身体にまつわる都市伝説 第106回

脳はマルチタスクを実行できない?

2014.07.15 TUE

身体にまつわる都市伝説


複数の人の言葉を同時に聞き分けたといわれる聖徳太子の例も(真偽はともかく)、「“注意”を適切にコントロールする鍛錬を積めば、可能かもしれません」と末神先生。つまり、頑張ったぶんだけキャパは広がる!? 写真提供/PIXTA
不思議なもので、仕事でもプライベートでも、多忙な時期ほど様々な用事が重なるもの。次々に新たな仕事が発生して、「よりによって、なぜ今…」と泣き言をいいたくなる経験は誰しもあるだろう。

こんなとき、パソコンみたいに「マルチタスク」対応で複数の作業をすいすい同時進行できればなあ、などと夢想してしまうのは筆者だけではないはず。でも、人間の脳はそもそもマルチタスクに対応しているのだろうか? オスロ大学・認知機能研究センターの末神翔先生に聞いてみた。

「少し難しい話になりますが、これについては“情報処理”と“課題遂行”、ふたつの視点に分けて考える必要があります。まず情報処理については、脳は本人の意思にかかわらず、常に様々な情報を同時に処理していますから、マルチタスクといえるかもしれません」

脳が複数の情報処理を同時進行していることは、こんな実験で確かめられるという。

「たとえば、“青”という文字を赤ペンで書いて、その文字色を声に出して言ってみてください。“あか”と答えようとしても、関係ないはずの“青”という文字の意味が邪魔になる感覚が得られるはずです。これは脳が複数の情報を同時に処理しているから起こる現象で、脳科学では『ストループ干渉』と呼んでいます」

一方の課題遂行についてはどうか。TVを観ながらものを食べたり、パソコンの画面を読みながら電話で話したり、簡単な行動であれば、複数のことを同時にやることは誰しもあるはずだ。

「たとえばコーヒーを飲みながら友人と話しているときなどは、“飲む”と“聞く”という2つの行為が同時に行われているように見えるかもしれません。しかし、このとき脳は注意を向ける対象や配分をコントロールしながら臨機応変に働いているにすぎず、厳密には、コンピュータでいうところのシングルタスクでの処理しか行っていないといえます」

ビジネス書などで「マルチタスク型仕事術」などといわれるのは、あくまでたとえ話。一見、複数の行為を同時進行していても、脳のメカニズムを考えれば、厳密な意味でマルチタスクは不可能なのだ。

なお、こうした注意の量の調整能力は、訓練によって向上することが研究により明らかになっているとのこと。激務の時期を乗り越えれば、ちゃんと自分の処理能力はアップしているはずだ。
(友清 哲)

※この記事は2012年7月に取材・掲載した記事です

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