アテネの星が見せたチャレンジ精神

あえて好環境を捨てた為末大がつかんだこと

2004.07.22 THU

400mハードルの日本記録保持者、為末大は今年、所属していた大阪ガスを退社してプロ宣言をした。走っても走っても勝てなかった昨年、陸上で生活している外国選手たちと自分を比べ、状況を変えないことには彼らに勝つことが出来ないと思ったからだ。

普通に考えれば「無謀」のひと言だ。幸いにも後にスポンサーはついたが、それまでは貯金で食いつないでひとりで練習に打ち込むだけの毎日。ライバルでもある外国選手に言えば、「何を考えて好環境を捨てたんだ?」と呆れられるに違いない。

「彼らは当然そう言うでしょうね。でも、負けて帰って来ても暖かく迎えてくれる環境にいたら、僕のなじんじゃう性格ではダメだと思ったんです。だから五輪までは、本当のハングリー精神を持って戦える環境にしてみようと考えたんです」

日本人が短距離種目をやっている限り、世界大会のメダルは競技人生を賭けて獲るものであり、それが人生の最高位だと思っていた。だが01年世界選手権で、思いがけなく銅メダルを獲ってしまったあと、次は何だろうと想像できなくなってしまった。そんな気持ちが、一度は見たいと思っていた、アメリカを体験しにいく行動につながったのだ。走り方から教えられるアメリカでの指導。これはダメかも…、と感じても、トコトンまでやらなければ気が済まないのも為末の性格だ。その冒険が、昨年のどん底を招く結果になった。

結局は昔からやっていた練習に戻り、昨年10月からひとりで黙々と取り組んだ。だがその目の前には必ず、世界チャンピオンのサンチェス(ドミニカ)の背中があった。俺がこのタイムで走っているなら、あいつはあの辺りを走っているはずだと…。

ハードリング技術だけを比べれば、彼には1秒勝てる。なら、400mを45秒台に上げればいいという目標も見えている。今や負け知らずのサンチェス。01年のザグレブで、彼に一番最後の黒星をつけたのは自分だというプライドは健在だ。

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