半径3メートルの身近なデジタル

第9回 電波時計の電波はどこから来るの?

2009.09.30 WED

半径3メートルの身近なデジタル


この日本標準時刻が電波にのって送信される。もしここで、とんでもないイタズラをすると…、日本の時刻は…、メチャクチャにー。少しだけ手がムズムズしてしまいました。もちろん、大人なのでおくびにも出さなかったけど

日本の時間は小金井で作られる!? 電波時計の電波の秘密



時間にルーズな人は社会人としてダメ。デキる男は秒単位でも正確に把握したいということで、今回は「電波時計」を取り上げるぞ。

電波時計とは、その名の通り時計内の受信機が「電波」を受信して、時間を自動的に合わせてくれるもの。最近ではクロックタイプなら1000円を切る値段で売っているし、腕時計への搭載も増えてきている。昔は117(時報)に電話をして、ポーンという時報に合わせて竜頭(りゅうず)を押して時計を合わせたものだったのに。便利になったもんだ。

しかし、電波で時間を合わせるっていったいどういうことだ? 東京タワーからラジオやテレビの電波と一緒に発信されているのかな?

調べてみると、電波時計の電波は東京タワーからではなく、福島県にある「おおたかどや山標準電波送信所」と、佐賀県と福岡県の境にある「はがね山標準電波送信所」から発信されていることが判明。そこで、この送信所を管轄する独立行政法人情報通信研究機構 光・時空標準グループの小竹昇主任研究員に詳しい話を聞いた。

「電波時計は、テレビやラジオとは異なる電波長波を利用しています。長波は遠距離には届きにくい電波で、短波のように海外までは届きません。ただし、安定した電波を届けることができるんです。我々が発信する電波は、日本国内にだけ届けばいいのですが正確さが必要です。ですから、長波に日本の標準時刻をのせて発信しているんです。腕時計では、電波ノイズが少ない午前2時と4時に受信して時刻を修正するものが多いですね」
おおたかどや山標準電波送信所にあるセシウム原子時計。分厚い扉の中に設置されており、温度、湿度、電磁界などの周辺環境による変動要因から隔離されている。小金井のセシウム電波時計との誤差は±100ナノ秒以内。1ナノ秒は10億分の1秒
国内は北海道から沖縄まで前述の2カ所で完全にカバーできるとのこと。ところで、電波にのせる標準時刻ってなんですか?

「実は日本の標準時刻は、東京都小金井市で作られているんです」

ん、時刻が作られる? 時刻って勝手に刻まれるものではないの? 不思議なことをおっしゃいますね。

「独立行政法人情報通信研究機構の本部に、18台のセシウム原子時計がありまして、その平均をとった値が日本の標準時刻なんですよ。この時間が電波時計にコピーされているんですね。伝達される情報には時、分、通算日、西暦の下2桁、曜日、うるう情報などがあり、これらが1分間かけて送信されます」

ちなみに、計算上は30万年に1秒ずれるとのことだが、正直、そのころは生きてないからどうでもいいっす。しかし、さすがは時間に厳しい日本人ですね。

「標準電波を発信しているのは日本だけではないですよ。ただし、国独自の信号で各国に任せられているので、電波同士の共通性はありません。最近はマルチバンドといわれる世界各国の標準電波を受信できる電波時計がありますが、あれは受信機が各国の電波を分析して対応しています。受信機を腕時計レベルまで小さくして、なおかつ世界中の標準電波に対応させたのはメーカーさんの努力のたまものですね」

日本の標準時刻を作っているのに「メーカーの努力のたまもの」とは、なんて謙虚なコメント。みなさん、電波時計で時間を見るときには、時計のすごさだけではなく、標準時刻を管理して送信している人たちにも思いを馳せてあげようじゃないか。
おおたかどや山標準電波送信所のアンテナ。高さは250mで、人間がすっぽり入るくらいの太さ。山全体に張られたワイヤーで支えられており、傘型に広がっている。鉄塔を中心にワイヤーで囲まれた地面の面積は約8.9万平方メートル。東京ドーム2個分

大河の一滴ならぬ標準電波の源流を求めてナビにも表示されない山奥へGo!



携帯電話のアンテナ表示はしばらく圏外が続いている。東京から車で4時間、ナビも表示をあきらめる福島県大鷹鳥谷山(おおたかどややま)の山中で、我々が目指しているのは、そう、電波時計の電波が送り出される場所。「おおたかどや山標準電波送信所」だ。

「おおたかどや山標準電波送信所」は、電波時計の電波を発信する日本で2カ所しかない施設の一つ。今回、年に一度のメンテナンスの機会に、施設内の心臓部を見せてもらえることに。

何度か道に迷いながら山を登っていくと、山間部には似つかわしくない鉄柵が。ご丁寧に「立ち入り禁止」の看板と監視カメラもついている。すわショッカーの基地かと思うほどの怪しさだが、ここが目的地だった。門をくぐりさらに5分ほど登ると標高790mの山頂に到着。そこには、これまでに見たことのないバカでかいアンテナが鎮座していた。アンテナを支えるためのワイヤーも尋常な太さじゃない。これだけデカイものを見ると自分のテンションも上がるな。

小学生の社会科見学のようにはしゃいでいるところに「これは高さ250mの傘型アンテナです。このワイヤー自体がアンテナの役割をしており、ここから 50kWの電力で長波の電波を発信しています」との説明が。声の主は、この送信所を管轄する独立行政法人情報通信研究機構 光・時空標準グループの小竹昇主任研究員。

しかし、電波時計のためにこんなに巨大な電波施設をつくるなんてスゴイですね。

「標準電波送信所は、電波時計のためだけに電波を発信しているわけではありません。ここから発信させる長波帯標準電波は、放送や電話の時報サービス、地震計や気象観測機などの時刻管理、鉄道や道路交通の時刻管理などにも使われます。時間以外にも、計測器や無線機の基準周波数にもなっているんです」
強力な電磁波が発生する整合器室は、送信中は立ち入り厳禁。もしも中に入ったら?と尋ねると「電子レンジの中にいるようなものです」。壁は外に電波が漏れないように銅板でシールドされている。不思議な形をした球体は、雷の発生を感知するためのもの。電子機器にとって雷は大敵。これだけ高いと雷が落ちやすいので常に警戒している
まさに電波界の日本橋(道路起点がある場所ね)、いや、音をチューニングする音叉のような役割といったところかな。アンテナの見学を終えて施設内に足を踏み入れると、正直、意外と普通。変わったところといえば、窓に銅線が張り巡らされていることくらいだ。

「50kWと強い出力なので、室内に電波が入ってこないようにしてあります。アンテナ周辺にも立ち入り禁止のロープが張ってあったでしょう。今日はメンテナンスのために日中は電波を止めているから入れたんです」

なるほど。ところで、今しか見られない心臓部ってどんな場所なんですか?

「整合器室ですね。ご案内しましょう」と連れていかれた部屋は、まさに心臓部という表現がぴったり。キラキラと光る銅板の壁に囲まれた部屋は、とにかくデカい機器に球体や円盤状の物体があり、子どものころに見た未来の研究所そのものだ。

「ここにある整合器は、アンテナと送信機のインピーダンス整合をとるための装置です。送信機から出ている電波をアンテナにロスなく効率的に送る部屋だと思ってもらえると分かりやすいと思います」

次に見せてもらったのが、原器室と時刻信号管理室。ここでは、セシウム原子時計をもとに、長波帯標準周波数信号と時刻コードを生成している。

「ここで作られた時刻コードなどが、先ほどの整合器室を経由してアンテナへ送られて、日本全国へ送信されるんです」

ここが、電波や時刻が生まれいずる場所、いわば「電波と時刻の源流」(勝手に言ってるだけだけど)かと思うと感慨もひとしお。送信所では24時間体制で2~4人の監視員さんが、アンテナ、送信機関連、原子時計の保守管理を行っているのだとか。日本中の時計を司る四天王と呼ばせてもらいます!

一通り見学を終えたのは、約3時間後。取材前と後では、自分の時計が示す時刻が少しだけ違って見えた気がした。時間なんて勝手に進むものと思っていたけれど、誰かがどこかで、というかこの送信所でしっかりと管理していたんだね。これから時計を見るたびに感謝することにします。これからは「いま何時?」って聞かれても、そうねだいたいね~、なんてもう歌いません! 正直、時間の流れをこれだけ気にしたことはありません。我々が使っている時間って、厳密に管理されて、ナノ単位で調整されていたんですね。

一昔前ならそんな正確な時間は、一部の特別な仕事の人くらいしか知り得なかったと思うけれど、電波時計を所有することで、みんながかなり正確な時間を知れるようになりました。

現に、筆者のまわりでも電波時計を使っている人は結構います。でもね、でもね、それでも昔と変わらず遅刻する人は遅刻するんです。

今回の取材で、時間の大切さを再認識しました。5分くらい遅刻に入らないと思っている節があったけれど、時の四天王(と呼ばせてもらいます)である標準電波発信施設の監視員さんを思い出して、時間に厳しい男になるぞ。

今、この原稿を書いているのは、12時35分42秒です。13時00分00秒までには編集部に納品しますから。

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