「面白くなるためにはどんな努力もする!」

浦沢直樹

2009.08.06 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 text ATSUNORI TAKEDA 稲田 平=写真 photography PEY INADA
大切なのは“風合い”。原作者だけがわかる部分

原作は全22巻、『21世紀少年』上下巻を合わせて24巻におよぶ。『20世紀少年』の映画版が完結した。漫画の実写化は数あれど、これほど原作とのギャップを感じさせないものは少ない。1行目のように、原作者自身も絶賛だ。

「堤 幸彦監督が、原作を愛してくれている読者の側に1回ちゃんと行ってるんですよ。一緒に読者たちの横に座って肩組んで“なっ!”ってうなずきあってから作り始めてる気がして」

自身は、脚本および脚本監修として全3部作に参加している。

「僕としては作品自体が完成形であって、“映像化とかいいじゃん”っていう感じなんだけどね(笑)。でもハンパじゃない熱量でラブコールを受けて映画化にいたって。“やりましょう!”ってなったからは、漫画を実写化したときによくある、誤差みたいなものを防ぎたいなーと思って」

お気に入りの漫画が実写化されたとき、ほぼ全員が感じる「なんか違う」という思い。100人いれば100通りのイメージがあるのだ。

「それで試みたのが、今回の、なるべく深いところまでかかわってバトンタッチするというやり方。大切なのは“風合い”だと思う。それを損なうとブーイングが上がるんですね。僕が脚本のときにやったのは、そこ。細部を変えても風合いを変えなければ違和感はない。映画にするときにはどうしてもエピソードを切るでしょ? 普通はどうでもいいところから切るんだけど、そういうところこそ大事なの。“そっちじゃなくてここは残しましょうよ”って、大事そうなところをどんどん切る提案してましたね(笑)」

同じく脚本を担当したのは、原作のプロットを共同制作した長崎尚志。26年前、デビューしたときの担当編集者で、以来、仕事上の心強いパートナー。

「うん、だから意外と、漫画の原作を作るときと同じようなディスカッションだったんですね。これがよかった」

で、その、漫画を作るときのディスカッションというと…。

「面白くなるためにはどんな努力もする(笑)」

ひとりのなかの各パート。面白とヒットの両立

「打ち合わせのときってね、僕、絵描きがいやがるようなことを平気で言うんですよ。“見開きでドーンとデモ隊がいるといいよね”とか。絵を描く人にとっては大変…てゆうか僕なんだけど(笑)。でもそれが面白いって思っちゃったんだからしょうがないんですよ。たとえば、僕は柔道なんてやったことなかった。でも打ち合わせのときの浦沢は、“ものすごくリアルに投げる女子柔道漫画どうです?”って言っちゃうんですよね。で、いざ描くときに、“リアルな一本背負いってどう描くんだ?”って(笑)。セパレートなんです。話を作るときはお話に夢中、絵を描くときは絵にすることだけ考えて」

別の作業のことまで考えると、発想の自由さは制限を受けてしまう。その場のことしか考えないのがベストなのだ。それゆえいろんなパートを担当する浦沢直樹に分割されているという。

「漫画家ってプロデュースしてストーリー考えて、登場人物の演技から舞台装置から編集までやるでしょ。どう考えても “同じ人”がやる作業じゃないよね(笑)。使ってる脳みそが違う」

発想の最初は、なんだかわからない面白そうなもの。『20世紀少年』の場合は、国連で主人公たちが表彰されるシーンがまず浮かんだ。お風呂で。

「ズーッとアイドリングのようにして考えてるんです。回転させていて、そのなかからたまに福引きの玉みたいに何か面白そうなものが出てくるんです。で、“おや?”って思う。“面白そう、これ持っとこ”って。で、また別の何かをつかむ。“…あ! これとさっきのあれを組み合わせるとすっごい面白いぞ!”って、その面白化学反応みたいなのをずっとやってるんですね」

それはいわば構想担当の浦沢直樹。

「そうして新しい作品がスタートして、ずいぶんあとになってから“これってこういうことがいいたい話だったのかー”って言うと“え? 先生、気づいてなかったんスか?”って言われたり(笑)。よくテーマのことを聞かれるんですが、僕にとってはそれほど、重要なことじゃないんですよね(笑)」

モチベーションは“面白”のみ。それは、漫画を描き始めた5歳児のころから変わらない。別に珍しいことではないかもしれない。だが彼が特別なのは、編集者というパートを担当する浦沢直樹がいたことだ。

デビューしたのは大卒後の23歳。就職活動で訪れた小学館で記念受験ならぬ“記念持ち込み”した作品が認められたためだ。作家・浦沢は描き続け、編集・浦沢は考え続けていた。

「当時、僕が面白いなあと思っていた作品は全部売れてなかったんです。好きな映画も、全然ヒットしなかったし。となると、面白くても売れないものを出しちゃう可能性が強いなと。こりゃガチガチでやっていくと貧乏が待ってるぞと思うわけです。清貧っていう考え方もあるけど、ヤじゃないですか(笑)」

編集というよりマーケティング担当といってもいいだろう。

「“まんま”じゃイカンと思いました。頑固に貫いて守っていることをほんの少し曲げてみても本質が変わらないなら、大丈夫だって考えるようになって。それを実践してみたのが『YAWARA!』だったんですよ」

26歳から『ビッグコミックスピリッツ』で始まった、“ものすごくリアルに投げる女子柔道漫画”である。キャラクターはあえてかわいくデザインし、梶原一騎的なスポ根の世界を展開。アニメ化もされ大ヒットを記録した。

「打ち合わせのとき、ふと“女子柔道ものでもやります?”って言ってから、5分ぐらいでバーッと設定とストーリーができたんです。そこで突然、頭のなかにメーターみたいなものが現れて、針がレッドゾーンにバーンと振れたんですよ。“あ、これヒットしちゃう”って思った。以降、僕の頭にはメーターが出てくるようになりました」

実は『YAWARA!』の前に構想していたのが、『MONSTER』(天才脳外科医が、殺人の濡れ衣を着せられたまま、命を助けた悪魔的犯罪者を追うミステリーだ)の準備段階のような話。が、ことのほか柔道話が盛り上がって、お預けに。『YAWARA!』の7年越しの連載終了後、着手しようとすると、スピリッツ編集部からの「女子スポーツでもう1本」というオファー。94年からはテニスを題材にした『Happy!』を描き始めた。

「当時、日本でミステリー漫画はウケないといわれてたんです。編集部からすごい逆風で、でも僕はそれにブチ切れるタイプではないので(笑)。“スポーツもの、やりましょう。でも、いくらいい作品を描いても、打率2割7分ぐらいのバッターにしか育ちませんよ”と。例のメーターがレッドゾーンに入ってなかったんですね」

だが『Happy!』は大好きな作品になった。『YAWARA!』で取り組んだ、“面白”の本質を深めながら、より人間の内面に入り込むドラマを作れたから。これと並行して『MONSTER』もスタート。

「長崎さんと延々打ち合わせを繰り広げているうちに、ストーリーが立ち上がって、またメーターが振れて、 “ミステリー漫画は売れない”っていう常識は壊せるとわかった。ここからもう1回仕切り直し。ウラサワという作家が何者なのかわかるものを作ろうと、自分の第2のデビュー作にしようと思ったんですよね」

『MONSTER』は、謎を追うたび新たな謎が連鎖し、とんでもない陰謀と因縁に収束していく作品になった。『20世紀少年』では、次々とあちこちで魅力的なものが入った風呂敷が広げられ、ときめきと戸惑いを「これでもか」と読者にお見舞いした。面白至上主義は完成し、進化する。

「でもさ…」と、ここで、別のパートを担当する浦沢直樹が顔を出した。

「若いうちは関心がとっちらかってるんだよね。ガシャガシャした混沌のなかを生きて、必死で取捨選択しなくちゃいけない。何が重要で、何がそうでないかの判断がつかない。でもそんなことをくり返すうち、ふと気づくと、いるものといらないものがわかるようになってるんだよね。まあ、依然としてくだらないことは大好きなんだけどさ(笑)」

すばらしい! 最後はまさしく『R25』担当の浦沢直樹なのだった。

1960年東京都生まれ。小3のときに『太古の山脈』という漫画の“単行本”を製作。デビューは23歳の『BETA!』。「朝目覚めるとウルトラマンになっていて、3分しか生きられない主人公の話」を面白がってくれた編集者・長崎尚志とコンビを組み、『ビッグコミックオリジナル』で、85年から『パイナップルARMY』、88年から『MASTERキートン』を連載。『ビッグコミックスピリッツ』では86年に『YAWARA!』、94年に『Happy!』を発表し人気作家の地位を不動にする。94年開始の『MONSTER』と、05年から手塚治虫の『鉄腕アトム』をリメイクした『PLUTO』でそれぞれ手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。『20世紀少年』/『21世紀少年』は08年から3部作で映画化。このほど最終章が8月29日に公開される。

■編集後記

デビューしたのは23歳。3年間は漫画にも人生にも悩んでいた。「自分がどこにいるのか、何者なのかわかっていなくて、とにかく視野をはっきりさせたくて。そのためにやたら取捨選択してました。映画のベスト5/ワースト5を決め、“オレBEST”の曲のテープを頻繁に作って、自分の趣味嗜好をはっきりさせようと躍起になってたね。で、やってるうちにベストとワーストが入れ替わったりするんだよね、これが成長というのか、成熟というのか(笑)」

武田篤典(steam)=文
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稲田 平=写真
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