生命保険はボクらを守ってくれるの?

第24回 保険の難しさ、その正体とは?

2010.01.25 MON

生命保険はボクらを守ってくれるの?

保険を難しくさせている正体とは…



保険を選ぶときに必要となるのは“冷静な”判断力なのですが、いざ保険に入ろうと保険会社の営業担当に話を聞くと、いろんなことが不安になり始めて、結局、いろんな特約を付けた保険に入ってしまう。保険を賢く選ぶのって、なかなか一筋縄ではいきません。

保険の難しさって、どこらへんにあるのでしょうか?  今回はそのあたりの事情を、“わかりやすい保険”をモットーに、インターネットでシンプルかつ割安な保険を販売しているライフネット生命の出口治明社長に聞いてみました。

出口「わが国の保険業界が戦後50年間、『保険は難しいものだから、一般の人はわからなくても仕方ない』というスタンスを取り続けてきた結果、一般の人たちの間で『保険は難しいものだからプロに任せよう』という考え方が定着してしまった。これが、現在の保険の難しさの正体だと思います」

日本の保険会社は、欧米諸国にはない、独特の保険の売り方をしてきた。それによって保険はさらに“わかりづらく”なってしまったのだと、出口社長は言います。
保険の外交員がよくアピールするのが「義理」「人情」「プレゼント」。実際、約7割の人が保険を購入する際に比較検討を行わないんだとか…。
出口「保険を売るために保険の外交員がよくアピールするポイントは“GNP”すなわち『義理』『人情』『プレゼント』、それに『愛情』と『恐怖心』ですね。『家族は大事でしょ? がんは怖いでしょ? だから保険に入りましょう』と…。その結果、多くの人が、自分にはどんな保険がふさわしいのか、いや、そもそも自分には保険が必要なのかを十分に検討しないまま、営業担当が薦める保険に“おまかせ”で入るようになってしまいました」

なぜそういう売り方が定着したのでしょうか?

出口「お客さまの感情に訴えた方が保険を売りやすいからです。逆に、お客さまが保険について冷静に分析するようになると、保険は売りづらくなる。そのせいか保険会社側も、保険に関する情報をお客様にわかりやすく提示しようという意識が極めて低かった」

興味深いデータがあります。2009年9月発表の「平成21年度生命保険に関する全国実態調査」(生命保険文化センター)を見ると、全体の68.1%の人が保険会社の営業担当から保険を買っているそうです。また、67.7%の人が保険を買う際は他の保険と比較しなかったとも回答しています。

出口「いまの生命保険の問題点は、まさにここにあります。1つ目の問題点は、保険に関する比較情報があまりないこと。2つ目は、1社専属の営業担当以外の販売チャネルがあまりにも弱いこと。優れた商品というものは、十分な比較情報と自由にアクセスできる販売チャネルがあって、初めて世の中に普及していきます。ところが保険の場合、約7割が保険会社の営業担当を通して販売されており、しかも、その営業担当は自社の保険しか売ることができませんから、比較情報をお客さまに提供することはない。比較検討する材料があると、自社の保険を売りにくいからです。これでは、良い保険が世の中に普及していくわけがありません」

なるほど、そういわれると、保険の販売ってかなり特殊なんですね。

出口「保険会社側は、これまで自分たちの持っている情報をあまり積極的に開示しようとはしてこなかった。『情報提供者=売り手』では、公平中立な情報は得られません。だから保険会社とお客さまとの間の情報格差は広がるばかりだし、『保険って難しい』と思われるようにもなるのです」

保険の理想はお客さまが必要な保障を自由に選べること



いまの生命保険の問題点は、比較情報が乏しいことと、販売チャネルが1社専属の営業担当に偏っていること。そして、そこから生まれる保険会社と顧客の情報格差が、保険を難しくさせているようです。では、“理想の生命保険”って、どんなものなのでしょうか。インターネットでシンプルかつ割安な保険商品を販売しているライフネット生命の出口治明社長に話を聞きました。

出口「生命保険は、大別すると4種類しかありません。若いときに必要な死亡保険、年を取ってから必要な年金保険、人生観によっては必要な医療保険、節税対策として必要な主に法人で入る保険。私が考える生命保険の理想像とは、これら4つの保険を、会社を問わず、お客さまが自由に組み合わせて入れること。自分にとって本当に必要な保険だけをシンプルに選んで入れば、無駄がありません。もちろん、そのためには、保険を比較検討できるだけの情報が開示されていないといけません」

だとすると、現在の日本の保険は、理想からまだまだ遠いんですね。

出口「いま売られているものの多くは、保険の“福袋”。代表的なものでは、終身死亡保険が主契約になっていて、それに定期死亡保険が付いて、さらに三大疾病など、いろいろな特約が付いているものです。本当に必要な保険以外もなんとなく抱き合わせで買ってしまいやすくなっているため、結果的に高い保険料を払うことになります。一方、欧米では『保険はロス・ファイナンシングのひとつの手段である』と考えるのが一般的。つまり保険は、自分が何らかのロスを被ったとき、それを補てんするひとつの手段に過ぎない、というわけです。とても明快ですね。だから、十分に貯えのある人には、保険は不要だとすぐにわかる。ロスを補てんするための、別の手段を持っているからです」

出口社長によれば、保険業界には独特な慣習がまだまだ残っているんだとか。たとえば、契約前には約款を渡さないというのもその1つ。約款は保険の様々な契約条項を書いたもので、契約前にチェックしたいという人もいるはずなんですが…。そうした慣習って、これから変わっていくのでしょうか?
2008年11月に自社の付加保険料の割合を公表したライフネット生命。その割合は、現在もホームページで確認できます
出口「確かに、戦後50年間かけてつくられた生命保険業界を変えるのは大変でしょうね。まだ保険を購入した人の約7割が、保険会社の営業担当から保険を買っているのが現実ですから…。しかし、強固だったベルリンの壁もついに崩壊したように、この業界も必ず変わると信じています。キーワードは『情報』です。ベルリンの壁が西側からの情報で崩壊したように、『保険は難しくない』『シンプルな保険にすれば保険料は安くなる』という情報が広く一般に浸透すれば、業界も変わらざるをえないのではないでしょうか。当社は2008年11月に、どの保険会社もやってこなかった付加保険料(保険料のうち、保険会社の運営経費にあたる部分)の割合を公表しましたが、あれも重要な情報公開のひとつでした」

保険業界が変わったら、日本も変わりますか?

出口「どんな業界でも、良いことをやれば世の中は必ず良い方に変わる。これがボクの信念です。いまの日本を見ると、これから子どもを産んで育てるであろう20~30代の人の年間所得がおそろしく低い。こんな国は先進国で日本だけ。まだ貯金高の少ない20~30代の人にこそお金も保険も必要なのに、現在の所得水準では月1万円の保険料もキツいだろうし、赤ちゃんを産むどころではありません。ライフネット生命をつくったのは、「保険料を半額にするから、安心して赤ちゃんを産んでほしい」という想いがあったからで、ネット生保という業態を選んだのも、営業コストを省いて保険料を安くするためです。大手生保は1社あたり2000カ所くらいのリアル店舗を持っていますが、当社の店舗はインターネット上にひとつだけ。だから手数料を安くできるのです」

保険は、人生で住宅の次に大きな買い物だといわれています。ここが変われば、ボクらの将来設計も変わってくるはず! こう思うと、そんな大事なことを保険の営業担当に任せっぱなしでいいわけがありません。出口社長の力強い言葉を胸に、本当に自分に必要な保険を選ぼうと思います。 出口社長のインタビュー、いかがでしたか。

これまでずっと生命保険に携わってきたからこそ言えるその発言は、非常に説得力あり、これまでなんとなくモヤモヤしていた、保険のわかりにくさの正体をはっきりさせることができました。

それにしても今回、出口社長にお会いして、「保険を変えたい」という熱い想いには圧倒されっぱなし。一度出来上がってしまったものを変えるのは簡単なことではないと思いますが、近いうち、保険を十分に比較検討でき、最適な価格の保険が数多く登場しているんじゃないか――そんな気持ちになりました。

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