ネットの常識・非常識

第11回 ネットで起業ってまだ間に合うの?

2009.04.15 WED

ネットの常識・非常識

私の場合、1980年代はまだまだ貧乏な若手社員だったので、音響カプラなんて贅沢な物は持てませんでしたね。1990年代初め~中頃になって、ようやく PCMCIA(編集部注:今のPCカードのこと)なんて規格にのっとったカード型モデムが出てきて、1万4400bpsという当時としては、かなり快適な通信速度を体感していました。ただ、最初の頃はチャットや書き込みなどを回線つないだまま延々とやっていて、翌月べらぼうな電話代を徴収されたのを覚えています。

投稿者:「ブログ管理人」さん(43歳/男性/大阪府)

手間も暇もお金もかかったけれど
その分時代を先取りして楽しんでいた
初期のネットユーザーたち。

彼らのなかにはネットベンチャーを立ち上げ
後の日本のネットビジネスを担った人たちもいるわけで
一財なしちゃった方も多数いると思うんですよ。

今さらネットベンチャーで起業しても
もう遅いですよね? まだ儲かるのかしら?

というわけで第11回の「ネットの常識・非常識」は
現在のネットのベンチャービジネスを
とりまく環境について、突っ込んでみます。
撮影/熊林組 VCは何もネットビジネスだけに投資するわけではない。日本のVCの草分け的存在が、東京中小企業投資育成株式会社。昭和38年に設立されている

ネットベンチャーの投資家に聞いたビジネスチャンスってまだあります?



こんなネットサービスがあれば儲かるんじゃないか。ふと、頭をよぎるアイデア。ちゃんとやれば、ネットでメシが食っていけるんじゃないか?

でもネットベンチャーでの起業って最近どうなんでしょうか? ドットコムブームはおろか、Web2.0ブームすらもはや昔話、今さらぼくたちがネットビジネスの世界に足を踏み入れて、おいしい思いができる余地はあるんでしょうか?

いずれにせよ起業には先立つものが必要。というわけで、かつてネオテニーというベンチャーキャピタル(未上場企業への投資を行う会社。以下VC)で数々のネットベンチャーの起業や経営に立ち会ってきたという、同社顧問で個人投資家、現在は株式会社ニューズ・ツー・ユーの取締役をしている平田大治さんにお話をうかがいました。

「いま日本でベンチャー企業に積極的に投資をしようとしているVCはほとんどないでしょうね。レイターステージを含めて、今の経済状況は投資できるような環境にないんです。一部の個人投資家、エンジェルなどは変わらずにやってると思うんですけど」

ん、しょっぱい状況ってことはわかったんですが、レイターステージとか、エンジェルって何のことなんでしょうか?

「ベンチャー投資にはいろいろな種類があります。例えば、ベンチャーに投資する段階によって分けると、まず最初にかかわるのがエンジェルと呼ばれる個人投資家です。これは会社を作る段階で支えてくれる人で、ここが一番リスクが高い。パトロンみたいなものですね。それで、会社を作り、製品やサービスの見本ができてくるとスタートアップやアーリーステージといわれる段階になる。ここで一般的にVCと呼ばれる職業投資家が出てくるんです。ただ、ここも相当ハイリスク。次に、商品やサービスが形になって売り上げが立つか立たないかという時期がミッドステージ。そしてビジネスが軌道に乗りはじめ、さらに資金を投資して積極的に成長を目指そうという段階がレイターステージ。ベンチャー投資のなかでは比較的リスクが少ない段階です」

ベンチャーへの投資は基本的に、最初の段階ほどリスクが高い代わりに儲けが大きく、後へ行くほどリスクが小さくなる代わりに儲けも小さくなっていくものだとか。また、ネットで評判になっているサービスを作った会社がGoogleやマイクロソフトに買収された、なんてニュースをたまに聞きますよね。

VCの母体は、個人からお金を集めてくる独立系をはじめ、銀行や証券会社などの金融機関系や、商社やメーカーなどが事業部や子会社としてVCを運営する事業会社系、また企業年金組合や保険会社などが資産の運用先としてベンチャーキャピタルに投資している場合もあるそうです。

「起業したベンチャー企業が成功する確率は、10~20社のうち1社くらいだといわれています。その代わり成功した時のリターンは10倍じゃなくて100倍を目指します。つまり、ハイリスク、ハイリターンな投資なんですよ。例えば銀行の融資の場合、金利5%でお金を貸すとしたら20社に1社がつぶれたら単純には収支はトントンですよね。おそらく100社に1社の失敗でもそんなに利益は出ないでしょう。だから、ほとんど失敗しないようにする銀行と、失敗もあることを前提として動いているVCとは考え方がまるで違います」

平田さんいわく、景気のいい時だとVCはどんどんアーリーステージ側に行き、景気が悪くなると後ろ側、つまりレイターステージ側に行くという。今はレイターステージでの投資すら少ないようですが、じゃあ、今VCは何をやってるんでしょうか?

「すでに投資したところへの援助と回収ですね。10社に1社しかうまくいかないとはいえ、残り9社がつぶれていいわけではなく、もちろん全社成功してほしいんですよ。だから、今は経営や資金調達のお手伝いをしたり、不況をやり過ごすためのアドバイスを行ったりしています」

では、ネットの世界に起業する余地とか、ビジネスのチャンスって、まだあるんでしょうか?

「それはなくなりませんね。例えばインターネットはこれだけ普及したけど、かつては普及率が数%だった時期もあったわけです。ということはその時点でインターネット業界には大きく伸びる余地があった。今そのようなチャンスがあるかというとむしろ、そのチャンスを作るのがベンチャー企業の役割なんです」

でも、VCが投資を控えているということは、起業自体が難しいのでは?

「いいえ。近ごろは起業にあまりお金がかからなくなっているんです。例えば何かサービスを立ち上げるためにデータセンターを利用するにしても、昔なら自分でコンピュータを買って設置し、配線するところからやってましたが、今なら一台あたり年間10万円もかからずにすぐにサーバーが用意できます。実際は30万円ほどかかりますが、株式会社も1円起業ができます。つまり起業に必要なテクニカルな障害が減り、立ち上げのコストも安くなったことで、よりサービスの開発そのものに集中しやすい状況になったといえるんです」

また、現在景気が悪いのは投資する側もわかっているため、たくさんお金をかけてドカーンと起業するのは難しいけれど、競争相手も減るので、自己資金でしばらく堅実にやり続けるにはいい時期といえるかも、と平田さん。

良いアイデアがあるなら、今のうちに起業するのもありかしらん?
撮影/熊林組 学生ベンチャーを目指す、立木さん(左)と柳澤さん。R25の取材依頼も相当テンションがアガったそうです

世界同時不況下にあえて起業する?ネットベンチャーの経営者ってどんな人



はいはい、不景気不景気。

連日のように社内外で、事業撤退だ、賃金カットだ、契約更改なしだ、倒産だと景気の悪い話ばかりを耳にしているみなさんも、いいかげん食傷気味ではないでしょうか。でもまあ、不景気は逆に新しいことを始める絶好のチャンスでもあるわけで、この落胆ムードを尻目に株を買ったり、新たな産業に投資したり、思い切って新しく事業を立ち上げちゃったりしている人も多数いるはずです。

それなら自分もいっちょネットベンチャーでも興してみっかと思うかどうかは別にして、この不況のご時世にあえてネットベンチャーで起業した、あるいはこれから起業したい人たちってどんな人たちなのか、自分と何が違うのか。そして経営の実際はどうなのか、気になりません?

というわけでSNSを介した物々交換サイトでの起業を目指している、法政大学法学部の立木壮樹さんと、中央大学経済学部の柳澤広識さんにお話をうかがいました。

そもそもなぜ学生起業を目指すんでしょうか?

「ぼくたちは、もともと同じ高校の生徒会にいたんですけど、その高校には校則がなくて服装も自由で、やりたいことは何でもできる校風だったんですよ。逆に言うと自分から楽しいことを考えて実行していかないと全然楽しめない。たとえるなら毎日が大学の学祭。参加しないのは、部外者と同じなんですよ。だから高校時代から、自然なノリで『大学に入ったら起業やろうよ』って仲間と話してたんです」(立木さん)

「俺は医者になりたかったんですが、受験に失敗しちゃってから文転して経済学部に入ったんですね。でもこのまま卒業してサラリーマンになる姿が全然リアルに想像できない。それならどんなに苦労してでもいいから、会社を興してビジネスをやっていく方が一生胸を張って生きていけると思ったんですよね」(柳澤さん)

「それでビジネスを考えているうちに、初期投資が少なくて、ぼくらの身の丈にあったものをと考えたらネットベンチャーがファーストステップとしてはいいんじゃないかなと思ったんです。例えばぼくらが急に原発作ろうぜって言っても無理ですしね。あと仲間にコンピュータに強いヤツがいたというのも大きいですね」(立木さん)

そんなこんなで仲間5人でブレストして決めたという、SNSを介した物々交換サイト。今どういう段階にいるんでしょうか?

「学生のビジネスコンペに応募したり。そう先日、ネット企業のトークイベントで、初めて大学外の人の前でちゃんとしたプレゼンをしました。その時は、VCさんとも挨拶できましたが、お金を引っ張ってくるのはまだまだ大変ですね。でも最近、とあるネット企業が、渋谷にオフィスだけ貸してくれるという話にはなりまして、普段は学食とか飲み屋でミーティングしてるので、それだけでも相当テンションがアガりますね」(柳澤さん)

「しかもぼくらのやろうとしていることって、ランニングコストだけでいうと年間2、3万円なんですよ。もちろん広告宣伝費は別にしてですけど。どこからも投資を受けずに始めてしまうのもありかもねって話しています」(立木さん)

今の課題は突如抜けてしまったシステムエンジニアの穴を埋めること、そして収益モデルを考え出すことと、お二人。
「リグレト」を運営するベンチャー企業、株式会社ディヴィデュアルのオフィス。左からエンジニアの山本さん、チェンさん、遠藤さん。ボードにはブレストのアイデアメモが並ぶ
では、すでにベンチャー企業を立ち上げた方はどうなんでしょう? 昨年秋に、日常生活でのヘコみや後悔をなぐさめあうコミュニティサイト「リグレト」をオープンした、株式会社ディヴィデュアルの共同設立者であるドミニク・チェンさんと遠藤拓己さんにお話をうかがいました。

「会社を立ち上げる前は、ベンチャー・キャピタル(以下VC)やプライベート・エクイティ(投資の対価として会社の未公開株を交換するという資金調達方法)についてほとんど何も知らなかったので、最初は『なにそれ、俺たち商品にされちゃうの?』とか、『会社が乗っ取られるんじゃないか』とか警戒していましたが(笑)、すでに起業している友人らにアドバイスを貰ったり、関連の参考書を読んだりしながら、少しずつベンチャー企業のスタートアップのスキームを理解していきました」(遠藤さん)

なかには、「この人に投資してほしいという人もいる」とお二人。投資家のなかには若いうちに経営者として成功してリタイヤした人もいるので、彼らのように人脈と情報とお金がある人に会社経営を教えてもらうのは、若い経営者にはとってかなり勉強になるのだとか。

「VCにも投資家にも様々なタイプの方がいらっしゃいますが、特に僕らのような若い会社が投資を受ける場合は、お互いの波長がどれだけ合うか、ということがとても大事だと思います。スタートアップ期のベンチャー企業にとって、VCとは単なる出資者ではなく、お互いの力を合わせて共に戦っていく仲間になるわけですからね」(チェンさん)

結局、会社の立ち上げ資金は、二人が自分の貯金から出した分と、VCから少し提供を受けた分とでまかない、2008年4月に会社を設立。

「2008年の秋以降、『リグレト』がメディアで取り上げられたこともあって、沢山のVCの方々からご連絡を頂いています。サービスの今後の展開もいよいよ定まってきたところなので、起業家と投資家、双方にとって最良なディールを締結できればいいなと考えています(遠藤さん)

ふむふむ、なるほど。

かようにこの厳しいご時世でも、厳しいご時世なりの工夫で新しくネットベンチャーを始めた経営者や、これから始めようとする学生たち。お金はなくても、アイデアとビジネスモデル次第で、新しくベンチャーを始めることは可能というわけですね。

つまり、あと必要なのは一歩を踏み出すやる気や勇気だけ?
ま、それがないから、多くの人は踏みとどまっちゃうわけですけどねえ。 もはや食い荒らされたかに見える
ネットの世界に、儲け口はまだあるのか。
はたまたこの世界同時不況下に
ベンチャー企業を立ち上げて勝算はあるのか。

そんなテーマで進めた第11回ですけども、
自分で掘り起こせばいくらでも
ネットのビジネスチャンスはあるし、
技術面やコスト面での起業の障壁は
昔に比べると随分ゆるくなって起業しやすい
ということがわかりました。

後は、アイデアとビジネスモデルとやる気次第。

取材を進めるうちに、ぼくもライター稼業なんかに執着せず
ネットベンチャーに転向するのもありかもな
と速攻で感化される始末(笑)。

というわけで約半年にわたってお送りしてきた
「ネットの常識・非常識」ですけれども
次回の第12回をもちまして、いったんおしまい!

もといっ、当初の予定通り「いくぜぇー!!!!! 第1部完」
ということになります。少年マンガ風にいうと。

その「ネットの常識・非常識」の最終回に
ふさわしい語り部といたしまして、
2ちゃんねる元管理人のあの人に登場いただく予定です。

というわけで、再来週(場合によっては遅れるかも)の更新もお楽しみに!



さらに、新テーマ「ネットで出会って恋愛はアリ?(仮)」も予定。
ネット恋愛に関して「こんなことを調べてほしい」という
リクエストがありましたら、今のうちに下記フォームから
ご応募くださいね。では、オサラバ!

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