社会性とやらを生物に学べるか?

第1回 分担作業で農業をする「ハキリアリ」

2010.08.31 TUE

社会性とやらを生物に学べるか?


切り取った葉をせっせと運ぶハキリアリ。自分よりも大きく、数倍~10倍という重さの葉を運搬しており、働きアリのなかでも大きいアリがこの作業を担っている 写真提供:多摩動物公園

効率よくキノコを栽培し、自らの食糧に



人間以外で社会性を持つ生物に迫るこの連載、第1回でフィーチャーするのは、南米北部のジャングルに生息するハキリアリです。その名の通り、葉を切り取るアリなのですが、それで終わりではありません。切り取った葉をもとに巣でアリタケという種類のキノコを栽培して食糧にしているのです。

このハキリアリの社会について、多摩動物公園でハキリアリの飼育を担当している同公園昆虫園飼育展示係の渡辺良平さんに話を伺いました。

渡辺さんによると、アリは基本的に、産卵する1匹の女王アリ、外敵と戦う兵アリ、そして働きアリの3クラスに分かれるそうです。兵アリと働きアリはすべて雌で、また、同じ働きアリでも役割は細分化されており、ハキリアリの場合、かなり細かく分かれるのだとか。

「葉を切って運搬する係、それを受け取って細かくする係、細かくしたものに菌をつけるなどキノコの世話をする係、幼虫の世話をする係、菌が育たなくなった部分を削り取るなどゴミを出す係、巣穴の拡張をする係に分かれています。また、外で働く葉を切るアリは体が大きく、巣で働くいわゆる内勤のアリは小さめです。もちろん、兵アリは葉を切る係よりさらに大きく、もっとも大きいのが女王アリです」(渡辺さん)

新女王アリと同時期にだけ産まれてくる雄アリは卵の時点で将来が決まっていて、女王以外の雌アリである兵アリと働きアリは、幼虫のときに調整されて大きさ、役目が分かれていくそうです。そして、彼らにとって何より大切なのがキノコ。巣にもなるとともに、幼虫が食糧とするのはこのキノコだけで、大人のアリたちの主な食糧でもあるため、これが全滅してしまうと大変なことに…。
多摩動物公園ではケースで飼育しているため、地上に菌巣がある。幼虫や女王アリはこの中にいるそう。白い部分が新たな菌糸が張っている場所で、この部分を食糧にしており、一群の数が増えれば、菌巣も複数になるのだとか 写真提供:多摩動物公園
「新しく誕生した女王アリは巣立つ際にキノコの一部を持っていき、新たに巣作りを始めます。体内に菌を持っているわけではないので、一度キノコが全滅するともう新しいものを作ることは不可能なんです。群れも全滅することになります」(渡辺さん)

そのために、まるで会社組織のように外勤、内勤、適材適所でそれぞれの役目をまっとうしているんですね。そしてキノコの繁栄は、一族の繁栄にもつながります。「ハキリアリは、個体では弱くても集団だと強さを発揮します。実際にすんでいる森では生物全体でみても上位に位置する強い昆虫です」と渡辺さん。自然界では一つの群れがなんと数万匹以上にもなるそうです。

全部同じ女王アリの子どもだからホンモノの“一族企業”ともいえる、ハキリアリの群れの仕組み。効率的だし、僕らも見習えばものすごい繁栄が…なんてつい思ってしまいそうですが、役割を自分で決められないし、出世もありません。また、女王アリの寿命は10~20年なのに対し、働きアリは長くて半年ぐらいなのだそうです。

自然界を生き抜くために、キノコ、そして一族の繁栄が鍵となるハキリアリだからできる仕組みであって、意志を持つ他人同士がともに働く僕ら人間社会では、ハキリアリの群れの仕組みを取り入れるのはアリ…ではなくナシですね…。 取り上げて欲しい動物がいましたら、投稿ボタンよりおねがいします。

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