半径3メートルの身近なデジタル

第10回 3Dデジカメで知る次世代映像の秘密

2009.10.14 WED

半径3メートルの身近なデジタル


2つのレンズの間隔は77mm。人間の目の間隔は、平均65mm。それよりも少し広めにとることで、2枚の写真の差を大きくして立体感を強調できるようにした

人間の目と同じ動きをデジカメで再現する



3D写真が撮影できるデジカメ「FinePix REAL3D W1」が話題になっている。しかし、3D写真自体は新しい技術ではない。写真が趣味だった江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜も立体写真に凝っていたとの逸話もあるくらいだ。

FinePix REAL3D W1の開発に携わった富士フイルム 電子映像事業部 商品部の藤本真一氏によると「立体写真が趣味の人は、これまでもデジタルカメラを2つ並べて撮るなどして撮影していたんです。立体写真用カメラも一時販売されていたのですが、主流にはならなかったんです」とのこと。

確かに、富士フイルムでも「写ルンです」の立体写真キットが発売されていた。しかし、そもそもなぜ2台のカメラで写真を撮ると立体に見えるのだろうか?

「右眼だけで見たときと左眼だけで見たときは背景の位置が変わりますよね。2つの目はそれぞれ少しずれた画を見ているんです。それを脳で合成することで立体感を自然に得ているんですね」

「FinePix REAL3DW1」にもレンズとCCDが2つある。大ざっぱに言えば、2台のカメラで写真を撮っているようなもので、1回のシャッターで2枚の写真を撮影しているのだ。

「人間の目はとても精巧で、見る方向に合わせて左右の視点を調整して、同じ映像を捉えているんです。もし左右の目が異なる風景を捉えたら立体に見えなくなります。FinePix REAL 3D W1は2つのレンズが目の役割をしています。これがしっかりと同じ風景を捉えられるように、剛性の高いアルミダイキャストフレームを使用してレンズを固定しているんです。フレームは頭蓋骨みたいなものかな。2つのレンズで撮影した画像は、プロセッサーで解析、3D画像へと最適化されます。いわばプロセッサーは脳ですね」

プロセッサーの処理能力が向上したことで、3Dデジカメは実現できたのだという。ただ、撮影側だけで3D対応しても、実はあまり意味がない。液晶側も3D画像が見える仕組みが必要だった。

「カメラの背面液晶の画像はひとつの画に見えていますが、実は左右のレンズで撮影した画像が高速で入れ替わって表示されているんです。右の画を出したときには右の目に届くような光の方向、左の画が写ってときには左の目に届く光の方向、これで臨場感のある3D画像を表現します」

ただし、この方式だと液晶の正面でしかしっかりとした立体画像を見ることができない。そこで考えられたのが、カメラと同時発売の液晶3Dビューワーだ。

「こちらは、複数の人が見ることを前提としているので、正面からでなくても3D画像を見ることができます。理論を簡単に説明すると、左右のレンズで撮影した画像を1ドットごとに交互に表示しているんですね。その前にバリア(格子状の真っ黒なスリット)を入れることで、右眼には右レンズで撮影した画像だけが、左眼には左レンズで撮影した画像だけが入ってきて立体的に見えるという仕組みなんです」

ちょっと乱暴だが、3D映画でつける偏光メガネのかわりにバリアを設置しているから、裸眼でも立体画像が見られると考えると分かりやすいかもしれない。

ただし、現在ではやはり偏光メガネを使用した方が、画面に対してより急な角度でも立体感を得やすいとのこと。今後、技術が進めば、裸眼でも十分立体画像が楽しめるようになるだろう。
デジカメと同時に発表された液晶3Dビューワーでも立体画像を鑑賞できる。こちらは、カメラの背面液晶に比べて、いろいろな角度から観ても立体を感じることができる

写真のリアリティを追求したら3Dデジカメへと行きついた



富士フイルムが発売した「FinePix REAL 3D W1」は、メガネ不要の立体映像が撮影できる世界初のデジタルカメラだ。背面モニターや3Dビューワー、3Dプリントで、撮影した映像が立体に見えるという。

実は、撮影をしてモニターで見るまでは、私も半信半疑だった。一昔前の立体視絵本のようなものを想像していたのだ。しかし、モニターに映った映像はこれまでに見たことのないもの。正直、驚いた。

飛び出して見えるというよりも、モニターの中に奥行きがあって立体のミニチュアが存在しているような感覚だ。モニターの中に別世界が広がっているというところだろうか。しかも、写真だけでなく動画も3D撮影できるというから、さらに驚いた。しかし、なぜデジカメで3Dを表現しようと考えたのだろうか。

「よりリアルな写真を目指すと3Dという選択は必然だった」と語るのは、富士フイルム 電子映像事業部 商品部でFinePix REAL 3D Systemの開発に携わった藤本真一氏。

「3Dは未来的な技術で新しいものではありますが、決して突拍子のないものではありません。当社のデジタルカメラの開発コンセプトである目で見たままの瞬間を撮影するために必要になる技術の一つだと考えています」
人間の目を再現するための工夫の一つがアルミダイキャストフレーム。頭蓋骨が目を固定するように、しっかりとした骨格でレンズを固定した
今までは、画素数を上げることで写真のリアリティを上げてきたデジタルカメラ。3D技術が導入されることでどう変わるのだろうか。

「私たちが目指しているのは、人間の目で見たままの瞬間を、自然な形で簡単に写真に残すということ。人間の目で見るシーンには、当然奥行きを感じるでしょう。写真にも奥行きを持たせることで、後々写真を見たときに、より鮮明にそのシーンの記憶を思い出すことができるんです」

目で見たままの瞬間をより鮮明に残すための手段を模索した結果が3Dだったということだ。ただし、3Dだからといって「簡単に」という点をないがしろにはしなかったという。

「裸眼にこだわったのも、簡単に楽しめるためです。いつでもどこでも楽しめるというのが弊社のポリシーですから。3D映画や3Dテレビは、メガネをかけて大人数の人がある場所に集まって楽しむスタイル。私たちは、少人数が場所を選ばずに、自分たちで撮影したものを楽しむスタイル。現時点では方向性が違うんです。ただし、いずれは、私たちの3Dカメラで撮影した映像を3Dテレビで鑑賞するようになるといった形でつながっていくと考えています」

今年に入って3Dシネマの上映が増えてきている。年末から来年にかけても盛り上がりが予想されている。これに、3Dテレビやブルーレイ再生機などが加われば、来年あたり3Dブームが到来するかもしれない。しかし、それらはすべて受け身のもの。

現段階では自分で3D画像や動画を撮影するなど能動的に3Dにかかわれるのは、この3Dデジカメくらい。もっとも身近な3Dといってもいいだろう。今ならば話題の中心になれるし、もしかしたら10年後にはお宝マシンになっているかもしれない。 正直、個人的には3Dにはあまりいい思い出がない。
これまでにも1980年代半ばや1990年代半ばなどに何度か3Dブームはあった。
赤青のセロファンメガネをかけて映画を観たり、
任天堂の3Dゲーム機「バーチャルボーイ」で遊んだり、
立体視写真集を穴が空くほど見つめた経験のある人も多いだろう。

子どもだった筆者は、なかなかうまく立体視ができず、
赤青セロファンでは頭が痛くなり、
「バーチャルボーイ」は家庭の経済的事情から買ってもらえずと、
なんら3Dにいい思い出がないのだ。

しかし、現在の3D技術は別次元。
無理な立体視をしなくても自然に奥行きのある映像を見ることができるし、
映画も赤青セロファンではなく偏光メガネを使っている。

来年は、ソフトとハードの両面の充実によって、
さらに3D映像への興味や関心が高まるのは間違いない。
「FinePix REAL 3D W1」も、より軽量コンパクト化と、
周辺機器との互換性を高めて進化していくのではないだろうか。

3Dが身近なIT・デジタルの仲間入りをするのも、そう遠い話ではない。

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