「今は、映画を作り続けていたい」

オダギリジョー

2008.06.30 MON

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 text ATSUNORI TAKEDA 森山雅智(vacans.inc)=写真 photography …
自分で道を切り開く。演技も日常も

「行かなきゃどうにもなんないと思っていました。岡山という田舎に住んでいて、何かをしたいんだけど、何をすればいいのかわからなかったんですよ。文化だったり…何もかもが遠いですから。映画は好きだったんですが、関わり方すらわからない。日本から出ないと何も始まらないような気が、勝手にしていたんですね。何かを大きく変えないと、面白いものは生まれないんだろうなという感じがあって」

映画については「仕事にしよう」というまでのリアリティはなかった、現状を変えるための舵切りだ。実は、高知大学の理学部には合格していた。

「そのまま大学に行っていれば、未来は予想できる範囲内でしたね」。

こっちの方には「たぶん普通にコンピュータ関係で働く」みたいな、漠然とした将来像が浮かんでいたらしい。

アメリカの大学で彼は、監督コースと間違えて俳優コースを受講してしまう。しかし見事にハマるのである。

「大学の演劇部が学校のなかで毎週舞台をやるんですよね。その裏方をするという授業があったんですよ。それに入って1カ月の公演にくっついてみると、役者のコンディションによって舞台が毎日違うものになっているんですよね。お客さんの空気で役者の芝居が生きるときもあれば、逆に死んじゃうときもある。そのリアルなライブ感を横で1カ月観ていると、すごく役者って人間っぽいんだなということを感じ始めて、そこからですね、役者の面白みを追いたくなったのは」

2年で帰国。演技を基礎から学び直すべく、ある養成所に入る。

「日本の養成所にも様々あると思うんですけど、そこのやり方は、簡単に言うと僕がアメリカで勉強していた方法論の延長にあったんですよ。だから信じることができた」

価値観的にはカッコ悪いと思えることも少なからずあり、反発もした。

「基本的に(演技の)勉強ということなので、先生たちが例を出すんですよね。それだけが正解だとは思わなかったということですね。そのやり方以外にも、こういう角度からも、違うアプローチでもいけるんじゃいないかということをやっていたんでしょうね」

中学以来“孤高”がトレードマークであるにせよ、ハタチそこそこの俳優候補生が、すでに自分のやり方にこだわっていたのだ。いったい何を根拠に。

「きっと僕が理系だからですね(笑)。数学的に考えるんでしょう。数学って答えの導き出し方が何通りもあって、それを考えてしまいますよね。国語とか英語には“導き方”なんてないでしょう…答はひとつです。たぶん、これは生まれもってのものなんでしょうね。いろんな導き方をしちゃうんです」

ひとつの演技をどうするかということはもちろん、人生の作り方も。

ビジョンとぶつかり、歩み、30歳ですべてを出し切る

99年に舞台デビュー、翌年にはテレビに主演デビュー。バラエティ番組に出演することで、演じたヒーローのイメージを払拭し、その後『初体験』、『サトラレ』などのドラマに出演。映画初主演は03年の『アカルイミライ』。

俳優としての自身のプロデュースの仕方が、明確に見えるのである。

「かなり昔から、その時々においてのビジョンは持っていました。まったく現実味のないものもありましたが、自分の目指す範囲を…イメトレしてましたね。ポイントは年齢じゃなかった気がします。それよりも、“道選び”をしっかり考えようとしていましたね」

どんな人と出会い、どんな作品に参加し、自分の思っている自分になろうと心がける“道選び”はオダギリジョー内部の話。実践していく美意識や美学の問題だ。でも一方で俳優とは仕事である。オファーがあって演じて報酬が生じる。経済活動でもあるわけで。

「(そのバランスが)取れないことが多かったんですね。それでよくぶつかってきました(笑)。そこは、一生折り合いがつかない部分でしょうね」

しょうがないことなのかもしれない、と思えたのが、“突き抜けた瞬間”。

「まあ結局、そこで何かを作りたいのは僕だけじゃないので、自分の自我だけを押し通してもいいことにならないことも多いから。それならば、自分のやりたいことがあるなら自分で作った方が早いじゃないですか。そう思えるようになったんですかね」

ぶつかりぶつかりやってきた日々があっての話だけれど、引き金のひとつは、自ら監督をしたという経験。27歳で『バナナの皮』という作品を撮った。

「自分で脚本を書いて自分でカメラを回して、役者さんを相手にして。役者さんには役者さんの考えがあって、役者としての僕はそこを、我を張って粋がってやっていたはずなのに、監督としての僕は“そんなこと大した問題じゃない”と思っていたんです。本を書いたのは自分だし、この作品のポイントはわかっているんですよ。そこで役者さんが質問したりとか、“こうしたい”って言ってくるのは、僕にとってはどうでもいいところだったりするんですね。だからやりたいようにやってもらっていいし、もしそぐわないのであれば“止めてください”と言うだけの話。単純に言うと“映画は監督のものなんだな”と思えたんですね。役者は結局、その監督が作りたいものに対して手助けをするのがいちばんいい距離の取り方なのかもということに気がついたんですね」

06年、カンヌ映画祭でのテレビインタビューでオダギリジョーは俳優を辞めてもいいというような発言をする。

「『ゆれる』という作品で、やれることは全部やったという勝手な想いがあったんです。だから、“あと2~3年続けたからって、新しいものは(自分の中からは)出ないよ”っていう気持ちもあって。またまた勝手な意見なんですけど、その時期、関わりたいと思える作品がどんどんなくなってきたんですよ。魅力的な作品がないことに苛立ってて。今振り返ると、すごく日本映画に期待していたんですよね。もっといいものを作りたいという想いが、言葉としては裏腹に“辞めてやりたい”みたいなことになったんじゃないかな。」

今はもうどうでもいい。投げたり諦めたりしたわけではなく、両手を離して映画の周りを漂っているというか。「そんな時期すらもどうでもいい。面白くならないのなら、関わらなきゃいいだけで、その結果役者という仕事をしないならしないでいいし。話を戻すと、自分が面白いと思うものだけを作っていけばいいんじゃないかなと思うようになってきたんですね」

先日は岩松 了監督の『たみおのしあわせ』では、ホントにさえない青年を普通に演じた。父親役の原田芳雄とのやりとりも、観ているあいだ、親子としか感じさせない。リアルというより、普通。それでも役者は続けていて…。

「いろんな芝居のやり方を試してみること、そうして自分が関わったことで作品がいいものになってほしいですからね。そこでモチベーションを保ちたいんですね。だから今は、どちらかというと制作側に気持ちが近いんですよね。それ(『たみおのしあわせ』)は、岩松さんが作りたいようにヘルプしたかっただけなんです。だから、好きな人のために自分ができることをしてあげたい、ということになりますね」

「出し切った」という『ゆれる』から3年、雷に打たれるように新しい何かが生まれてきてはいないのだろうか。

「期待はしたいですけどね。僕はものを作っていきたい。他のもの作りの人から刺激を受けたいですし、雷に打たれるようなできごとがたくさんないと、自分で新しく何かを作ろうという気持ちにもならないかもしれないし。何かしらそこで他の人たちと競い合っていたいとは思っています」

それは必ずしも映画とは限らない。

「まあでも…乱暴な言い方ですけど、映画に喧嘩を売ったのは僕なんです。勝手に『映画はダメだ』って言っておいて、映画で勝負をつけずに逃げるのは失礼なので。だから映画にしておいた方がいいんじゃないかと思います」

オダギリジョーは、取材日には32歳と107日であった。そのときの“今のビジョン”は以下の通りだ。

「今は、映画を作り続けていたいです。作品の質とか量の話ではなく、続けるということをしていきたいですね」

1976年、岡山県生まれ。おもな出演作に『アカルイミライ』(黒沢清監督)『血と骨』(崔洋一監督)『オペレッタ狸御殿』(鈴木清順監督)『ゆれる』(西川美和監督)『蟲師』(大友克洋監督)『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』(松岡錠司監督)など。最新作『たみおのしあわせ』(岩松 了監督)は7月19日よりシネスイッチ銀座、新宿バルト9ほか全国順次ロードショー。

■編集後記

鈴木清順との仕事がなかなかにショッキングだった。「僕が勝手に感じたんですが、清順さんはたぶん役者も撮影道具のひとつとしか思ってないんですよ。風景があって。その前に人間が立っていて。それだけでいいんですよね、きっと。俳優がどういう芝居をしてもどうでもよくて、違ったら直せばいいだけで…」。オダギリジョーが自身の初監督作『バナナの皮』で得た「映画は監督のものである」という想いは、鈴木清順監督に出会うことでより大きくなった。

武田篤典(steam)=文
text ATSUNORI TAKEDA
森山雅智(vacans.inc)=写真
photography MASATOMO MORIYAMA
西村哲也(holy.)=スタイリング
stylist TETSUYA NISHIMURA
市川土筆=ヘア&メイク
hair & make-up TSUKUSHI ICHIKAWA
岩城浩司(vacans.inc)=イラストレーション
illustration KOJI IWAKI

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