「夢を叶えてきたかも、覚えてない」

原田泰造

2009.02.19 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 text ATSUNORI TAKEDA 森山雅智(vacans.inc)=写真 photography …
日本のポップスてんこ盛り!何と楽しいミュージカル

07年に主演し、好評を得たミュージカル『ザ・ヒットパレード』が再演される。これもまた“いろいろ”のひとつ。

戦後、日本のショービジネスを確立した渡辺プロ創業者・渡辺 晋・美佐夫妻の半生を描く。

「スーダラ節」植木 等

「君といつまでも」加山雄三

「上を向いて歩こう」坂本 九

「モスラの歌」ザ・ピーナッツ

「TOKIO」沢田研二

…などなど(そして、もっと)、劇中には渡辺夫妻が生み出したヒット曲が、雨あられと出てくるのである。

「ミュージカルにも有名な曲はいっぱいあります。でも、なかなか一緒に口ずさめたりしないですよね。この舞台に出てくる昭和の歌謡曲って、パワーがあります。それが詞のせいかメロディーのせいか、僕にはわかりませんけど。初演のときに、舞台の上で歌いながらふとお客さんを見たら、みなさん一緒になって歌ってたんです。歌声喫茶ってこんな感じだったんじゃないかって思って…。ミュージカルを見たことない人にもぜひオススメしたいですね」

初舞台は05年。『キスへのプレリュード』でゴールデン・アロー賞・新人賞を受賞するが、「もうこんなに疲れるものはいいや」と思ったらしい。いつも緊張しながら3作品に出演し、今回…再演の話は単純に嬉しかったという。

「初演のときは『セリフ飛ばないかな』とか、いろいろ心配しながらスタートしたんですけど、今回はより高いレベルで集中したいですね。これね、周りがベテランさんばっかりなんで、僕にはすごくいい舞台なんですよ。どう転んでも助けてくれる人たちだから」

とりわけ、妻の美佐を演じる戸田恵子を頼りにしていた。

「手をつなぎながら歌うシーンで、僕がメロディーから外れていくと、戸田さんがギュッと手を握ってくれるんです。それで『あ、外れてるのか』ってわかって、あわてて戻すみたいな。戸田さん、猛獣使いみたいでしたね(笑)」

そこが不思議だったのだ。一昨年の初演が、原田泰造初ミュージカルであった。俳優のキャリアはあるし、ネプチューンとしてのCDリリースもあるが、舞台で生歌、ハードルは非常に高い。

「正直迷ったんですよね。『なんで俺、歌うの?』って。でも周りは『大丈夫! 大丈夫!』みたいな感じで。いざ自分が歌って、他のみなさんの歌を聴いてみると、もう恥ずかしいのなんの! プロのなかでアマチュアがひとりみたいじゃないか、とか、影で笑われてんじゃないかとか、いろんなことを考えてしまって…でもやってるうちに、そんなことも考えられないぐらい、いっぱいいっぱいになっちゃうんですよ。もっともっと練習しなきゃ! って」

共演している一流のプロフェッショナルたちのストイックさも、モチベーションを強めることになった。

「みなさん“ここまでいく”と決めた到達点を超えないと気が済まない人たちなんですね。それを見ると、怠けられないなと。自分でヨガマットを買ってストレッチしたり。練習なんていくらやっても安心できませんよ(笑)」

実はこの日が稽古初日。取材おわりで、歌稽古が始まる。3月5日の初日に向けて、まだこの段階ではワクワク。

TVに出る人になること。売れなくても楽しかった

ドラマだとか、舞台だとか、バラエティーだとか、仕事に関して意図的に切り替えることはないという。

「ドラマのスタッフがいて、そのシーンがあって、台本を読んでるうちにドラマの気分になるし、そこにネプチューンがいればバラエティー(笑)」

原田泰造は90年、20歳のときに芸人のオーディションに合格していまの事務所に入った。堀内 健とのコンビ活動をへて、名倉 潤を招きネプチューンとなったのは93年のことだ。ブレイクするのは96年、『タモリの超ボキャブラ天国』での“キャブラー”として。

原田泰造は、持ちキャラであるホストの“アキラ”をけれん味たっぷりに演じていた。ウッチャンナンチャン・内村光良の肝煎りで98年からスタートしたコント番組『笑う犬の生活』では『てるとたいぞう』シリーズで、内村に思いを寄せられる刑事を。殉職しては違うキャラとなって内村を翻弄した。

09年2月現在の目線に立ってみれば、当時から原田泰造には明らかに俳優的な何かが見て取れたのである。

「僕は子どものころからTVが大好きで。学校休んでまでTVを観てるような子でしたよ。ドリフも(オレたち)ひょうきん(族)もあったし、ドラマだったら『池中玄太80キロ』とか『熱中時代』とか、面白いものがいっぱいあって。お笑い番組観て芸人になりたいと思って、ドラマを観たら俳優になりたくて、『ザ・ベストテン』観て歌手になろうとか思ってた。楽しかったなー」

ジャンルは何でもよかった。とにかくTVに出る人になりたかったのだ。

「それで高校時代には『ねるとん(紅鯨団)』にも出たし、18歳ぐらいのころからエキストラもやってました。ジュノンボーイとか、雑誌で募集してるオーディションみたいなのにかたっぱしから応募して、そのなかで、渡辺プロのお笑い部門に受かったんですよ」

転機を問われれば「ボキャブラブーム」と答えるし、このときを境に世界が一変したのは確かなのだけれど…。

「ただ、僕は売れてないときも楽しくてしょうがなかったんです。周りにカンニングの竹(竹山隆範)とか、中やん(中島忠幸)とか、ネプチューンとか売れてない芸人がいっぱいいて、ネタ作ろうとか言いながらいっつも面白いこと話してて。何か考えてワイワイしてたのが、すっごい、すっごい楽しかった! “このときがずっと続かねーかなー”って。みんなで金かき集めて吉野家行って…」

売れなくても楽しいからイイや、なんて思いながら夢をいっぱい語った。

「叶えるとかより、夢を語っているのが好きだったのかもしれない。そのころに、オクサワさんっていう先輩が来て、なぜかすごろく作ったんだ。ひとマスひとマスに“『笑っていいいとも!』出演”とか、たぶん“ドラマに出る”とか“映画”とかも書いた気がする。“自分たちの番組を持つ”とか、そういうのがゴールだったと思うんだけど…」

そして、以前、藤井フミヤが出演していたCMの話をする。不良少年がどんどん成り上がってゆき、「ここまで来たか」と過去を振り向くという設定だ。

「でも、振り向かないでしょ。『俺ってここまで来たなあ』ってならない。だから俺、夢が叶ってきたのかも覚えてない感じなんです。『俳優もやる』『オマエはなれねえよ』『いや、絶対なる』とか言ってたのも、忘れちゃってる」

ドラマの主演に抜擢されたのが00年の『編集王』。30歳。唐突だった。

「俺がいっちばんビックリしたんですよ。ちょうど話がくる前に、マンガ喫茶で原作全巻読んで泣いてたタイミングで。『ドラマの話だよ』と言われて本当に嬉しくて『何?』って聞いたら『編集王』『ウワ~ッ!』って(笑)。思えばみんなキャストがいい人ばっかだったなあ…(高橋)克実さんとか八嶋(智人)さんとか、楽しくて頼りになって」

プロの俳優たちの助けを得て、原田泰造はしっかりと主演を務め、この後、俳優としての認知を得ることになる。…なんだかいま、舞台で彼がやっている状況にとても似ている。

ずっと返答は穏やかで真摯なのだ。

「俺、なんか嫌なのかもしれない、物事を悪い方に考えるのが。30歳過ぎたころから急に人の悪口が言えなくなっちゃって。仕事のときだけじゃなくて奥さんや子どもと話してるときも、そう。悪口言うと、夜、思い出して眠れなくなっちゃう。きっかけも何もなくて、“聖職者きどり?”って感じなんだけど。お笑いってある程度そういうのが必要なのに(笑)。だから、どうしようと思ってるんです。また、いつか急に悪口言い始めるかもしれないし…」

今年、39歳。人生はまだ半分ぐらい。まだどうなるのかは、わからない。

「そう…いや、僕は何も考えてないのかもしれない。“どうなるかわからない”とも思ってないんじゃないかな」

1970年、広島県生まれ、東京育ち。20歳のとき、渡辺プロダクション(現・ワタナベエンターテインメント)のオーディションに合格。93年にネプチューンを結成する。96年10月から出演した『タモリの超ボキャブラ天国』をきっかけにブレイク。00年にはドラマ『編集王』に初主演。02年の『ビッグマネー!~浮世の沙汰は株しだい~』ではクールな銀行家を演じ、好評を得る。05年、舞台『キスへのプレリュード』に主演。08年には大河ドラマ『篤姫』において大久保利通を好演。ミュージカル『ザ・ヒットパレード ショウと私を愛した夫』は07年の再演。3月5日~25日、ル テアトル銀座by PARCOにて。

■編集後記

ボキャブラブームでのブレイクによって、人気はアイドル級に! それ以前はもちろんバイト必須の下積みライフだったのだが、それでも楽しかった。すでに結婚していて、生活は苦しくても、奥さんとの暮らしが心に潤いを与えてくれたし、仲間と夢を語る時間もまた幸せだった。もちろんお笑い芸人としたの道を歩み始めていたが、このときからすでに事務所に希望を出して、ほんのちょい役でもドラマへの出演を重ねていた。当時の俳優としての印象が、原田泰造を後の『編集王』につなげたのかもしれない

武田篤典(steam)=文
text ATSUNORI TAKEDA
森山雅智(vacans.inc)=写真
photography MASATOMO MORIYAMA
山本知佳=ヘア&メイク
hair & make-up CHIKA YAMAMOTO
伊藤省吾=スタイリング
styling SHOGO ITO

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