隣の理系がワカラナイ

第10回 理系と文系のボーダーはどこ?

2009.04.17 FRI

隣の理系がワカラナイ

「理系か文系か分かりにくい分野」という事では、「創造、芸術分野」というのはいかがでしょうか? クリエイターと言えば、感性が全て、と思われがちですが、古来、数学者でありながら芸術家という偉人もいますし、今やクリエイターの現場にもIT化の波が押し寄せ、そのロジカルな思考を生かしたクリエイターというのもいるのではないかと思います。

投稿者:「たーきー」さん(東京都/32歳/男性)

なるほど。
芸術のなかでも、たとえばコンピュータグラフィックスはプログラミングを学ぶ必要があったりして、限りなく理系に近い分野といえますね(大学や専門学校のなかには、コンピュータグラフィックスを理工系学部の専攻に位置づけているところがあります)。
さらに、「万能の天才」といわれたレオナルド・ダ・ヴィンチのように、建築家にして芸術家、さらに解剖学に通じているなど、芸術と科学を見事に融合させた人物もいます(「ウィトゥルウィウス的人体図」なんかはその代表例ですね)。

芸術のように、文系、理系、どちらにも関連するような分野はほかにもありそうです。
そこで今回は、「これって理系?文系?」な分野について考えてみます。

たとえば、医学がどうして理系にくくられているのか、知っていますか?
最初は『医学系レジデントのための~』というタイトルにしたかったそうですが、出版当時の坪田先生は歯学部教授。じゃあ『医師薬系の~』に、という案もあったものの、いっそのこと『理系のための~』にすることに決め、内容も理系なら誰でも読めるようにシフト。その結果、東大生協で何年もベストセラーになっているなど、理系研究者のバイブルとして知られています。

変化・増殖を続ける学問としての理系とは?



この連載に対して、「私は機械系ですが」「理系とはいえ農学系で」など、自分の専門分野つきでご意見をくださる理系の人々がたくさんいます。そういったコメントを読んで、「ほう、それも理系ですか」と思うこともしばしば。理系って、思っていたよりも幅広いようです。しかしながら、どれくらいまでが「理系」なのでしょうか。

学問分野で見ると、理学、工学、医学、歯学、薬学、農学、獣医学といった分野が理系としてくくられています。ここ数年、こういった学問がどんどん融合してきているという噂もよく耳にします。理系の分野はどんどん変化、広がりつつあるというのです。

その噂が意味するところについて、慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授に聞きました。坪田教授は『理系のための研究生活ガイド』『理系のための人生設計ガイド』(ともに講談社ブルーバックス)という、理系研究者向けの指南書も出版。医師でありつつ、理系研究者という目線も持ち合わせている先生です。

ただ、私などからすれば「医学は理系の中でも特別」という気がしてしまいますが、坪田先生によれば、人間も生物の一部なのだから医学は生物学で、ほかの理系分野と同じなのだといいます。

「といっても、昔の生物学は博物学の一部と分類され、採取・分類をメインとする学問でした。それが近年、タンパク質などのミクロな研究を行う化学と融合。分子生物学という分野として発展し、遺伝子を扱うような科学的な研究が可能になりました。医学に関しても、少し前まで、データよりも経験に基づく医療が一般的でした。実際、アスピリンで頭痛が治ることは経験上知っていても、そのメカニズムまで理解して治療している医師はほとんどいませんでした。しかし今は、エビデンス(科学的根拠)に基づいたサイエンスとしての医学が大事だとされている。僕も『サイエンス』や『ネイチャー』を講読するなど、あらゆる分野の科学情報をチェックしていますよ」

医療の質の向上には、異分野との融合研究によるものが大きくかかわっています。CTスキャンやMRIなど、診断・治療に欠かせない医療機器は機械や電子・電気といった工学との融合があったからですし、iPS細胞を使った再生医療、遺伝子治療など、医学以外の研究者たちも健康に関わる重要な研究を行っているのだそうです。

「最近、僕が注目している分野の一つに、システムバイオロジーという、生物とコンピュータを融合させた分野があります。この分野での研究が進んだお陰で、生物にかかわる実験をコンピュータ上でシミュレーションできるようになりました。最終的には実際に実験を行う必要がありますが、何千回も繰り返していた実験を数回で済ませられるようになったのは素晴らしいことです」

こうした流れは医学だけのことではなく、「情報」「遺伝子」「ナノ」などをキーワードに、理系の各分野が融合。新しく生まれた融合分野の中には、世の中を大きく変えるビジネスの種が埋もれているかもしれません。ビジネスの新しい可能性を探るなら、学術界のトレンドもチェックしてみては?
青山学院大学青山キャンパスの学部長室にて(社会情報学部は相模原キャンパス)。数学の苦手な学生には学部長自ら補習。「しっかりと単位を取って、なんとか全員に卒業してもらわないといけませんからね」(魚住学部長)

理系でも文系でもある新しい分野に注目!



学問分野の中には「これって理系? 文系?」と思えるような分野が結構あります。調べてみると、○○工学、○○情報学といったネーミングに、理系とも文系ともとれるような(いわゆる「文理融合」)の分野が多いような気がします。

例えば、よく知られているところでは「金融工学」(金融の動きや働きを工学的アプローチによって解明する学問)。ほかにも「環境工学」「流通工学」「デザイン経営工学」「教育工学」など、明らかに文系的キーワードを含む分野があります。

また、ITとの融合によって生まれた○○情報学には比較的最近作られたものも多く、「経営情報学」「教育情報学」「図書館情報学」「博物館情報学」などが「どっちなの?」という分野。実際、大学によっては経営学部や教育学部など、文系専攻にくくられていることが多く、文系の中の理系的分野といったところのようです。

そんな文理融合的分野のひとつ、青山学院大学に2008年4月に創設されたばかりの社会情報学部は、『文理の枠を越えた知識と基礎力を身につけた人材の育成を目指す』がコンセプトのユニークな専攻。入試の際、数学などの理系科目は選択してもしなくてもよく(してもよい)、文系・理系どちらの学生も受け入れてくれるのだそうです。というわけで、同学部の魚住清彦学部長にインタビューしてきました。

「昨年の実績では、7:3くらいで文系入試の学生の方が多数。とはいえ、ここでは基礎数学が必修で、高3程度の数学を習得しなければいけません。文系出身の学生さんには大変かもしれませんが、様々な社会問題を解決しようとするとき、物事を定量化して考える数学の知識は絶対に不可欠。経済学や心理学でも統計学は必須で、ある大学の経済学部では数学を入試科目にしているくらいですから」

社会情報学部では、数学のほか、英語、コンピュータ、経済、経営、心理学、コミュニケーションなどが選択の必修科目。数字にも強くて、経営・経済にも詳しく、自分でコンピュータプログラムが組めて、英語もペラペラなんて、社会人として最強じゃないですか。そんな欲ばりな!

「必修となっているのは基礎だけですが、今や、どんな道に進むにしても、数学やコンピュータといった理系的基礎、経済や経営といった文系的基礎は必要です」

理系的な基礎があれば、社会科学の諸問題を理解するうえでも役立つという魚住学部長。魚住学部長は物理工学の出身で薄膜やナノサイエンスが専門ですが、今回、社会情報学部長に就任して、経営や心理学の専門家と交流したなかで発見することも多かったそうです。

「金融のことなどこれまで門外漢だと思っていましたが、物理現象に通じるものがあると分かりました。金融工学は株価の動きを数学のブラウン運動を用いて記述することによって飛躍的に進歩したのです。ただ、株価には科学では計り知れない『心理』という要素が加わってくる難しさがありますが」

ますます複雑化する社会のことを考えれば、こういった文理融合的な分野が増えることは必然。これからの世界をリードしていくのは、文系と理系、両方に通じた人材なんでしょうね。 今回のテーマを取り上げるにあたって、
我ながら「誰もアカデミックな話なんて興味ないかも」と
かなり不安に思うところもありました。

でも、「理系」という枠組みを考えるうえでは
アカデミックとは無縁ではないと思うのです
(そもそも「理系」という枠組みは受験・進学のために
作られたようなものですから)。

で、実際に取材してみて、
学校とは縁遠くなった社会人にとっても、
学術界のトレンドを知ることは有益だなと思いました。
新しく生まれた学問分野は、そのままビジネスの芽。
文系・理系にかかわらず、大学の最新情報に目を向けてみるのも
いいことなのかもしれません
(大学の中に技術シーズを探すなど、
理系の人は社会人になってもやっているのかもしれませんが)。

そんな感じで、理系の基本に立ち戻ったような今回はどうだったでしょうか。
今まで同様、多くの皆さんからのご意見・ご感想をお待ちしています。
また、引き続き「文系のこんなところがワカラナイ」という、
理系の皆さんからのご意見を募集中!
どうぞよろしくお願いします!

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