カラダ資本論

第6回 例えではなく、本当に胃が痛い…

2009.08.21 FRI

カラダ資本論


消化管各部位における食べ物の消化(『専門のお医者さんが語るQ&A 食道・胃・十二指腸の病気』より) 胃は食べ物を消化するだけでなく、外部から入った雑菌を殺す役割も担っています

最近、若い人の胃が丈夫になっている?



厚生労働省の発表によると、平成20年度の日本人の死因トップは「悪性新生物(ガン)」。なかでも多いのが、男性は肺や胃、女性は大腸、肺、胃のガン。以前は男女ともにダントツで胃ガンがトップだったのですが、ここ数年、肺ガンや大腸ガンが増えているようです。もしや、日本人の胃は丈夫になってきているのでしょうか。杏林大学医学部の高橋信一教授に聞いてみました。

「確かに、以前は20代、30代の若い人たちが胃潰瘍(かいよう)や十二指腸潰瘍などで受診することが多かったのですが、近年圧倒的に減っています。これはピロリ菌に感染している人が劇的に減っているから。ピロリ菌は胃潰瘍や胃ガンの原因で、子どものときに井戸水や食べ物などを経路に感染するため、衛生状態が良くないと感染率が高まるといわれています。日本は特に感染率が高く、60歳以上の人では80%です。しかし衛生環境が良くなったお陰で、若い人の感染者が極端に減少したため、胃潰瘍などの患者さんも減っているのだと考えられています」他にも、味噌や醤油などを使った日本特有の塩分が多い食生活などが胃ガン発生率を高めていた原因だそうです(そのため、日本人の胃ガン、胃・十二指腸潰瘍の発生率は欧米人に比べて高いのだとか)。しかし、ピロリ菌感染者が減少したことによって胃疾患が減っているのなら安心ですね。

「しかし、その代わり、若い人を中心に増えている胃腸の病気があります。それが胃痛や胃の不快感となってあらわれる機能性胃腸症や、男性は下痢、女性は便秘を訴える過敏性腸症候群といった病気で、病気としての所見はないのに症状があるという点が特徴です。胃は第二の脳といわれるほどストレスの影響を受けやすい臓器。ストレスや過労などにより自律神経のバランスが崩れ、胃の働きが悪くなるために胃痛などの症状があらわれるのですが、内視鏡で検査をしても何も異常が見つかりません」

以前であれば、胃が痛いなどの症状があっても、検査して異常が見られなければ病気とは見なされなかったそうです。胃が痛いのはつらいですが、それが胃の病気でないのならいいのではと思ったのですが、それほど楽観していい状況ではないそうで。

「機能性胃腸症や過敏性腸症候群は、胃腸の病気とはいえない面もありますが、うつ病発症のシグナルであることも多いのです。胃腸の病気ではないからといって放っておくと、うつ病が悪化したり、慢性疲労症候群にかかってしまう可能性もあります。胃腸の病気ならばある程度薬などで治療できますが、うつ病の治療にはお金も時間もかかります。胃腸の症状を甘く見ないことです」

胃という臓器は思ったよりも丈夫で、ちょっとした要因でびらん(ただれ)や出血が起こるものの、すぐに修復する能力を持っているといいます。とはいえ、ストレスや乱れた食生活で継続的に負担をかけ続ければ病気にもなるし、本当に胃に穴があく可能性もあります。

胃の健康にも気を配り、毎日の食事を楽しめる、元気な胃をキープしましょう!
杏林大学医学部第三内科教授 高橋信一医師。著書は『専門のお医者さんが語るQ&A 食道・胃・十二指腸の病気』(保健同人社)。若いビジネスマンに向けて「若い人のスキルス胃ガンは交通事故のようなもの。重篤な病気を心配して検診を何度も受けるより、胃に負担をかけないよう日常生活に気をつけましょう」とのメッセージも。

胃が痛くなる前に、胃の負担を減らす生活とは?



テレビをつけると、かなりの頻度で目にする胃腸薬のCM。それだけ胃の痛み・不快感を感じている人が多いということなのでしょうが、薬に頼る前に、胃を元気する方法はないでしょうか。杏林大学医学部の高橋信一医師に聞きました。

「胃の負担を左右するのは、やはり食事です。基本は1日3回規則正しく食事をすること。胃酸は胃に入ってくる食べ物の刺激によって分泌されるのですが、何も食べていなくても少しずつ分泌されています。それなのに朝食を抜いたりすると、前の晩から翌日の昼まで空腹が続き、食べ物で胃酸が中和されないので胃酸過多になってしまいます」逆に、食べ物の刺激が多くても胃酸分泌をうながしてしまうので、胃の中に入っているものがなくなったころに次の食事をするのが理想的。ただし、食品によって胃に停滞する時間(消化にかかる時間)は異なり、白米や牛乳で2時間半程度、ビーフステーキは3時間半程度、そしてバター70g(結構な量ですが)では12時間もかかるそうです。

消化の良さを考えるとタンパク質や脂肪を多く含む食品は食べ過ぎない方がいいようで、香辛料の多い食品も胃の負担が大きいので控えめにした方がいいそうです。

また、タバコに含まれるニコチンは、胃酸の分泌を刺激してしまい、胃粘膜の抵抗力を弱くしてしまうのでNG。少量のお酒は食欲を増進してくれて、大食と同じくらい胃の負担になってしまう小食の解消に役立つのでOKとのことでした。

さらに、中年以降に多くなる「逆流性食道炎(胃・食道逆流症)」についても、若いうちから気にしておいてほしいと高橋教授はいいます。

「肥満や加齢によって下部食道括約筋がゆるんでくると、胃液の逆流を防ぐ機能が低下して、食道の粘膜を傷つけたり胸焼けを起こす逆流性食道炎を起こします。長時間前屈みの姿勢をとったり、食べ過ぎたりすることも逆流の原因になりますから、若いうちから生活改善をしておくとともに、腹筋運動などでお腹の筋肉を引き締めておくことも大切です」

最後に、高橋先生から胃薬との付き合い方に関して、こんなアドバイスをもらいました。

「今はコンビニでも胃薬が買える時代で、どれもよく効きます。しかし、胃もたれや過度のゲップ、胃痛などの症状は、胃からの貴重な注意シグナルです。胃腸の病気でなくても、過度のストレスによって精神障害を起こしている可能性もあります。市販薬に頼っているせいで重大な病気を見過ごしてしまう恐れもありますから、市販薬は緊急時での使用にとどめ、きちんと医療機関を受診してください」

胃に関しては、定期的な受診よりも、痛みを感じたときの素早い受診が大切だという高橋教授。今どきの内視鏡は痛みもなくラクだといいますし、ちょっとでも心当たりのある人は、お医者さんに行ってみましょう! 胃について、たくさんのことを学んだ今回。記事の中では紹介しきれませんでしたが、胃酸が食べ物を消化する仕組みを発見した事件のことなど、面白いエピソードをいろいろ々と伺うことができました。

事件というのは、今から約200年前の米国ミシガン州の小さな島でのこと。暴発した銃によって、ある男性のお腹に穴があいてしまいました。その男性は奇跡的に命を落とさずに済んだだけでなく、銃で撃たれた穴があいた胃とお腹の筋肉が癒着して、外から胃の中が覗けるようになったのだそうです。

この男性の治療をしていた医師は、その穴から胃の内部を観察。そこで初めて、食べ物を飲み込んだ胃の内部に液が噴き出し、食べ物を溶かしていく仕組みを発見したそうです。ちなみにそれ以前は、食べ物は胃の中の石臼のようなもので砕かれると考えられていたとか。

人体の謎は、まだまだ尽きることがありません。今後も、日常生活に役立つようなカラダトピックを色々と探してきます!

皆さんからも「カラダの悩み」「カラダのあの部分を鍛える方法を知りたい!」「仕事中にカラダのことで困った体験」などなど、たくさんのメッセージをお待ちしています!

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