仕事の本質にもっと注力できる時代へ

AI学者・松原氏「5年後、事務仕事は代替される」

2016.08.27 SAT


松原仁氏(公立はこだて未来大学副理事長、前 人工知能学会会長)
2016年に入り、人工知能による“快挙”が続いている。囲碁AI「AlphaGo」が世界トップ棋士を破り、AIを使って創作した短編小説が文学賞の1次審査を通過。直近では、専門医でも原因を特定できなかったがん患者の病名をAIが見抜いたことが話題になった。

人工知能というテクノロジーは、様々な産業に変革をもたらすといわれる。期待が膨らむ一方、過渡期を生きるビジネスパーソンとしては得体のしれない恐ろしさも感じる。不気味さの要因はやはり「AIに仕事を奪われるのではないか」という漠然とした不安によるものだろう。

はたしてAIの台頭で仕事は今後どのように変化していくのか? そして、それはどれくらい先の未来に起こり得るのか? 30年間にわたり人工知能研究に従事する松原仁氏(はこだて未来大学副理事長)に聞いた。

●AIは「仕事を奪う」のではなく、「変える」もの


「今、『AIが人間の仕事を奪う』としきりに言われていますが、私は“奪う”というより“変える”という表現が正確だと考えています。確かにAIに代替される仕事もあるでしょう。ただ、多くの職種では仕事そのものを奪うというより、その仕事の非効率な部分がAIに置き換わる。そのぶん、人間はより重要な業務に集中できるようになります」

それはむしろ、我々にとって概ね歓迎すべきことのようだ。

「たとえば医療なら、ディープラーニングを用いた画像解析が脚光を浴びています。これまでは医師がレントゲン写真をしげしげと眺めて異常がないかチェックしていましたが、AIなら一瞬で正確な判断を下すことができる。医師の負担は大幅に減ります。空いた時間で一人ひとりの患者と向き合い、顔を見ながら問診に時間をかけられるわけです。本人の微妙な挙動を観察して病気の原因を探るのは、まだまだ人間のほうが得意ですから。そういう役割分担だと思います」

●事務作業は5年以内に置き換えられる


AIがサポートする分野は専門的な職種に限らない。あらゆるビジネスパーソンが、その恩恵を受けられる時代がやってくるという。

「まず、単純な事務作業は5年のうちにAIに代替されると思います。たとえば、どの会社にもある出張費の精算などの経理処理。航空券の予約やホテル予約のインターネット履歴をAIが読み込んで自動処理することは今でも可能です。ゆくゆくは会社員一人ひとりに“AI秘書”が割り当てられ、業務のサポートをしてくれるでしょう。経費精算からスケジュール管理、1日数十通、数百通のメールからスパムをはじくのはもちろん、本人に確認が必要な内容のもの以外は自動で返信してくれるようになるはずです」

なお、その先、単純作業や特定の専門業務以上のことをAIができるようになるにはもう少し時間がかかると松原氏はみる。

「いわゆる“汎用性”をAIが獲得するのはもう少し先の話。“強気な研究者”の間からは2030年という声も挙がっていますが、妥当な線でいけば2040~2045年というところでしょう。ただし、これは最先端の研究分野での成果であり、一般化するにはさらに時間がかかります。いずれにしろ、AIが得意なことはどんどんやらせて、人間は人間にしかできない、本来なすべき業務に注力すべきです」

●AI時代、どんなスキルを身に付けるべきか?


では、その“人間にしかできない”仕事とは何なのか?

「AIは特定の価値観のもとで最適化を図るのが得意です。要はそれ以外のこと、例外的な問題を処理したり、新しい価値観を想像したり、既存の価値観を組み合わせたり、それらが人間に残される仕事だと思います。創造性というと芸術家っぽくて大げさですが、クリエイティブな職種に限らずどんな仕事だって創造性を働かせる余地はあるはずです。ルーティーンワークに思えることでも、業務を効率化するための枠組みの変換など、単純に言われたまま作業をするのではなく知恵を絞ること。それができる人はAIに負けないと思います」

とはいえ、そうしたアイデアを発想できるのは、能力のある一部の人間に限られるのではないか? 標準的な会社員にとってみれば、ハードルは高いように思えるが…。

「私はそうは思いません。人間の適応能力の高さは、歴史が証明しています。これまでだって幾度の産業革命をなんだかんだ生き延びてきたわけですから。道具が進化すれば、人間の脳の使い方も一段階上がっていくはず。AIだけが進化して、人間が置いてけぼりになることはありません。もちろん学習は必要です。でもコンピューターが職場に導入されたときだって、勉強して使い方を覚えたら便利になりましたよね。今は得体のしれないものに感じるAIをどう使いこなしていくかだと思います。所詮は道具ですからね」

(榎並紀行/やじろべえ)

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