あなたのそばにカビがいる/第9回

抗生物質の乱用に要注意

2014.06.29 SUN


耐性菌による問題が起これば「抗生物質を使ったばかりに新たな被害が生まれた」という面ばかり強調される。濫用は問題だろうけれど、そもそも必要だから使っているわけで、多くの命を救い、医療では欠かせない存在であることに違いはない ※画像はイメージです 画像提供:YU-JI/PIXTA
人に害をなす事もあれば、助けてくれることもあるカビ。カビから作られるペニシリンなどの抗生物質が、感染症治療に役立っているのはご存知の方も多いはず。

しかし「抗生物質の効かない多剤耐性菌の院内感染で死亡者発生」なんて報道を目にする機会も近年、増えた気がします。「抗生物質を利用したため、菌が鍛えられて耐性菌へと変化し人間に逆襲を始めた~」そんな趣旨のコメントが付いている事もありますが、実際のところ菌が鍛えられるなんてことあるんでしょうか?

「その認識が『とある菌が抗生物質に鍛えられ、恐ろしい耐性菌に突然変異した~』というものであるならそれはちょっと誤解があるかもしれません。抗生物質の発見後すぐに耐性菌も見つかっています。人類による抗生物質の発見以前から、実はもともとその抗生物質に対する耐性因子をもった耐性菌は存在していて、抗生物質を使った医療はその菌が問題を起こすきっかけになることがある、と考えている研究者が多いのです」

そうご説明いただいたのは、千葉大学真菌医学研究センターの渡辺先生。しかし突然変異でないのなら、どういったことが起きているのでしょうか。

「例えば必要に応じて抗生物質Aを使うと当然それに耐性のある因子を持った菌のみがセレクトされて生き残りますよね。残った菌を退治しようと、そこでさらに抗生物質Bを使えばAとB両方に耐性のある菌のみが残る。それを繰り返すと、他の菌が淘汰され様々な抗生物質が効かない『高度耐性菌』だけが生き残ります。実のところ体内に耐性菌だけが生き残れる環境がつくられてしまうことが問題なんですよ」

それはどのような問題なんですか?

「自然な状態では様々な菌がお互いを牽制しつつ存在し、一定のバランスが保たれているのが通常あるべき状態。実は耐性菌は単に特定の抗生物質に抵抗力があるというだけで“一匹”ごとの感染力や毒性が取り立てて強いわけではありません。ですから、免疫力のある健康な人ならたとえ体内に持っていても普通は別に怖い菌ではありません。ただ、競争相手がいなくなって自分たちばかりが増えた状態になると突然、悪さを始めることがあるんです。病気や免疫抑制剤の使用で免疫力の落ちている人が多い病棟で感染が発生すれば、大問題になりますね」

行き過ぎたバイオテクノロジーが、無敵のモンスターを生み出し人類に牙を剥いた…、多剤耐性菌の報道からそんな妄想をしていましたが、ちょっと違ったみたい。でも、やたらに抗生物質を使うことは、結果的に耐性菌をのさばらせることになりかねない、そう考えるとやっぱり怖い感じもしますね。

(宇都宮 雅之)

※この記事は2012年6月に取材・掲載した記事です

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