルメ』全12話を世界190か国で公開。共演に鈴木保奈美、玉山鉄二。原作の久住昌之のみならず『孤独のグルメ』チームが集結して作り上げた渾身のおじさんグルメファンタジー。超クオリティの高い飯テロを堪能すべし。
「もう11年か…そうやって聞くと、時間をどう捉えていいかわからないですね」

星柄がドット状に配されたディナージャケットに、レザー風のテクスチャーのパンツ、両耳に金のピアス。グラマラスにしてパンキッシュ。竹中さん、今年3月20日で61歳になった。

2006年4月、前年に公開された監督作『サヨナラCOLOR』がDVD化されるタイミングで、一度、R25は竹中さんにインタビューしている。その話をすると、驚きつつ、ため息つきつつ、笑った。

驚くほど変わってないのだという。

「いつの間にか還暦を超えてるんです、もうじいさんですよ。イヤんなっちゃう。61って中途半端な年齢ですよね(笑)」

現代の画面のなかに野武士がいる面白さ。

今回は、Netflixのオリジナルドラマ『野武士のグルメ』の話である。竹中さん、主人公の香住 武を演じている。香住は、定年退職したばかりのおじさんである。30年以上会社や社会の「ルール」…というよりは「常識」に真面目に向き合い、できるだけそこから逸脱しないように生きてきたように見える人物だ。チェックのなんでもないシャツを着て、パンツの裾はざっくりとロールアップ。暇を持て余しては、ニューバランスのスニーカーを履いてブラブラと歩きまわり、何かを食う。

『孤独のグルメ』の原作でも知られる久住昌之のエッセイを原作に『極道めし』の土山しげるが漫画化した作品の映像化である。

大まかに言うとおじさんがメシを食うだけのドラマ。でも、見始めると止まらないのだ。とにかく食べ物があまりにうまそう! 大衆食堂の鮭の塩焼きは、加熱されて表面に沸々と脂が浮き、箸でほぐすと中身が弾け出んばかり。喫茶店のスパゲティナポリタンがフライパン上で仕上がっていくさまはもはやスペクタクルで、昼間から開いてる酒場のもつと豆腐の煮物のぶるぶる度合いたるや!「食べ物と共演するのは初めてだった」と竹中さんは言う。

「(奥さん役の鈴木)保奈美さんとのシーンもありますが、僕はほとんど食べ物との対話でした。食べてる時に心の中で思ってることをモノローグで語るのがほとんどで、共演者がいないので、現場では本当に無防備でした。相手役がいて、それによって心を動かしていくのがお芝居なのですが、今回相手役が“食べ物”なので不思議な気分でした」

香住は毎回、食事中に己のアイデンティティーを試される。それも非常に些細な出来事で。気弱な定年退職者で、意外に未体験なことが多くて、結構おどおどしてしまうのだ。そこに現れるのが、野武士。

自分の腕だけを頼りに、周囲の視線を気にせず自由に生きる、自信に満ち溢れた存在。香住の空想の中に登場する彼が、香住の弱気に活を入れる。ある種、おじさんの生きる指針になるような男だ。

「同じ日本人でも人によって価値観が違いますからね。見た人がそれぞれの価値観で捉えていくだろうなと思います。僕は現場に行って自分が感じるままに動いただけです。でも現代の画面のなかに野武士がいるのは、なんだか変で面白いと思いました」

野武士を演じるのは玉山鉄二。黒澤映画ばりの野武士ぶり、まさに普通のおじさん・香住武と好対照。

「俺、ちゃんと演じてました? そう見えたのならよかった…(笑)。でも、今回、久住さんの作品に出られてとても嬉しいです。昔から大ファンだったんです。『かっこいいスキヤキ』とか、いくつか自分の監督作として企画を出していた時もありました。『孤独のグルメ』が注目されるよりもずっと前でした」

またこの人と何かを作れたらいいな

この作品は、昨年8月から11月にかけて撮影され、この3月17日に12話一挙に公開された。そうした公開形式はネット配信というメディアならではだし、さっき竹中さんの言った「食べ物と共演」というスタイルも、もしかしたら俳優として何か新たな糧になるものかもしれない。でもそもそも竹中さん、仕事をするときに「利害」とか「損得」とか考えたことがないという。

「現場に行ってどんな人と出会えるのだろうっていつも思っています。だから仕事を選んだりするのは苦手です。良い仕事を選ぶって考えが嫌いです。だったら最低な仕事もしようぜって思ってしまう」

以前、竹中さんはインタビューの中で映画を監督することの喜びのひとつに「現場に最後までいられる」ということを挙げていた。俳優は自分の出演シーンが終わると帰らなければならない。監督は帰らなくてもいいのだ。仕事を選ぶ基準も、ないのだという。

「どんな仕事も呼ばれたらすぐ行ける俳優でいたいんですね。“脚本読んで、うん!面白い脚本だ、やるよ! ってのが、照れちゃいますね(笑)。あなたと一緒にやりたいって声をかけていただけるのはありがたいことですからね。その現場でどんな人に出会えるんだろう…と思うことが、未知なる世界の面白さだと思います」

竹中さんにおいては音楽もまたそれで、このドラマのエンディングテーマを作詞して歌っているのだが、以前に『玉置浩二ショー』(NHK BS)に出演したのがきっかけで、玉置さんから「アルバム作ろうよ」って声をかけられ、4月にはアルバムをリリースする。

「まるで夢のような出来事です。音楽は昔からずっと大好きで。インディーズですが、今回の玉置くんみたいに、不思議と“音楽を作ろう”って声かけてくれる人がいてくれるんです。27歳で初めて出してから今回で9枚目のアルバムです。最初は桑原茂一さんと出会って、次は小林克也さんと、その後、高橋幸宏さんとは3枚も作っちゃったし、井上大輔さんとも。、こんなに続けてこられて、まさかNetflixでドラマのエンディングテーマになるとは想像もしていませんでした」

誰も知らない、自分の好きなものを探す。

59歳の時に、仲井戸麗市さんが発起人になり「還暦祝い59歳ライブ」を行った。

「還暦って、響きも照れるし、みんな還暦になるとお祝いをするのがあまりにも照れくさかったのであえて1年前に。スカパラや斉藤和義くんや夏木マリさん、稲垣潤一さんなど沢山のミュージシャンがゲストで来てくれて」

そして還暦記念は華麗にスルーし、今年、61歳のバースデイライブを行った。タイトルは「とうとう61になっちまった! どうする直人?!の小さなLive」。

「どうする直人?!」っていう感じなんですか? と尋ねると、それがまさに変わらない部分で。

「子どもの時からずーっとそういう感じです。すごく弱気だし、3月生まれなので、みんなより1年遅れで自分だけ取り残されてる感がずっとあって、でもきっと大人になったらもっと強くなるんだって信じていたのに、何にも変わらない(笑)」

30歳でも迷っていた。

「安定しているものはなかったですね。自分の定義を決めるのも大嫌いでした。“30代だからこうしよう”なんて考えもしなかった。僕にとって重要だったのは、出会った人たちと何を作っていけるのか…それだけです。どういう人たちと出会えていけるのだろう…とそれだけです。あとはずっと迷ってましたね。これでいいのかな? どうなっちゃうのかな? って。それは今も変わらないです(笑)」

子どもの頃から好きだった映画を大学時代から撮り始め、素人参加番組に出て、モノマネで活躍し、映画の演技をきちんと学ぶために青年座の夜間部研究生から正式な団員になり、27歳で出たオーディション形式のお笑い番組でグランドチャンピオンに輝き、タレントとして名を知られるようになり…。という状況だったけれど「世間は冷たい」「いずれ飽きられる」という意識は常にあったという。

「RCサクセションが3人編成だった時、本当に大好きだったんです。暗くて、でもエネルギッシュで怒りに満ち溢れていて。でもいつの間にかストーンズみたいになって、大メジャーになっちゃって、それはショックで、みんなのものになっちゃった気がしたんでしょうね。僕は、誰も知らない、まだ誰の目にも止まっていないものを探すのが好きなんだと思います。すでに評価されたものを後追いしてもつまんないじゃん、みたいな意識があるかもしれないですね。自分だけの好きなものを探したい…っていうか、有名になることは決して悪いことではないけれど、売れてるから良くて売れてないからダメとかいう判断基準も自分の中にはないし、でもやっぱり誰もが知ってるものよりも、オレしか知らねえものを見つけたいという精神みたいなものはずっと自分の中にあると思います」

それはたぶんファンとして好きな誰かを見る側の視点だろう。ならば、提供する側としてはどんなふうに考えているのだろう。尋ねると、竹中さんは言った。

「よくわからないです。決して…理屈じゃないものです」


武田篤典(steam)=取材・文/稲田 平=撮影

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