「ねじれの発想力」で差をつけろ! 第8回

耕運機を「家庭用」にしたホンダ流

2013.04.11 THU


2012年2月に追加発売された「ピアンタ」の新色モデル。女性層のリクエストに応えて、ボディーには「フレッシュオリーブグリーン」、ハンドル部分にはテラコッタ風のベージュを採用している 写真提供:ホンダ
「耕運機」といえば、畑の土を耕したり、畝(うね)を作ったり、除草をしたりするための農機具。普通に考えれば、農家の人以外にはおよそ縁遠い存在に思える。

それを大胆にも「家電製品のように1家に1台買ってもらえるコモディティー商品にしちゃおう!」と考えて開発したユニークな製品がある。ホンダが2009年3月に発売した家庭用小型耕運機「ピアンタFV200」がそれ。

ターゲットは、家庭菜園での野菜作りやガーデニングを楽しんでいる本格派のアマチュアユーザー。ロハス志向や食の安全への関心が高まっていることを背景に“土いじり”を始める人は目下急増中。そこで「農作業にはまだ不慣れで、体力もない」という主婦や中高年層でも楽に扱えるように小型軽量化し、簡単な操作・移動・収納を実現したのが売りだ。なかでもイチ押しのセールスポイントは、エンジンを回す燃料にガソリンや軽油ではなく、カセットコンロ用のガスボンベを使えるようにした点。お鍋を食べるときに使う、あのカセットガスだ。それもたった1本でOK! カセットコンロを使うときと同じようにワンタッチで装着でき、1本のボンベで約1時間の連続運転ができるというから驚きだ。

開発のきっかけは、独自に実施した市場調査。「耕運機はほしいが、まだ買っていない」という人に理由を聞いてみた。すると、購入をためらう一番の要因は「燃料」にあることがわかった。「ガソリンは取り扱いが危険だし、買うのも保管するのも面倒」「給油するときに手が汚れる心配があるのが嫌。あの臭いも嫌い!」などなど、ガソリンはかなり評判が悪かったのだ。

じゃあ、どうすれば良いか。ガソリンの代わりになって、手軽に扱える燃料といえば……それこそ「1家に1台」あるじゃないですか、カセットコンロというものが! 他の選択肢としては充電式のバッテリーも考えられるが、事前に長時間充電する手間がかかるし、作業中に“電池切れ”になったが最後、全く使い物にならなくなってしまう。なぜなら、そもそも耕運機は「家の外」で使う機械だし、自宅から離れた市民菜園など電源がない場所で使う人が多いわけだから。その点、カセットガスなら燃料切れになっても、すぐに予備のボンベに入れ替えるだけで済む。確かにグッドアイデア! 

「ねじれの発想力」という点では、誰にも考えつかないような“ブッ飛んだアイデア”ではないかもしれない(事実、カセットガス式の小型耕運機は他社も商品化している)。そのこと以上に筆者がスゴイと思うのは、これを「世界のHONDA」がやっちゃったこと。たとえ中身が確かでも、一歩間違えれば“なんちゃって商品”と捉えられかねないリスクもある。これがなまじ無名のベンチャー企業とか、異業種メーカーとかだったら、「ウチは素人だから、かえって柔軟な発想ができるんですよ」と自慢話になるだろう。でも、ホンダはF1エンジンまで手掛けてきたエンジンの専門家集団。誇り高きプロフェッショナルなればこその葛藤があったはずだし、企業戦略としてもそれなりに「勇気ある決断」だったのではないだろうか。

そのあたりの経緯について広報部に尋ねると、商品・技術広報ブロックの香川信主任は「一言で言えば、『マーケットイン』の考え方を貫き通したということですね」と答えてくれた。「もちろん、いろいろ議論はありましたよ。ガソリンに比べて10%ほど出力が弱くなるとか、摂氏5度以下になる寒冷地での使用には向かないといった不利な面があるのも事実ですから」。が、そこは一種の割り切り。「お客様の期待とニーズがある以上、それに応えることこそが本田宗一郎以来のホンダイズム。それがむしろ専門メーカーの使命であり、それによって新しいマーケットも開拓できる。私たちはそう考えているんです」。

実際に「ピアンタ」はどれくらい売れているかというと、2012年1月末現在の累計販売台数は約2万1000台。発売当初の目標(年6000台)を上回り、期待通りのヒット商品になっているそうだ。同社によると、国内の家庭菜園・ガーデニング人口は3000万人に達し、このうち耕運機の想定ユーザーとなる、3坪(約10平方メートル)以上の庭や畑で楽しんでいる人だけでも1200万人もいるとか。そうであれば、いくらなんでも「1家に1台」は無理にしても、これから先、「サラリーマンなのに、なぜだか自宅のガレージの片隅に耕運機が置いてある」なんて“ねじれた光景”も珍しくなくなるのかもしれませんね。
(高嶋健夫)

※「ねじれの発想力」とは…
難題への対応を迫られる場面で、一見すると無関係に思われる事象を結びつけ“あさっての方向”から解決策を考え出す発想力のこと。「ねじれの位置」にある2本の直線が最接近する1点で、高速道路のジャンクションで路線を乗り換えるように、大胆かつ柔軟に発想を切り替えるのが成功のコツ。

※この記事は2012年4月に取材・掲載した記事です

  • 著者プロフィール

    高嶋健夫(たかしま・たけお) 本屋のせがれに生まれ、新聞記者、雑誌記者兼編集者、書籍編集者をひと渡り経験して、現在はビジネス分野を専門とするフリージャーナリスト。R25・35世代と比較しながら団塊世代の攻略法を説いた『R60マーケティング』(日本経済新聞出版社)など著書多数

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