“死に場所”を求めてスイスへ…

安楽死のための旅“自殺ツーリズム”という現実

2011.08.26 FRI


スイスの空の玄関口ともいえるチューリッヒの街並み。ヨーロッパ有数の経済都市としても知られるが、年間200人もの人が安楽死を求めてこの街を訪れる 画像提供:ケエ / PIXTA(pixta.jp)
おいしい空気、のどかな風景──アルプスの山々に囲まれたスイスに、こうしたイメージを持っている方も多いと思います。事実、観光立国としてのスイスは非常に人気が高く、ジュネーブやチューリッヒなどの都市部やマッターホルン、モンブランなどの山間の町を避暑地に選ぶ海外からの旅行者は、年間約840万人(2008年度)に上ります。

では、“Suicide tourism”という言葉を聞いたことがあるでしょうか。直訳すると「自殺ツーリズム」。なかなか穏やかでありませんね。

実はスイスでは安楽死などの自殺幇助が法的に認められています。つまり“Suicide tourism”とは、外国人が安楽死の場を求めてスイスにやってくる社会現象のことを指します。安楽死を目的としてチューリッヒを訪れる人は年間約200人に上ります。

現在、安楽死に関して世界でもっとも進歩的とされるスイスを始め、米国オレゴン州・ワシントン州、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクなどの欧米諸国では安楽死が容認されていますが、自国を訪れる外国人にも同等の権利を与えているのはスイスだけです。

もちろん実施には医師の厳しい審査があります。ただ、末期がんなどの不治の病や、耐えがたい苦痛を伴い回復を見こめない慢性疾患患者などは、患者本人と家族、医師が熟慮した上であれば、自殺幇助を受けられることになっています。

こうした制度について、スイス国内にも反対する声が無いわけではありません。実際、今年5月には、チューリッヒで自殺幇助の是非を巡って住民投票が行われました。が、結果は現状維持派の圧勝。自殺幇助禁止への反対票に85%、“Suicide tourism”の禁止に78%の反対票が投じられ、いずれも否決されました。「最期をいかに迎えるかは、自分自身に選ぶ権利がある」という市民の意識が証明されたことになります。

1941年から安楽死が認められているスイスでは、こうした意識が国民に深く根づいています。死に場所に自国を選ぶ旅行者を不名誉だと感じるスイス人も少なくはありませんが、今回の住民投票の結果を鑑みるに、当面この制度が廃止されることはなさそうです。

言わずもがな、日本における安楽死幇助は刑法上「殺人罪」の対象となる犯罪行為です。ただ、是非はともかく、高齢化が加速する日本でも安楽死幇助を認めるよう、制度導入を求める声が高まる可能性はあるでしょう。スイスの事例は、僕らにとっても決して他人事ではないかもしれないのです。
(筒井健二)

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