生命保険はボクらを守ってくれるの?

第1回 保険の営業って儲かるの?

2009.01.26 MON

生命保険はボクらを守ってくれるの?

年間1000万円以上の手数料収入がある生命保険営業の実態



保険について調べるとはいったものの、正直ボクには縁遠い話。何から調べればよいのかもよく分からない。そこで、まずは保険について何が分からないかをはっきりさせるべく、生命保険業界に転職した知人に話を聞くことにした。彼は現在、某外資系生命保険会社のかなり成績優秀な営業で、年齢は40代前半。ボクの申し出に「受注」のにおいを嗅ぎつけたのか、ウチの近くまで来てくれるという。待ち合わせ場所に行くと、高級外車に乗り、パリッとしたスーツを着込んだ彼がすでに待っていた。駐車場が近所にないから都心のホテルのラウンジで話そうという。そこなら車も置けるし…と。ああ、なんだか、ずいぶん羽振りがよさそうだなあ。


この不況で世の中はどんどん厳しくなっている。国の社会保障制度もそうだし、昨今の雇用問題からみても、会社が一生ボクらを守ってくれる時代ではない。
入会基準が厳しく、一部の生命保険トップ営業しか入れないMDRT。日本の会員は2990人
ラウンジに着くと、彼は保険の説明に入る前に自分が「MDRT(Million Dollar Round Table)」の会員であることを明かした。MDRTとは、保険会社の枠を越えた生命保険・金融サービスの専門家による国際的かつ独立した組織。入会基準 は厳しく、一部のトップ営業しか加入することはできないらしい。ちなみに現在、世界の86カ国に3万9218人(2008年6月現在)の会員がいて、日本 の会員数は2990人(2008年3月現在)。年に数回の会合があり、情報交換や勉強会、社会貢献の一貫としてボランティア活動も行う。





なんかすごそうだけど、MDRTに入るにはどういった基準が?

「雇用形態によって若干の違いがあるけど、基本的には保険会社から発行される成績証明書を出す必要があるんだ。基準は、初年度手数料として年間約1000万円の営業成績をあげていなきゃいけない。この基準は毎年変わるけど、平均してこのくらいだね」

ちなみに初年度手数料とは、契約を取った生命保険から初年度に営業に入る手数料のことで、要は営業の収入だ。ちなみに2008年度のMDRTへの入会基準は初年度手数料1100万円だそう。ところで1000万円以上の手数料、ということは売り上げはもっとあるということ?

「その通り。このくらいの手数料を稼ぐためには、月1万円の保険料で、年間250件以上の契約を取らなきゃいけないんだ。1年365日として、休日も入れれば稼働日にはほぼ連日受注していないと達成できない数字だよ。でも、もっとすごいCOT(Court of the Table)とかTOT(Top of the Table)なんていう称号を持っている人もいて、彼らはかなり稼いでいるね」

COTとはMDRTの入会基準の約3倍、TOTに至ってはなんと約6倍の手数料を稼ぎ出した人だとか。ええと、それっておおざっぱに計算すると年収3000万円以上とか、6000万円以上ってことですよね…。

大変そうだけど、生命保険の営業って儲かるんだなあ。「でも、なぜそんなに稼げるの?」と疑問を抱いたボクはさっそく取材を開始。『生命保険の『罠』』(講談社+α新書)の著書である後田亨氏に話を聞いた。

「確かに10年近く前なら、生命保険で稼げた営業も多かったかもしれません。現在でも年俸で2000万円以上稼ぐ人はいますが、それはごく一部の人です」(後田氏)

でも、生命保険会社の経営内容を開示した冊子(ディスクロージャー誌)を調べてみると、平均収入がかなり高い企業もあるようなのですが…。

「例えば、日本のプロ野球選手の平均年俸が3631万円(2008年)。大リーグではその9倍以上の300万ドル(2006年)ですが、これらの数字は日本プロ野球では阪神の金本選手の5億5000万円、大リーグだとヤンキースのアレックス・ロドリゲス選手が約30億円(年俸換算)といったような一部の高額年俸者が平均年俸を引き上げているからです。生命保険業界もこれと同じ構造といえるのです」(後田氏)

なるほどねえ。生命保険の営業でバリバリ稼いでいる人はいるけど、それって年間数百件レベルの契約を獲得している一部の人だけなのね。きっと、それだけ契約を取るには苦労も多いんだろうな。そのあたりの実情はどうなっているのだろう?

リピーターができない生命保険営業の厳しい現実



年間数百件の契約を獲得して、年収数千万円を稼ぎ出せる生命保険の営業の世界。初年度手数料として年間約1000万円の営業成績をあげている人しか入会できないMDRT(Million Dollar Round Table)といった組織があったり、なんとなく華やかなイメージ。しかし、それはごく一部のスタープレイヤーだけで、ほとんどの営業はそんなに稼げているわけではない。しかも保険業界ならではの大変さがいろいろあり、決しておいしい仕事ではないのだ。
リピーターがいない生命保険の営業は、新規顧客を獲得するため自腹、休日返上は当たり前でセールスしないといけない厳しい世界
保険業界の知人によると、生命保険の営業の大変さはリピーターがいないことらしい。生命保険の営業は、一度契約を取れば毎月ずっと決まった収入が営業成績 になるわけではなく、収入は初年度の契約分の占める割合がかなり大きい。つまり、新規の契約を常に追いかけていなければならないのだ。化粧品だと気に入っ てもらえれば、何度もお客さんが来てくれるけど、保険は一生ものの買い物だけに次がない。だから契約者に『どなたか親しい友人やご親戚など、お客様をご紹 介してください』なんて必ず声をかけておくとのこと。このセリフ、聞き覚えがある人も多いのでは…。

生命保険の営業は常に新規で契約を取らなければ生きていけない競争社会であり、しかも契約後、あまり時間がたたないうちに契約解除されるともらった歩合給のうちのいくらかを返却しなければいけない。

他にもせっかく契約にこぎ着けたと思ったら、本部から審査で落とされるというケースもあるという。契約者が微妙な健康問題を抱えており、本部の審査データベースに引っかかったという場合だ。過去に手術を受けたことがあり、身体への影響が医学上ないとされていても「再発の可能性がある」などと判断されてしまうケースもあるという。この場合、落とされた理由は開示されない。顧客との板挟みになってつらい思いをしなければならず、さらに自分の成績も落ちる。

さらに2005~2007年にかけて発覚した「不払い問題」も現場には大きな影響を与えている。このため契約者への再度の生命保険契約内容の説明回りなどに現場のパワーが割かれたため、新規の契約獲得に集中できず、食いつなげなくなった営業も多かったそうだ。アフターフォローが行き届いていないという契約者からの苦情に対処するため、新規受注だけを目指せばよかった時代ではなくなったのだ。

収入だけで一瞬うらやましいと思った生命保険の営業だけど、実際はとても厳しい業界であることが分かった。でも、ここまで営業が苦労して販売している生命保険の“中身”って、どれだけの人が理解しているのだろうか?
テレビやパソコンなどを買うときは、カタログなどでスペックを調べて、インターネットや店頭で価格を比較して、納得したものを購入するけど、生命保険って結局は営業の人柄や信頼感だったり、知人の紹介などで入っているような…。そうか! だからこそ、生命保険の知識が豊富な営業や、アフターフォローがしっかりしていていざというときに頼りになる営業など、営業のパーソナリティーが重視される業界なのか。

でも、その高給な営業の人件費も結局はボクらが支払う保険料に含まれているはず。もちろんどんなものにも少なからず人件費は含まれているけど、テレビやパソコンと同じように、生命保険もボクらがきっちりとスペックを調べて、価格を比較する努力をすれば、もう少し納得して入ることができるものなのかもしれない。ただし、問題なのは月々支払う保険料の内訳がよく分からないこと。現状は、営業が提示した金額をそのまま支払うしかなさそうなのだが…。というわけで、次回は保険料はどうやって決まるのか、について調査しようと思ってます。 外から見ると景気がよさそうな生命保険の営業も、勝ち組と負け組が明確に分かれる厳しい業界であること分かりました。さらに生命保険の営業には業界ならではの苦労があり、多額の収入を得るには休日もなく、常に新規顧客を獲得していかなくてはならないことも…。

とはいえ、高給な生命保険営業の人件費も最終的にはボクらの保険料から支払われているはず。というわけで次回は「保険料はどうやって決まるのか?」を調査しようと思っています。

今後の調査の参考に、皆さんの保険に関するギモンや意見も教えてください。よろしくお願いします。


取材協力・後田 亨 氏

関連キーワード

ブレイクフォト