あの時の話、聞かせてください!

第3回 志茂田景樹は今でもカゲキ?

2009.03.11 WED

あの時の話、聞かせてください!


髪を下ろし、若干カジュアルなスタイルのカゲキちゃん。本日は紫のニットタイツ。公演などの際は、ビシッとキメていくそうです

ハデなのは見た目だけじゃない?志茂田景樹のカラフルな人生



90年代、直木賞作家の志茂田景樹さんはテレビのバラエティ番組を席巻していた。一度見たら忘れられない衝撃的なファッションと温和な語り口が話題となり、『笑っていいとも!』にもレギュラー出演。ファンからはカゲキちゃんと呼ばれ、あっというまにお茶の間の人気者になった。作家というより、タレントとして記憶している人の方が多いだろう。

「やっぱりバラエティ番組に出演した影響は大きかったですね。作家として名を知られるのとタレントとしてテレビに出るのとでは全然違う。当時、小学生とか幼稚園だった子どもさんも僕のことを覚えてますもん。よっぽどショックだったのかしら。ただ、テレビで有名になっても、視聴者のほとんどは僕の小説なんて読まないの(笑)。やっぱり世界が違うんですね。バラエティ番組では、小説とは違う素の自分を笑ってもらえればいいかな、と思ってました。僕の方でも、世の中能天気だなあって笑ってたしね。かれこれ7年ぐらいはバラエティの世界にいたのかな。小説を書くって内にこもる作業でしょ。たまってくるものがあるんですよ。逆にバラエティ番組は自分を吐きだせる。な~んにも考えずに出演してましたから。今はどうかわからないけど、タレントさんって楽屋で会うとテレビの印象と全然違う場合が多いんです。スタジオでは、自分の役割とか計算して、ちゃんと仕事してる。僕はそんな器用なことはできないので、もうこのまんま出るだけ(笑)」

カゲキちゃんが、タレントとしてメディアに出始めたきっかけは、やはりその特異なファッションにあった。髪を染めたり、女性モノのタイツをはきだしてから、まず週刊誌が追いはじめ、次第に『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』や『天才! たけしの元気が出るテレビ』などのバラエティ番組に出演するようになっていった。

「ファッションはねえ、フフフ(笑)。81年に山本寛斎さんが、後楽園で『元気主義』ってファッション・ショーをやるというので、おもしろいなと思って自分からモデルに応募して面接を受けたんですよ。それで1万人の観衆の前に出たんですけど、そこから興味が出てきてエスカレートしちゃった(笑)。今のタイツ・ファッションのきっかけは85年ごろに知人がニューヨーク土産にマリリン・モンローの柄のタイツを買ってきたんです。女性ものじゃないかって放っておいたんですけど、風呂あがりになんとなくはいて鏡に映してみたら、カッコいいなと思って。そのまま外に出てみたの(笑)。そしたら、やっぱり後ろ指を差すような目で見られるんですよ。恥ずかしくなって引き返そうと思ったけど、開き直ってズンズン歩いてたらゾクゾクッて快感になってきて。結局、その日はタイツ姿で過ごしました」
作家になる前の職業は…塾講師、ペットのエサ製造販売会社勤務、デートクラブのビラ配り、興信所勤務、記者などなど
ファッションへの好奇心が高じて90年には自らのファッションブランドKIBAを立ち上げ、ますますファッションのカゲキ化が進行する。96年には、自身の事務所内に出版部門KIBA BOOKを設立し、80年に直木賞を受賞した『黄色い牙』を復刊。自著をKIBA BOOKから出版しはじめる。このころから、次第にカゲキちゃんはテレビの仕事を減らしていった。

「もちろんテレビに出てる時も作家活動は仕事の主軸として続けていて、テープにバンバン録音して口述筆記のスタイルで量産してましたが、『黄色い牙』を書きあげた時のようなゾクッていう達成感が感じられなくなってきちゃって。何だかバラエティ出演もバカらしくなってねえ(笑)。そう思わなかった時期は楽しんでやってたんですけどね。僕は興味を失ったら、ためらわずにやめちゃうの。作家になる前も20種類以上の職を転々としてましたから。探偵をやったり、保険の調査員をやったり元祖フリーターですよ。フリーターのパイオニア(笑)。小説もひとつのジャンルを書き続けるのは性格的にあわなくてね。出版社から『このシリーズが売れてるから書いてください』みたいな感じで頼まれることも多いんだけど、やっぱり自分が本当に書きたい小説も書きたいじゃないですか。あと、才能がある人を見いだしてプロデュースしたいな、という気持ちも芽生えてきて。それでKIBA BOOKを立ち上げたんですよ」

原点に立ち返り、出版の世界にまでカゲキちゃんは足を踏み入れる。そして、バラエティ番組からカゲキちゃんは姿を消した。
現在は、読み聞かせ活動を行っているカゲキちゃんだが、2人のご子息には読み聞かせの「よ」の字もしたことがなかったという

タレント活動はやめちゃった?志茂田景樹の気になるその後



直木賞作家として世に認められ、以後、伝記浪漫、推理小説、官能小説、時代小説、架空戦記とジャンルを問わない変幻自在の執筆活動で流行作家となった志茂田景樹ことカゲキちゃん。一時はタレントとしても活発にテレビ番組に出演。そのカゲキなファッションで有名になったが、「飽きた」という理由でテレビの世界から遠ざかる。1996年、自身の事務所内にKIBA BOOKという出版部門を設立。自著の宣伝のために行ったサイン会で、カゲキちゃんはある体験をする。

「僕はタレント活動もしてたから人は集まってくれるんですけど、野次馬が多くてね。こういうファッションなので、子どもさんも見にくるんですよ。でも、挨拶が終わってサイン会が始まるといなくなっちゃう(笑)。どこに行っても子どもがいるので、いっそ絵本の読み聞かせでもやってみようか、という思いが生まれたんですねえ。僕自身、幼少のころは母親に絵本の読み聞かせをしてもらっていて、それが心地よいものとして心に刻まれていたんです。98年に福岡の書店でサイン会をした時に、たまたま子どもさんが多かったので、急きょ、童話を用意してもらって読み聞かせをしてみたんですね。『なんで、そんな髪の色なの~?』なんて騒がしかったんだけど(笑)、読み聞かせを始めたらシーンと静まり返って聞き入ってくれて。童話の読み聞かせって、こんなに心に響くんだとビックリしちゃった。サイン会が始まったら、やっぱり半数以上帰っちゃいましたが(笑)」

手ごたえを感じたカゲキちゃんは、自宅に帰ると早速奥さんに「これからは、童話の読み聞かせを続けていく」と宣言。唐突な申し出に驚いた奥さんだったが、すぐに賛成。ご子息が通っていた幼稚園を皮切りに、読み聞かせ活動を開始。99年にはよい子に読み聞かせ隊を結成する。
絵も描き始めたカゲキちゃん。今年は、水墨画家の知人と二人展を名古屋でやる予定だとか。秋には東京でも見られるかも!?
「今はよい子に読み聞かせ隊の隊長をやってます。公演回数も去年で1300回を超えたかな。今は、スライドを使ったり、楽器演奏を挿入したり、いろいろ工夫しています。よく心が洗われましたって感想をいただくんだけど、読んでいる僕の方も不思議と清らかな気持ちになるんですよね。読む側も聞く側も垣根がなくなって、ひとつの物語を一緒になって追っていって感動をわかちあう。年齢も性別も関係ない。これはスゴイなと思って。これからの自分は、読み聞かせにかけてみようかなと。本気ですよ(笑)。僕が何を伝えたいかというと、命の尊さと生きることの素晴らしさなの。悲しい場面が出てくる童話もあって、それが嫌だって泣く子どもさんもいるんだけど、心が動いてる証拠なんだよね。感動すれば、それで十分だと思うのよ。読み聞かせにはコツもなにもありませんから、いいなと思ったら家族で一緒に楽しんでほしいんです」

今でもカゲキちゃんは大人向けの著作も年間数冊は出しているが、読み聞かせがメインの活動になっている。自身の童話も出版しており、時には挿し絵まで自分で描く。この挿し絵も、誰にも真似できないカゲキちゃんタッチである。

「いちおう画材の使い方の基本は絵の先生に習ったの。でも、先生の言うとおりに描こうとは思わないのね(笑)。自分の描きたい世界を描かないと、ゾクッていう快感がない。直木賞作品を書きあげた時も、タイツをはいて歩いた時も、読み聞かせを始めた時も、ゾクゾクッときた。このゾクッっていう感覚を大切にしたいという気持ちがずっと続いてるんです。今の若い人たちって、周りに遠慮しながら自分の行動を決めているところがあると思うのね。やりたいことをやっていない。ものわかりが良すぎるというか、ある意味それはいいことかもしれないけどさ。そんなに気兼ねしなくてもいいと思うんだな。人の目を気にして自分を縛っても、ちょっとつまらないじゃなーい?」

タイツ姿を20年以上続けているカゲキちゃんならではの含蓄のある言葉である。自分を貫くのは、なかなかハードなことだ。つい周囲にあわせたくもなる。波風を立てない無難な人生は楽ちんだろう。

だが、しかし。カゲキちゃんを見ていると、こっちの方が断然おもしろい人生のような気がする。「フフフ」と笑うカゲキちゃんは、本当に楽しそうなのであった。 まもなく70歳の誕生日を迎えるカゲキちゃんですが、
まったくそうは思えません。
好きな自分の言葉は『今が出発点』。始まりはいつも今なのであります。
他人の名言でも格言でもなく、「好きな自分の言葉」をあげるのが、
自分らしさを大切にするカゲキちゃんらしい。
虹色の髪をなびかせ、今日もカゲキちゃんは周囲に笑いと感動をお届けしているのです。

この企画は、毎回インタビューの感想やご意見を受け付けています。気楽にお便りくださいませ。さて次回は、アダモちゃんというキョーレツなキャラクターで知られる島崎俊郎さんが登場します。ご期待ください。
ではでは、また!

■志茂田景樹プロフィール
1940年生まれ。作家、よい子に読み聞かせ隊隊長。76年『やっとこ探偵』が第27回小説現代新人賞を受賞し、作家活動をスタートさせる。80年『黄色い牙』が直木賞を受賞。以後、モデル、タレントなど幅広い活動で一般にも名が知られるようになる。99年、よい子に読み聞かせ隊を結成。作家活動を続けながら、読み聞かせの普及に尽力。絵本作家、児童書作家としても活躍するなど、現在も活動の幅を広げている

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