あなたのそばにカビがいる/第5回

助けてカビ様!人命を救うカビの話

2014.05.28 WED


病原菌の培養実験をしている容器に、うっかり青カビをはやしてしまったところ、カビの周囲だけ病原菌の繁殖が抑えられていた…。ペニシリンは細菌学者・フレミングのそんな失敗から発見されたというエピソードも 春風清/PIXTA
味噌やチーズなど食品づくりに役立つことがあるとはいえ、カビといえばたいていは迷惑な存在、というイメージが強いですよね? しかし、カビが命を救うということもあるようで…。

「カビが多くの人命を救ってきた、というのは間違いのない話です」。そう教えてくれたのは、千葉大学真菌医学研究センターの渡辺哲博士。

「抗生物質という言葉を皆さん聞いたことがあると思います。1929年、世界で初めて発見された抗生物質“ペニシリン”は青カビが分泌する物質を抽出したもの。感染症の原因菌を破壊して殺す効果があるんですね。かつて肺炎や梅毒などの感染症は不治の病といえるものでしたが、ペニシリンのおかげで、助かる患者さんが圧倒的に多くなりました。第二次世界大戦では、戦場で傷ついた兵士の破傷風菌による死亡率を大きく下げ“魔法の薬”ともてはやされました。ペニシリンを含めた抗生物質がなければ、治らない病気はたくさんあります。まちがいなく20世紀の偉大な発明のひとつといえるでしょうね」

カビ、恐るべしです。もちろんいい意味で。

「カビを利用して作られる薬にはもっと身近なものもありますよ。水虫の原因が白癬(はくせん)菌というカビなのはご存じと思いますが、その薬となる水虫薬、抗真菌薬にもカビ由来の抗生物質を使っているものがあります」

まさに「毒をもって毒を制する」を地で行く話ですね。

「カビが他のカビや細菌類などとの生存競争に勝つための武器、毒として持っていた物質を我々が薬として都合よく利用しているというわけです。ちなみに、カビから作られる薬は、抗生物質に限りません。たとえば1970年代には遠藤博士という日本人が青カビから『スタチン』という物質を発見しました。これはいまや世界で最もたくさん使用されている薬のひとつで、高脂血症、心筋梗塞や脳血管障害の患者さんなどに幅広く使われているんですよ」

いや、すごい。なんだか急にカビの可能性に期待したくなってきちゃいました。

「いままで、人類は様々な薬を開発してきましたが、ユニークな薬の構造は人間の知恵から生まれるのではなく、むしろ自然界から発見されることが多いといえるでしょう。なかでもカビは新薬のヒントとして非常に注目されてきた存在なんです。製薬会社はあらゆるところの土を採取して、カビから作られる未知の物質を探しているぐらいなんですよ」

カビによって助かるようになる命もまた、今後増えていくんでしょうね。時に恐ろしく、時に救いをもたらす存在はまさに神様、いやカビ様ってところですね。ありがたや~。

(宇都宮 雅之)

※この記事は2012年5月に取材・掲載した記事です

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