途方もなく天文学的な宇宙の不思議 第9回

不確かな、あまりにも不確かな量子論的宇宙の不思議

2011.10.19 WED


この画像は、ミクロの物質を拡大したイメージ。これが粒に見えるとすれば、それはあなたが見ていることで、波が収縮したからだ。誰も見ていないときには粒ではなく波の状態にあるので、この物質は存在しないはず。信じられない人は、目をつむって確かめてみよう 写真提供/PIXTA
人類が様々な宇宙の謎を解明してきた近代物理学の歴史を振り返ると、大きくふたつの視点がある。ひとつはアインシュタインの相対性理論に代表されるマクロな宇宙を扱う視点。もうひとつは、1mmの1000万分の1よりも小さな世界の物質やエネルギーを扱う、量子論などのミクロな視点だ。

宇宙という大きなものを考えるときに、なぜ対極であるミクロな世界が問題になるのかというと、マクロな宇宙もミクロの集合体だから。さらには、誕生直後の宇宙やブラックホールなど、観測できない領域の謎を解く手がかりは、今のところ素粒子サイズのミクロな物質の振るまいを調べるほかないからだとか。

極限まで小さな世界を探求することで、もっとも大きな宇宙のことがわかるなんて不思議な気もするが、宇宙物理学者の佐藤勝彦さんに聞いたミクロな世界の話は、不思議どころか奇妙奇天烈な摩訶不思議ワールド。あまりサイズが小さすぎてもピンとこないので、量子の振るまいを空に浮かぶ月に置き換えてたとえてもらおう。

「たとえば、あなたが空にある満月を見ているとき、月はたしかにそこにあります。では、あなたが目をそらしたときにはどうでしょう? 普通は、人が見ていようがいなかろうが、月は変わらずそこにあると考えます。ですが、量子論では、“あなたが見ていないときには、月はそこにないかもしれない”と考えるんです」

これが量子論的宇宙の特徴。「世界は本当に存在するのか」なんて悩むのは哲学的だが、科学者は悩まない。佐藤さんいわく「私たちが観測していないとき、ミクロの物質は居場所を1カ所には決めていない」。断言するのだ。

「なぜそういえるかというと、“ミクロの物質は波である(あるいは「粒でもあり、波でもある」)”ということを量子論が明らかにしたからです。物質は波として広がりをもって存在していて、観測されると収縮して粒になり、居場所を確定させます。その物質がどこで見つかるかは、波がどのように伝わっているかを計算することで確率的には予言できます。ただ、波の振幅が大きいところに粒子が見つかる確率は高いのですが、波があるところならどこにでも見つかる可能性がある。結局は、サイコロを振って決まるようなものなのです」

マクロな世界では、月が東からのぼって西に沈むことは確実だ。1時間後にどの位置にあるかを求めることだってできる。ところが、量子論の世界では、東からのぼった月が1時間後にどこにあるかも、A地点にある確率は30%、B地点にある確率は20%…というふうに確率でしかいえないし、上空にあった月が次の瞬間には地球の裏側にあるかもしれない。

もしも世界がこんなに不確かだったらと考えると頭がおかしくなりそうになるが、こういった量子の振るまいは、実際にコンピュータなどに使われる半導体の原理にも応用されているそうだ。これを知って以来、まばたきした瞬間に書きかけの原稿が消えてしまわないかと心配になる。
(宇野浩志)

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