魅せ腕時計のイロハ

第6回 「腕時計」と「月」って関係あるの?

2009.09.17 THU

魅せ腕時計のイロハ

そもそもムーンフェイズは日常に必要な機能なの?



素材や形やカラー、機能、実にいろいろなタイプが存在するオトコの腕時計。そんな中に、月の絵が付いた文字盤のタイプを発見。
どうやらこれ、“ムーンフェイズ”と呼ばれるタイプの腕時計らしい。文字盤上の半円の表示窓の中で「月」のマークが少しずつ動き、その日の月の形を表すほか、月齢を表示する窓も付いています。でも、そもそもどうして腕時計に月が?

今回は、シチズン時計マーケティング本部のデザインセンターで、ムーンフェイズのデザインを担当された経験のある腕時計デザイナーの榎本信一さんにお話を聞いてみました。そもそもムーンフェイズというのは、どんな時に使うものなんでしょう?

「本来は、空が曇っていて実際の月が見えない時にも、月の形や月齢が即座にわかるよう作られたもの。なので、天体観測での利用が多いようですね。星を見るには、空ができるだけ暗い日の方がいいので、月が出ていない日を調べる時などに使われます。また、月齢から月の欠け具合や太陽との位置関係を推察することもできます」

天体観測ですか。じゃあ、天文ファン以外にはあまり使い道はないかも…。

「他にも用途はありますよ。たとえば、海でのレジャー。月の運行を知ることで潮の満ち引きがわかるので、海釣りや潮干狩りには役立つかもしれません。他には、ダイビングやサーフィンなどのマリンスポーツ。アウトドアでの利用が多いので、やはり腕時計に付いていると便利でしょう」

月の運行と潮の満ち引きっていうのは関係ありますからね。海でのレジャーには利用価値がありそうですね。

「そもそもムーンフェイズのルーツは、船が交通手段として主要だった昔、潮の干満の情報を月の運行で調べるために作られたものにあったんです。記録では400年以上前から利用されていたとか。羅針盤などと同じく、当時の航海には必須だったわけです。でも、航海専用のアイテムが、腕時計に組み込まれるようになるとは、その時代の人は思いもよらなかったかもしれませんね」

すると、ムーンフェイズは400年前の航海者たちの冒険ロマンが詰まった腕時計、ということなんですね!
榎本さんがデザインしたムーンフェイズが搭載された「カンパノラ」シリーズのモデル(CTY57-1211)。現代では、実用性よりも腕時計の表情を作るデザイン的な意味合いが強いらしい
「そう。どちらかというと、腕時計に付いているムーンフェイズ機能は、実用性よりもそういった情緒的な意味合いが強いかもしれません。私がデザインしたムーンフェイズは、古き時代のオトコのロマンをより強く感じてもらえるよう、古い外国のサイレント映画や絵本に出てくるような、レトロな顔つきの月マークが描かれています」

実は光発電駆動なんて最新機能を備えた精密機械ながら、その表情はあえて渋く…。世界の海を巡ったかつてのオトコたちに思いを馳せる腕時計なんて、確かにちょっと粋な気もします。深みのあるオトコを演出したい人にはぴったりかもしれませんね! 至って外見に特徴のない平凡なボクでも、これさえあれば、ちょっとは人間が大きく見えるかも!?

わざわざ腕時計に月の動きを組み込む理由は?



腕時計の文字盤に月の満ち欠けを表示する“ムーンフェイズ”機能。月齢の表示とともに月の満ち欠けが文字盤に表示され、「今夜は三日月、あと何日で満月…」なんてことがわかる仕組みになっています。もともとは、航海時に潮の満ち引きを知るためのもので、羅針盤などと同様に海を渡る人々にとって、なくてはならない必須アイテムだった。その歴史は実に400年以上だそう。

でも、小さな腕時計の中で、月の満ち欠けをわざわざ再現するのは、結構たいへんなことなのでは?

今回は、シチズン時計のデザイナーであり、ムーンフェイズのデザインも担当されたことがある榎本信一さんに腕時計のムーンフェイズ機能についてお話をうかがいました。

そもそも月の満ち欠けの周期はどうなっているんでしょうか?

「月の周期は29.5日。ただ、これをムーンフェイズで再現する場合、0.5日という歯車は作れませんから、この倍の59日で1周する盤をつくり、対称に2つの月を描きます。盤1周=月の2周というわけです」

とすると、文字盤の表示窓内の月は、満ち欠けの周期ごとに交互に現れるわけですね。
ムーンフェイズの表示窓部分。右回りに動き、59日間で2つの顔の月が現れる
「そうです。新月、上弦ときて、ほぼ15日目に満月となり、その後下弦へと姿を変え、29.5日で新月に戻ります。細長い弓形の月を“三日月”、満月の夜を“十五夜”というのも、この周期から付けられた名前です。満月が現れるのは59日間に2度。この盤の中には2つ描かれているので、文字盤の表示窓から隠れた月が次に登場するのは、また29.5日後。「せっかく交互に現れるのなら…」ということで、2つがそれぞれ別な顔つきになっているタイプも多いんですよ」

それにしても、回転周期の違うムーンフェイズ機能を腕時計に組み込むのって、結構たいへんなんじゃないですか?

「機構自体はそれほど複雑なものではありません。ただ、腕時計の厚みを従来のものと変えずにムーンフェイズを採用するには、限られた内部のスペースに薄い円盤を加えないといけません。さらにその状態で、耐久性や表現力が損なわれないよう保つのは、なかなかたいへんなところもあります」

うーん、やっぱりたいへんそう…。でも、実生活にはそれほど必要性のないムーンフェイズを、わざわざ仕組みを複雑にしてまで腕時計に取り入れたのは、どうしてなんでしょうか?

「もともと人類は、自然界の周期に合わせて生活していました。しかし現代では、機械的に制御された時刻を基に日々の営みを送っています。電波時計など確かに正確ですが、時刻に追われすぎる暮らしを続けると、“時”はスケジュール管理のための記号としてしか意識できなくなってしまいます。本来、“時”は誰もが平等に持っている財産。せっかくなら、できるだけ豊かで楽しい時を過ごしたい。自然界に流れる悠久の“時”を意識するというのは、同時に“時”が持つ本来の価値を思い出させてくれるものなのではないでしょうか。時刻を確認するための腕時計にわざわざムーンフェイズが取り入れられ、しかもそれが今日まで存在し続ける理由は、そんなところにあるように思います」

なるほど! ムーンフェイズは、現代人が見失いがちな“時”の価値を再認識させてくれるものなんですね! 確かに、腕時計で時刻を確認することはあっても、同時に“時”を意識したことなんて、これまでなかったかも。ボクもムーンフェイズの腕時計を買って、時間を大切に、有意義に使えるオトコを目指します! 本来は航海のために潮の満ち引きを知るためのアイテムだったムーンフェイズ。現在では、釣りや潮干狩りといったアウトドアくらいにしか使い道はなさそう。

でも、ムーンフェイズという機能の存在価値は、そんな実利性ではない、もっと深~いところに意味があるものだったんですね。

機械仕掛けの“時刻”と、自然界の“時の流れ”をあわせ持った腕時計…、すごいと思いました!

今後の調査の参考に、腕時計に関する皆さんの疑問や意見を聞かせてください。お待ちしています!

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