「いろいろあっても、最後に笑えればいいんじゃない?」

中村雅俊

2008.06.19 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 text ATSUNORI TAKEDA 稲田 平=写真 photography PEY INADA 奥田…
俳優であり、歌手である。歌うのは“中村雅俊の歌”

深夜オフィスでひとりキーボードに向かっているとき。吊革につかまったまんまひざがカクンカクンと折れた瞬間。待ち合わせをするカップルを横目に取引先へ急ぐ夕刻(しかも叱られに)――そんな折々に、中村雅俊の歌が聞こえてくれば、たぶん泣いちゃうだろう。男はいかに人生を生きるのか。泣きそうになるほどつらいできごとや挫折をどんなふうに取り込んでいけばよいのか。骨太なメロディに乗っけて、ぶっきらぼうに語りかける。

「人生って失敗するときも多々あるよね、と。それをどう考えればいいかというと“最後に笑えればいいんじゃない?”っていう。その方が楽なんですよ。3回失敗しても4回目に成功したら、その3回分って大した問題じゃないわけでしょ。俺の歌の詞にもあるけど、“あんなこともこんなこともあったけど、まあ俺の人生よしだな”って死ぬときに思えるみたいな、そういう生き方って幸せじゃない? それを“雑”と感じる人もいるかもしれないけれど」

『涙』というこの歌、詞・曲とも自作ではない。だが、この人が歌うと、途端に“中村雅俊発信”のように感じられてしまう。中村雅俊がまさに考えていることを歌にして、伝えようとしているように思えてしょうがないのだ。

「きっと中村はこんなこと考えてんだろうなって書いてくれた詞ですよね。俺が書くと結構甘っちょろい詞になる(笑)。でも、ここが“俺の歌”である所以だと思うんですが、結局自分で歌ってみないとわからない」

デモテープには作者の仮歌が入っている。聴いて「いいな」と思っても、それだけでは決まらない。

「歌ったときに“これだ”ってわかるんです。桑田(佳祐)くんだとか飛鳥(涼)だとか小田(和正)さんだとか、これまでいろんなアーティストの人にも書いてもらったけど、歌うとやっぱり俺の曲になっちゃうんですよね」

一流の俳優である。俳優としてどんなスタンスで歌に向かい合っているのかを尋ねたら、首を捻った。

「俳優が歌を歌っているんじゃないんです。中村雅俊という俳優がいて、中村雅俊という歌手がいて、という意識。“歌は洒落でやってんだよ”みたいなエクスキューズはありません」

ドラマに主役デビューしたのと同じ年に歌手としてもデビューし、コンサートツアーも行った。それ以来34年間、途切れることなくコンサートは続いている。これまでに行った本数は1300を超えるという。

「もともと俺、音楽が好きだったんですよ。学生時代には、それこそ日記のようにオリジナル曲を書いてたしね」

“もともと”というのは宮城県で過ごした少年時代。中学から友達のエレキでベンチャーズをコピーしていた。“日記のように”は慶應の学生時代。ESS(=英語会)に所属して英語劇をやりながら、曲がレコードになることを夢見た。

すべて一等賞のデビュー。あとは、どうするのか

実は、大学時代にデビューし損ねたことがある。所属していたESSの舞台ディレクターの勧めで、ある曲を歌ってレコード会社に売り込んだのだ。

「みなみらんぼうさんが書いた『ウイスキーの小瓶』っていう曲があって、それを俺が歌ってデモテープ作ったんです。そのディレクターは奈良橋陽子っていって、後に『ラスト・サムライ』とかのキャスティングディレクターになる女性ですよ。ダンナのジョニーは、後のゴダイゴの事務所の社長」

結果は全敗だった。

「歌は、まあスケベ心でした(笑)。そのころは、とにかく舞台で芝居をやりたかったんです。ESSでやってたのは英語劇で、とにかく動きも大げさだった。“oh!”とか“what?”とか言いつつ『キレがないんだよ! 外国人に見えないぞ』って。当たり前じゃないか、日本人なんだから(笑)」

すでに大学3年も終わりかけていたけれど、就職のことなんてまったく考えず、ただただ「舞台で芝居」の一心で、文学座を受験。40倍以上の競争を勝ち抜き「なぜか」合格する。

大学4年の4月に研究生として入団し、その年の12月にはドラマ『われら青春!』の主演が決まっていた。

「普通に稽古してたら、6人ぐらい残されて、岡田晋吉さんという、『太陽にほえろ!』を作ったプロデューサーを紹介されて。先生役を探してるからって、なぜか『太陽にほえろ!』のマカロニ刑事のセリフを言わされて…オーディションっていっても15分ぐらいでしたね。2週間ぐらいしたら文学座の映画放送部の人に呼ばれて『中村、オマエ主役になったから』って。そんなに簡単に決まるのかってびっくりしましたよ(笑)」

このドラマは、65年の夏木陽介主演『青春とはなんだ』から始まる、日本テレビの学園青春ドラマの系譜だ。

「いくら聞いても、なぜ俺だったのかは教えてくれなかった。『背がデカかったからな、オマエは』って言うだけ(笑)。たぶん、言葉で説明するようなことじゃなかったのかもしれないですね」

74年の4月からドラマが始まると、雅俊さん演じる太陽学園ラグビー部の熱血教師・沖田 俊は大人気を得た。そして同じ年の7月にはドラマの挿入歌「ふれあい」で歌手デビュー。

「当時の先生役の俳優は、レコードを出すことになってたんです(笑)」

それがオリコン10週連続1位の大ヒット。11月には初のコンサートを行った。それが今年まで途切れることなく続いている。単なる“歌う青春スター”ではなかったのだ。が、当時は、その後三十数年もライブを…俳優活動を、続けられると思っていなかった。。

「主役でデビューして曲もヒットして、すべてが一等賞じゃないですか。もうあとは落ちるしかない。よく、売れなくなったら八百屋さんをやるって言ってました。店に“中村雅俊コーナー”を作って『ふれあい』流して、『この歌知ってる?』って(笑)。そういうエクスキューズをしなくなったのは『俺たちの旅』からでした」

大学生・カースケと、オメダ、グズ六の日常を描いた。75年秋の作品だ。

「なんとなく“等身大”でやろうと思ったんです。下駄で学校に行ってたし、米軍の払い下げのジャケットも着てた。『そういえばバイトばっかだった』『じゃあバイトをやる若者にしよう』って、当時の自分たちを重ね合わせて役を作っていったんです。俺たちや脚本家の鎌田敏夫さん、プロデューサーの実体験を織り交ぜてストーリーを作って。上がってきた脚本を読んで驚いたんです。ドラマがなかったから。大学生の日常だけ。こういうもんか、と思いながらやっていたら、途中からわかったんです。“俺はこんなふうに仕事に取り組んでいこう”と」

手応えを感じたのだ。

「自分がいまやんなきゃいけないことをひとつずつ決めて、ただそれをやっていこうと。起こりもしない先のことを考えてもしょうがない。いつも1本だけ。1本に全力投球…まあ俺、楽天的だから“なんとかなるだろう”とは思ってましたけど(笑)」

そのままでずっと来た。若い感覚で闇雲に進み、絶えず迷いは持ちながら。

「そのモヤモヤ感が抜けたのは50歳くらいかな。ずっと狭間を生きてる感じがあったんです。若いんだか年取ってるんだかわからないし、“自分はこうなんだ”って決めつける作業は要らないと考えていながらも、それでいいのかと思ったり。長い試行錯誤の時期が過ぎて、自分というものがようやく客観的に見られるようになってきた」

結果、中村雅俊は老成したのか――。全然、変わらないのである。

現在、57歳。多くの読者のダディぐらいの年齢であるはずだ。しかし感覚としてはまごうことなきアニキ。「“いい歳の大人はこうだろう”って、折々、生活のなかで気づかされるんです。俺自身、ある部分は結構大人だぞって自負はあるんですが、ある部分は完全に未熟なんですね。いい歳してまだ青臭くやってる。物わかりのいい大人のゾーンには入っていない。“そんなこともわかってないんスか”って言われる。俺の背中のランドセルはまだまだいっぱいですよ。やんなきゃいけない宿題が、たぶんいっぱい入ってるんです。落ち着いて横から世の中見てるのはつまんないじゃないですか(笑)」

1951年2月1日、宮城県生まれ。慶應義塾大学在学中の73年、文学座研究生に。翌年『われら青春!』で主役デビュー。同じ年に「ふれあい」で歌手としてもデビュー。その後もクラシックスとなった『俺たちの旅』、高杉晋作を演じたNHK大河ドラマ『花神』『ゆうひが丘の総理大臣』『おしん』『誇りの報酬』『夜逃げ屋本舗』など、テレビ・映画を問わず活躍。昨年にはアメリカ映画『The American Pastime』に出演、ますます活動の幅を広げる。歌手としても「心の色」「恋人も濡れる街角」などヒット曲多数。最新シングル「涙」は6月25日リリース。9月6日より、サンパール荒川を皮切りに全国約20カ所でのツアーも予定。関東での公演は、9月20日神奈川県民ホール、ファイナルの12月6日中野サンプラザホール。また初のライブDVD『LIVE SONGS at武道館』が7月23日リリース。詳細は

■編集後記

「70年代後半はちょっと不安でしたね。大河ドラマで高杉晋作を演じた後、『俺たちの祭』というドラマをやったんですよ。劇団の研究生の話。堅苦しくて重い話で、視聴率が全然芳しくなかったんです。1年間やる予定だったのが3クールで終わってしまって『あとの1クールはパーッとやろうぜ』って(笑)。それで『青春ド真ん中!』っていう学園ものを結構気楽にやったら、視聴率をとったんですね。それで『ゆうひが丘の総理大臣』を作ることになったわけです」

武田篤典(steam)=文
text ATSUNORI TAKEDA
稲田 平=写真
photography PEY INADA
奥田ひろ子(LPl)=スタイリスト
styling HIROKO OKUDA
鈴木佐知=ヘア&メイク
hair & make-up SACHI SUZUKI

関連キーワード

注目記事ピックアップ

 

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト