「もっととりとめもなくいろんなことに」

石坂浩二

2007.08.02 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 text ATSUNORI TAKEDA サコカメラ=写真 photography SACO CAMERA
ポケモン出演のわけ。ポケモンの役作り

「去年は甥の子どもと、その前は一番若い姪っ子とだったかな…ポケモンの映画は、過去の3作ぐらいを観てるんですよ。そのつど、作品に何らかのテーマが込められているんですね。たとえば去年は地球の環境問題。とりとめのないアイデアから始まっているんですが、そこで必ず何かを語っているというまじめさが、意外に好きでした」

ポケモンの映画に石坂浩二。しかも演じるのはポケモン役。 “時”を司るポケモン、ディアルガと “空間”を司るパルキアとの激しい争いで、異次元空間へと追いやられたアラモスタウンを崩壊の危機から守るキャラクターだ…いや、読者のみなさんが非ポケモン世代であることはわかっている。でも、ニヤニヤせずにまじめに読んでください。ここには以下のような深遠なテーマが込められているのだから。

「すべてのものを無気力にし、“ないもの”にするのがディアルガとパルキアなんですね。“無”というものが一番怖いと訴えているんです。それを止めるために出てくるダークライは、あらゆるものの“陰”です。今まで人間の心の中にあった暗い部分が積み重なって実体化して立ち上がるという発想がすごくおもしろい」

このオファーを受けようと決めたのはテーマの面白さもさることながら、「それが表面に押し付けがましく出てきてないところがいいんですよ。僕はあからさまなプロパガンダ的なものが好きではないので(笑)」。

それは役を演じていないときのさりげなさを見てもよくわかる。絶妙に差し挟む蘊蓄。意見ではなく事実に基づいたコメントの数々…『開運! なんでも鑑定団』とか『世界ウルルン滞在記』とかね。とまあ、各方面で活躍するが、意外にもアニメーションの声優は初体験だったという。

「でも、ポケモンに対して特別に“とんでもないものをやるなあ”とは思っていませんでした。実は僕、ここ2年間、NHK-FMのラジオドラマで『古事記』をやっていまして。ご存じのように、登場人物が人間じゃないんですね。最初は神々の勢力争いですからね」

石坂浩二はダークライとしてよりも、おそらく金田一耕助としてよく知られる、もちろんそれだけではないけれど。31年前の『犬神家の一族』が最初で、続いて4作演じ、06年の“犬神家”リメイクで、27年ぶりに金田一を演じた。このときの4カ月間の撮影で、過去の金田一でやり残したことに向き合い、いい具合に修正できた、という。

「役を作るのはやはり自分だけでは難しいですね。今まで出てきたキャラクターとの絡みがあれば想像もつくんですが、なにぶんダークライも、他の2体も映画初登場ですからね。何通りかを用意していって、最終的には録音の時に決めました。普段、役をやるときは、自分の芝居的な身のこなしから入っていくわけです。セリフ回しは周りの方たちのお芝居を見たり、やりとりのなかで作っていきます。そういう意味では、これはやりとりがないんでね…返事がないわけですから。敵はふたりとも機械音ですからね(笑)。後で入れると言われたので、実際は僕ひとりで叫んでいたんですけど」

やったことのないことを。それがなんであろうと

舞台挨拶の“鑑定団”発言は、会場のお母さんを狙ったという。だが、子どもたちにもきっちり刺さった。しかも、このおじさん(66歳だ)が新たなポケモンを演じ、“きんにくつう”に苦しんだことまでしっかり知っていた。いろんなことをしているからだ。

俳優の仕事にもバラエティ番組にも幅広く取り組む。今回はポケモンだ。その根っこは何だ。

「27歳のときに『天と地と』という、大河ドラマで上杉謙信役をやらせていただいたんです。それがそろそろ終わりというタイミングで、かなりたくさん時代劇の仕事がきたんです。来る仕事全部時代劇(笑)。そのときに一番感じたのが、 “なにか一つのことに固まりたくないな”“もっととりとめもなくいろんなことに触れていきたいな”ということ。それで最終的に『ありがとう』を選んだんですよね」

ホームドラマの王道である。バカ呼ばわりされたという。時代劇の仕事を選べば、人気の拡大も確実だったのに…しかしこの『ありがとう』、70年から4シリーズが作られ、第2作では56.3%という驚異の視聴率を獲得。「バカ」の声は消えた。

「やったことがないものとか、ジャンル的に新しいものには惹かれるんですよ。かつて何回か言われたことがあるのが、“石の上にも三年”とか“臥薪嘗胆”とかね。日本のことわざって、一つのところで我慢しなさいってばっかり(笑)。あと“二兎を追うもの一兎をも得ず”。でも僕のすぐ後の人たちには、いろんなことに興味をもってやっていくのが、自然だった気がしますけどね」

ただ、なんとなく、面白そうだから。「そういう意味では27ぐらいの時に『天と地と』をやれたのが幸せだったなと思います。1年以上、上杉謙信というひとつの役に携わることで、自分なりに“いろいろやってしかるべきだよ”って納得することができたし」

『天と地と』はドラマ初のカラー作品だった。つまりこれ自体が新しい試み。

なんでもやってみようという精神の種は、すでにその前からあったのだ。

石坂浩二は、慶應大学在学中の62年、エキストラのアルバイトを経てドラマデビュー。本当は劇作家になりたかったという。大学卒業後は劇団四季の演出部に所属。作り手のさまざまを学びながら、演じることも続けていた。

26歳で四季を辞め、演劇界の帝王と呼ばれた劇作家の菊田一夫と仕事をする。そのとき「舞台の袖の向こうにはどんな世界が広がっているの?」と問われた。舞台に現れない部分を豊かにせよと、世界一周の航空券をプレゼントされる。パリ、ニューヨーク、ロンドンで、ミュージカルからストレートプレイからトラディショナルプレイまで、あらゆるジャンルの演劇に浸ったのであった。

「日本ってジャンルを区切りすぎるんです。発達的に考えると、猿楽があり能があって狂言があって、歌舞伎にいきますね。それから新劇と呼ばれるものがあって、新国劇、新派がある。その新派がアンダーグラウンドになって、ミュージカルになって。それぞれのジャンルで生きているわけですよ。当時ロンドンでナチスの制服着てやる『マクベス』を観ました。イギリスではシェークスピアをトラディショナルプレイだとか全然言いませんからね。ただ単に“演劇”なんです。フランスも同じ。日本だけが古い演劇を世襲的にやっていてジャンル化してる。フランスで観光案内をやっているおばあさんが言ってました。日本人ほど絵のタイトルを知りたがる民族はいないって。“日本語でどういう意味?”って。そんなことより絵を見りゃいいのにって」

ボーダーレスというかフラットというか。そんな視点を手に入れたのだ。わけへだてなくいろんなことに着手するし、役の場合は、その背景はもちろん、一見関係ないことも「気になる」。

「一つのことが気になるとそれから派生して、他のことがどんどん気になっていく。調べるために本を読んだり、実際に会った人のことを思い出したり。それはもう、きわめて当たり前の準備ですよね。どんどん広がっていくんですが、結局はきちんと役のところに戻ってきます。それとね、台本のト書きに“笑う”って書いてあったら、なんとか笑わずにできないか…ということは、まず考えますね」

知識人であり、相当な蘊蓄の人である。でもそれらのベースもほとんどは「役を演じる過程で、読んだり見たりしたこと。そのなかで、興味があって覚えていることの蓄積でしょうね」。

舞台挨拶のとき一歩下がっていたのは「だって(舞台上の)全体の様子を見たいじゃないですか…」。実はこれだけではなく、石坂浩二、壇上にいたピカチュウの着ぐるみの耳をふがふがと触ってもいたのである。

「だって、素材が気になるから(笑)」

圧倒的な“興味の人”である。

1941年生まれ。慶應義塾大学在学中の62年、ドラマ『七人の刑事』でデビュー。卒業後に劇団四季に入団。演出部に所属する。67年に退団。菊田一夫の舞台『マノン・レスコォ』に抜擢され、後に世界一周観劇の旅に出る。69年、初のカラー作品となるNHK大河ドラマ『天と地と』で主人公の上杉謙信を演じる。翌年には『ありがとう』に出演。76年、市川崑監督作『犬神家の一族』で、今日知られる金田一耕助像を作り出す。以降、4作品で金田一を。06年には30年ぶりに“犬神家の金田一”を演じる。映画・ドラマのみならず、積極的にバラエティ番組にも出演。83年には『世界まるごとHOWマッチ!!』に出演。94年から始まった『開運! なんでも鑑定団』はバラエティの代表作といえる。
06年より横浜観光コンベンション・ビューローの理事長、横浜人形の家館長でもある。アニメ声優初挑戦の『劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド&パール ディアルガVSパルキアVSダークライ』は全国東宝系劇場で上映中。

■編集後記

もともとは劇作家志望。ラジオの構成作家のアルバイトも。当時、映画俳優はラジオでも活躍していたが、フリートークなど夢のまた夢だった。一字一句間違いない完全台本を書いていたという。だが、その台本に事務所からよくNGが出た。つまり「“ウチのナニガシはこんなしゃべり方はしません”って。知りませんよ(笑)」。高校時代にはすでに劇団を作り、TBSのドラマの通行人のバイトなどをやっていた。それは完全にバイト代、芝居の元手のためだった

武田篤典(steam)=文
text ATSUNORI TAKEDA
サコカメラ=写真
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