男を磨くカルチャー入門

第4回 無形文化遺産「能」を楽しむには?

2009.02.19 THU

男を磨くカルチャー入門


写真提供/NPO法人せんす 有名な能の演目のひとつ『石橋』の一場面。この演目の見どころは、獅子の勇壮な舞。太鼓や笛が奏でる囃子も激しいので、初心者でも眠くならずに楽しみやすい作品といえそう

日本人として知っておきたい能の定義と不思議なマナー



2008年11月、「能楽」は歌舞伎や人形浄瑠璃文楽とともに、正式にユネスコの無形文化遺産に指定されました。日本の伝統芸能が、世界に文化として認められたわけです。でも、残念ながら周りは「能って狂言と同じ?」程度の認識。これは、日本人としてきちんと知らねば! というわけで、能の普及活動を行うNPO法人せんすの方に話を聞いてきました。能って、どんなものなのでしょうか?

「大まかに説明すると、音楽的で舞踏的な仮面劇が能、滑稽な仕草で社会を風刺し、笑いを誘う対話劇が狂言。これらを合わせて能楽と呼びます。能には死者や鬼が登場する、執念や心残りが主題の悲しい物語が多いですが、天狗や龍神などが活躍するスペクタクルな物語も。演者は能面を付けて、セリフを謡という抑揚を付けた独特の方法で読み、さらに舞と、鼓や笛による囃子を組み合わせ、物語を展開していきます」

なるほど、それが能の定義なんですね。時代劇で見ることもあるけど、能の歴史ってどのくらい古いの?

「能の源流は、平安時代に唐から伝わった曲芸や奇術などの散楽。これが徐々に進化し、室町時代に舞の要素を際立たせた能を世阿弥(ぜあみ)という人物が完成させました。その後も豊臣秀吉や徳川家康などの権力者が手厚く保護したため、能装束は次第に絢爛豪華なものに。一般の人々が能を見たり、習ったりできるようになったのは、明治時代になってからです」(同)

能にはなんとなく高貴なイメージがあったけど、こういう歴史があったからなんですね。ズバリ、R25世代でも楽しみやすい演目とは?

「能は歌舞伎や文楽など、様々な芸能のもと。例えば歌舞伎でおなじみの、頭をグルグル回す『獅子』は、能の『石橋』がもとに。同じく歌舞伎の演目で、鐘の中での早着替えで有名な『娘道成寺』は、『道成寺』がもとになっています。能は、ただ謡を聴くだけではなかなか物語を理解しにくいもの。初めて観るときはタイトルだけでも知っているものを選び、あらすじを予習しておくのがおすすめです」(同)

観に行くときのマナーを教えてください!

「能の1舞台は、狂言と休憩時間をプラスした約2時間半が目安。良い席でも5000円程度で、どんな服装でもOKです。眠くなることもありますが、それは謡(うたい)や囃子の音色を心地よいと感じている証拠。いびきにさえ気をつければ、寝ても構いません。静かに楽しむことが求められ、歌舞伎や文楽のような掛け声はNG。拍手さえしないのがマナーと考える人もいるので、上演後の拍手は観る人次第です」(同)

えー! 拍手をしないのがマナー!? これにはビックリ。皆さん、能はくれぐれも静かに観ましょうね。
今回お話を聞いた、安田登さんのお稽古風景。筋肉の使い方を覚え、深層筋が活性化されてくると、日々の練習程度では疲れなくなるそうです。ご指導いただきワタクシも試してみましたが、翌日、見事に筋肉痛でした…

能のゆっくりした動きはインナーマッスルに効く!?



実は私、小学生のころから能を習っていました。が、長く続けられたのは能の声楽部分謡(うたい)だけ。ゆっくりとした印象の舞は意外にハードで、学生時代を通して体育が「2」だった私はすぐに脱落。でも、能では70代でも10kg以上の重い能装束を身軽にさばく現役プロが大勢います。これはどういうこと? 『能に学ぶ身体技法』などの著書を持ち、自身もプロの能楽師である安田登さんに聞きました!

「能の所作をハードだと感じたのは、表層筋を使ってしまったからでしょう。表層筋とは、通常のスポーツや筋トレで鍛えられる、体の表面近くにある筋肉のこと。若いうちは表層筋が元気なので、思わず使ってしまいがちですが、能の所作を長く続けるには、もっと奥にある深層筋を使うべき。これは鍛えるものではなく、普段眠っているものを活性化してやるだけでいいのです」

なるほど、私は基礎がなってなかったんですね。では、深層筋はどうすれば活性化できるんですか?

「深層筋を活性化するには、小さく静かな動きが必要。能の基本的な所作ハコビ、いわゆるかかとを上げずに前進するすり足は、深層筋の核ともいえる大腰筋を活性化するのにピッタリです。表層筋は年齢とともに衰えますが、深層筋は活性化に体力を必要としないので、いくつになっても維持できる筋力。能楽師は無意識に深層筋のトレーニングを重ねているので、高齢でも若い人と同じ激しい演目が舞えるのです」(同)

そんなトレーニング効果があったとは! 能の所作、恐るべし。能の稽古にはほかにも身体的なメリットがあるんですか?

「舞で深層筋が活性化されれば、新陳代謝が活発な痩せやすい体になり、通常のスポーツでも疲れにくい持久力がつきます。100曲以上もある謡(うたい)を覚えることで、脳の活性化にも一役買うでしょう。記憶力が良くなり、資格試験や語学の習得が楽になったという話も聞きます。また、平和な江戸時代の武士は、お腹の底から大声を出す謡で、いつでも切腹に挑める強靭な精神力を育てていたといいます。それだけに、現代の企業戦士も、平常心でプレゼンに挑めるくらいの度胸は付けられると思いますよ」(同)

科学的には、囃子の太鼓が継続的に発する高周波が脳に著しい好影響を与えることも証明されているそう。観るだけでもこんな効果があるなんて、いいことずくめですね。弟子入りなんて難しいものでなく、カルチャーセンターなどでも気軽に習うことができる能。ジムに通ってがむしゃらに鍛えるのもいいけれど、文化系男子なら能で心も体も鍛錬するのが粋かも! 気持ちだけは日本の伝統芸能界の代表として、
あまり知られていない能の世界をお伝えした今回のレポート。

経験者として、若干余裕を感じていたのですが、
調べてみると知らないことがいっぱい!
特に後半で紹介した、能と筋力との関係については、
目からウロコの新事実でした。

あの地味な(失礼!)能の所作に、
あんなメリットがあったんですね。
歌舞伎や文楽のもとである能は、
まさにking of日本伝統芸能でもあったワケです。

ということで、能を観たことがない人には、
まず観に行ってみることをおすすめします。
観たことがある人は、次のステップへと進み、
能の所作でたくましい男になってみてはいかが?

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