ゲーム会社、アニメ会社でバイト漬けの日々

『天地明察』冲方丁のバイト時代

2014.09.28 SUN


撮影/堀 清英
「自分の中の欲求に素直に。でも、口で『できる』だけじゃダメ」

今をときめく人気作家だ。ライトノベルから時代小説まで幅広く手がけ、中でも『天地明察』は映画化に至り、現在公開中。作風も多彩だが、そのアルバイト歴も驚くほど多彩なのだ。

小説書いてゲーム作って、マンガとアニメの原作も

「大学時代、当時“若者の活字離れ”が話題で、それを見極めたくて、とにかくいろいろやったんです」

実に風変りな理由だが、そこに興味を抱いたのは、作家を志していたから。高校卒業時、すでに作家デビューを飾っていた。まず狙いを定めたのがTVゲーム業界。

「1週間2万円の給料で、ゲーム会社に泊まり込んで働きました。あらゆるジャンルの企画書を1週間で25枚は書きましたね。2カ月目に『派遣社員にしてやる』と言われて某社に行ったら、もっとひどい労働環境だった。当時は120億円かけた失敗ゲームを作っていて、朝から晩までわけのわからん会議と制作漬けでしたね」

そんな暮らしを半年続ける。当時まだ大学1年生。「で、だいたいゲーム作りが見えたので、次はマンガだと」。

「原作を書く機会に恵まれまして。ただわからない分野なので本屋でマンガを買って、丸写しして。コマ割りやレイアウトを学ぶことができましたね」

続いてアニメ…なのだが、入学して早4年。いつしかアルバイト(?)が生活の大部分を占めており、あっさりと大学を中退する。

「やめても7年間は復学できると言われていましたし。マンガのパーティでアニメのプロデューサーさんと知り合って、『何月何日までにこれ作れるか?』と聞かれて、面白そうだと思ったんです」

どれも、素人がバイト感覚でできる仕事ではない。だが、軽やかにこなしてしまう。出会いの偶然もあるだろうが、重要なのは「口で『できる』と言うだけじゃダメ」ってこと。冲方さんの場合、“できる”ための基礎体力作りを欠かさなかったのだ。

「ひたすら小説を写す、広辞苑を読破する。リレー小説なんかを書いて、高校時代に原稿用紙3000枚くらい書きました。僕は人に何かを提供する仕事。もし対象に興味が持てなかったらもったいないですよね。だからこそ“欲求”に正直に、興味のあることをしただけなんです」

活字離れに興味を持って始めたバイトだが、結果的に見えたのは文字なしに成り立たないあらゆるメディアの存在だったという。ゆえに今も“欲求”の赴くままに、マンガ原作やアニメの脚本を手がけ、それぞれに面白さを認める。だから原作作品の映画化にも肯定的だし、映画ならではの“改編”を歓迎する。それは映画『天地明察』でもそう。

「そう思えるのは、いろんな媒体を経験したからだと思いますね。映画のアレンジって、いかに効率的に伝えるか。あの長い小説を2時間半にまとめて、かつ映画の完成度は高い。『お前はこれから何を書くのか』と突きつけられているようでした」

くやしさすら感じたという。映画であるからこそ非常に明快かつ端的に人物像を伝えられるのだ。たとえば主人公の安井算哲。これから働く若い人にこそ、その生き様を見てほしいという。

「高校時代、僕が出会えた人生のモデルで、こういうふうに生きたいと思わされた人物です。好きなことで3回も大きな挫折をして、バッシングにも負けずに再起した人。なにせ将軍と天皇に約束して失敗しながら、残した言葉は『勇気百倍!』(笑)。たいていの失敗は10年くらいで取り戻せるんです。若い人たちにこそ、その勇気が伝わってほしいですね」
(吉州正行)

※この記事は2012年9月に取材・掲載した記事です

  • うぶかた・とう

    1977年岐阜県生まれ。改暦に挑んだ江戸時代の天文暦学者・安井算哲(後の渋川春海)の姿を描いた『天地明察』で第7回本屋大賞を受賞。ベストセラーとなり、監督・滝田洋二郎、主演・岡田准一で映画化され大ヒット公開中! 最新作は、『天地明察』の登場人物・水戸光圀の知られざる人物像と生涯を描いた『光圀伝』(角川書店)

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