魅せ腕時計のイロハ

第8回 丈夫な腕時計は何から作られる?

2009.10.29 THU

魅せ腕時計のイロハ

腕時計の風防ガラスはダイヤモンドに次ぐ硬度!?



視認性が命の腕時計にとって、風防ガラスの傷は大敵。とはいえ、朝から晩まで毎日、ずっと着けていれば、通勤電車やオフィスで、気づかないうちにあちこちへぶつけてしまっていることも多いはず。にもかかわらず、傷や故障は少ないような…。ここには一体どんな秘密が!? そこで今回は、腕時計の素材開発のプロフェッショナル、シチズン時計・表面技術開発課の佐藤さんにお話を聞いてみました。腕時計の風防ガラスが傷に強いわけ、教えてください!

「腕時計の風防に使われるガラスは、大きく2つに分けられます。クリスタルガラスとサファイアガラスです。より傷に強いのは、サファイアガラスの方。地球上では、ダイヤモンドに次ぐ硬度の物質なので、ちょっとやそっとの衝撃では傷が付きません。名前の通りサファイアですから、高価なんです」

サファイアガラスって、宝石のサファイアと同じなんですか?

「基本的には同じですが、宝石のサファイアよりも高純度のアルミナという物質を数十時間かけてバーナーで溶かしながら結晶化させて作った、人工サファイアのことです。さらにクロムを混ぜれば赤くなり、鉄やチタンを混ぜれば青くなります」

実際に見せてもらった人工サファイアの結晶は、直径3.5cm、長さ12cmほどの円柱状で、ズッシリした重量感。見た目はガラスの塊のようですが、これが巨大なサファイアなのだと思うと、ちょっと緊張…。

「この円柱を薄くスライスして、風防ガラス用に加工していくのですが、その加工が大変です。何しろダイヤモンドの次に硬い物質ですから、ダイヤの粉を付着させた刃を用いて切っていきます」

サファイアをダイヤモンドで! 確かにお金もかかりそうです。ちなみにサファイアガラスは硬いだけでなく、光透過性が高いうえ、耐摩擦性・耐熱性も高いことから、腕時計の風防ガラス以外にも、実験装置の覗き窓部分の素材としても利用されているそう。ガラスは「割れモノ」のイメージが強かったのですが、腕時計のガラスは、こんなにも硬くて丈夫なモノだったとは! 驚きました!
高深度のダイバーズウオッチには、水圧に耐えるためにサファイアガラスが使われている。また、本体の金属素材にも傷つきにくい加工がされているのだとか
「ただ、硬いというのは、“しなり”がないということでもありますから、手荒に扱うのはよくありません。これは、あくまでも表面の傷について耐性があるということ。上からガンガン金づちで叩いたりすれば、割れてしまうこともありますよ」

わ、わかりました! 腕時計は、あくまで「大切に扱う」が基本だということですね。わざと叩いたり、落としたりしてウンチクを語る、なんていうのはやめておいた方がいいみたいです!

外は硬く!中は柔らかく!



腕時計の風防ガラスは、特に硬度の高い素材を用い、傷をつきにくくする工夫がされています。おかげで、あちこちにぶつけてしまっても、ガラスについた傷で文字盤が見づらくなることなく、ボクらは腕時計を使い続けられるわけです。

ただ、オトコにとっては、人に見られる「アクセサリー」としての側面もある腕時計。傷への対策は、文字盤の視認性といった実用面だけでなく、見た目そのものの美しさにもかかわる問題。風防ガラスだけでなく、ケースや裏蓋についても、堅牢性が重要になってくるのでは?

今回お話を聞いた、シチズン時計・表面技術開発課の佐藤さんは、部署名の通り、腕時計の表面加工に特化したセクションの人。こんな部署があるってことは、やっぱり腕時計の外装は大切なポイントなんでしょうか?

「腕時計の歴史は素材の進化の歴史でもあり、外装素材はどんどん進化しています。昔は真鍮(しんちゅう)、黄銅を使っていましたが、これらの素材は耐食性に乏しく、厚いメッキをしないとすぐ錆びてしまう。そこで、次にステンレスが使われるようになりました。こちらは光沢も美しく、現在でもスタンダードな素材です」

台所のシンクなんかに使われる、あのステンレス?

「シンクのステンレスよりも耐食性の高いものを使います。ステンレスは錆びないと思われがちですが、実は錆びるんですよ。製品にするには、このステンレス素材の表面に、さらに膜を作る硬化処理が行われます。真空の釜を熱して、中で気化した窒素や酸素の原子を、ステンレスやチタンなど素材となる金属の表面に付着させ、硬い膜を作るんです。シチズンでは、“デュラテクト”という総称で呼ばれていますが、それぞれ使用する素材に合わせた硬化処理を施すことで、傷を付きにくくしているんです」

素材選びはもちろん、その素材をよりよく使う技術の開発も重要なポイントなんですね。

「他にも、シチズンでは世界初のチタンを使った腕時計を1970年に開発しています。錆びにくいうえ、ステンレスに比べて強度が高く、重さも5分の3程度というのが利点です。それに“生体適合性”といって人体に与える影響がほとんどない、というのも大きなポイントなんですよ」

なるほど、ケースや裏蓋は直接肌に当たる部分。扱いやすさだけではなく、人体への安全性もしっかり考えられているんだ!

「ただ、チタンそのものは決して硬い物質ではないので、そのままでは傷がついてしまいます。なので、現在ではこちらも“デュラテクト”といわれる硬化処理を施しています」

硬くてタフで、人体にも比較的やさしい腕時計なんですね! これならどんな強い衝撃にも耐えてくれそう!
落下テスト時の写真。テスト後に回収され、規則正しい時計音をマイクで群衆に聞かせることで故障していないことを証明したそう
「いや、これも風防ガラスのサファイア同様、あくまでも引っかき傷やすり傷対策なので、衝撃に対する耐性ではありません。単に硬いだけだと、内部のデリケートな装置が壊れてしまいますから。強い衝撃から守るためには、設計上、別の工夫が必要です。ちなみに落下衝撃に強い腕時計としては、シチズンでは1956年に『パラショック』という腕時計を発売しました。当時はPRを兼ね、ヘリコプターで100mの高さから落としてみるという実験も行っています。落とした10個すべてが故障なく、100%の成功率だったそうです。大阪のデパート前で実験したのですが、大変な反響で、一時は交通遮断までしたそうですよ」

普段はデザインや機能にばかり注目しがちな腕時計ですが、次の一本を選ぶときは、こんな素材に注目してみるのも、大切かもしれません! 人に見られやすいものだけに、やっぱり腕時計にも“身だしなみ”が大事。
せっかくおしゃれにバッチリ気を使っても、腕時計がボロボロだと台無しかも…。

購入の際には、見た目だけでなく、素材にも気をつけたいところですね!

今後の調査の参考に、腕時計に関する皆さんの疑問や意見を聞かせてください。お待ちしています!

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