あなたのそばにカビがいる!/第11回

ブドウがカビると高級ワインに?

2014.07.15 TUE


普通は単に迷惑なカビとしか認識されていないのに、人にとって都合がよければ「貴腐菌」と喜ばれるのが面白い。まあ外見はどう見ても「カビちゃったブドウ」なわけで、これでおいしいワインが造れるというからわからないもんです 画像提供:株式会社林農園
温度と湿度が上がるこの季節、いろんな物をカビにダメにされ残念な思いをすることも多いもの。ただ、悪い話ばかりではなくカビてしまったブドウが高級ワインの原料としてもてはやされることもあるという、にわかには信じがたい話も…。

「貴腐ワインをご存じでしょうか? 貴腐菌とも呼ばれるカビ、ボトリティス・シネレアがついた特定の種類のブドウからつくられる造られるワインです。このカビはどこにでもいるカビで、花や果樹などに灰色カビ病をもたらすため、普通は農家や園芸をされる方には嫌われています。しかし、このカビのついたブドウはカビの働きで水分が抜けて糖度が高まり、果汁が成分変化を起こして独特の香りや風味が生まれます。これをブドウの“貴腐化”といい、貴腐ワイン造りには欠かせないカビなんです」

そう答えていただいたのは、長野県のワイナリー林農園の菊池敬さん。

貴腐ワイン、レストランのメニューでなら見たことがありますが、お値段に躊躇(ちゅうちょ)してしまいました。高価な理由ってなんでしょうか?

「まず貴腐化したブドウ自体が珍しく、量が採れないということがあります。さらに貴腐化により糖度は非常に高くなるものの、その高い糖度が発酵を阻害するので発酵工程にかかる期間も長くなります。こういった理由から高価にはなりますが、濃密な甘さと独特な風味で珍重されているんですよ」

ちなみに菊池さんによれば、ヨーロッパで生まれたこの貴腐ワインは「たまたまカビさせてしまったブドウから偶然生まれた」という説が有力なのだとか。かくいう林農園でも初めて貴腐化したブドウが見つかった時は、異常が発生したのではないかと残念に思っていたそう。つまりは、貴腐化したブドウを作るのは今でも偶然頼みということなんですね?

「はい。どこにでもいるカビではあるものの、貴腐化に至るかどうかは、偶然を待つのみなんです。ブドウが熟すタイミングと、特定の温度、湿度をもたらす気象条件が重なった時にこのカビがつかないと貴腐化はしません。実が若い段階でつけば単に灰色カビ病でダメになったブドウにしかなりませんし、熟しきったころになってついても腐ってしまう。人工的に貴腐化させる試みも、世界的になされていますがあまりうまくいかないんです」

カビを利用した食品は多いですが、たいてい人が意図して、カビ具合をコントロールしながら作られますから、生産現場での苦労が偲ばれます。お値段が高いのも納得! いつか躊躇なく頼めるようになってみたいものです…。

(宇都宮 雅之)

※この記事は2012年7月に取材・掲載した記事です

取材協力・関連リンク

関連キーワード

注目記事ピックアップ

 

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト