途方もなく天文学的な宇宙の不思議 第5回

生まれたての宇宙は、光を超えるスピードで成長した!?

2011.09.21 WED


この図は宇宙の誕生(左)から現在(右)まで、膨張する宇宙の歴史をイメージ化したもの。一番左側の点、宇宙誕生の瞬間に起こったことを説明し、ビッグバン時の超高温状態が生まれた理由をはじめ、初期宇宙にまつわる数々の謎を解明したのがインフレーション理論なのだ NASA/WMAP Science Team
この宇宙は、量子論的な揺らぎのなかから、ある日突然生まれた(第4回「宇宙が生まれる前には“無”が“あった”!?」参照)。はじめにあったのは、限りなくゼロに近いサイズのミクロな宇宙だったわけだが、それがどうやって何百憶光年にも広がる今のサイズまで成長したのか? 今回は、無からの宇宙創生とビッグバン(火の玉宇宙)とを結ぶ“瞬間”の話を取り上げてみたい。

宇宙物理学者の佐藤勝彦さんが1981年に提唱した指数関数的膨張モデル、いわゆる「インフレーション理論」によると、この宇宙は誕生してからわずか1/10000000000000000000000000000000000(10の34乗分の1)秒の刹那の間に、無に等しいサイズからサッカーボール大まで膨張したとされる。たかがサッカーボール大と思われるかもしれないが、スタート時のサイズも、かかった時間も、限りなくゼロに近いのだ。この膨張の凄まじさを、佐藤さんに説明してもらおう。

「インフレーションは、想像を絶する速度で繰り返された倍々ゲームのようなもの。たとえば人間の細胞は、ひとつの受精卵が分裂して倍になり、またそれぞれが倍になるというふうに増えていきますが、この増え方では1個の細胞が50回も分裂すれば、人体を形づくる60兆個の細胞が全部できてしまうくらいの加速度的な増加が起こります。宇宙誕生時には、1/1000000000000000000000000000000000000(10の36乗分の1)秒ごとに空間のサイズが倍になるということが、何百回と繰り返されました。これは、もしはじめに砂粒くらいの大きさがあったとすると、一瞬後には数百光年の宇宙サイズまで拡大するほどの膨張スピードなんです」

この宇宙空間のなかでは、物質や情報が光の速度を超えて移動することはありえない。だが、宇宙誕生直後の空間自体の膨張は、光速を優に超えるスピードで起こったのだ。また、インフレーションのポイントは、宇宙を膨張させただけでなく、そのなかのエネルギー密度が一定のまま変わらないように“何かしらのエネルギー”を満たし続けたこと。つまり、空間の膨張の分だけ、宇宙全体のエネルギーも急激に増大したことになる。

「インフレーションは真空に働く斥力(物と物とを反発させ、遠ざけようとする力)によって起こり、“真空の相転移”とともに終わりました。相転移とは、水が水蒸気や氷に形を変えるような現象のこと。水蒸気が水になったり、水が氷になったりするときには熱エネルギーを放出するのですが、これと同じようなことが“真空”に対して起こり、放出された熱エネルギーによって、宇宙は超高温の火の玉状態になったのです」

宇宙全体のエネルギーや銀河団などの大規模構造の基礎は、インフレーションによって作られたそうだ。いってみれば、誕生から10の34乗分の1秒という一瞬の間に、この宇宙のカタチはあらかた決まっていたのである。
(宇野浩志)

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