乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×駒崎弘樹(2)

2013.02.15 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


乳幼児が熱を出すことは「あたりまえ」と考え、働くお母さんの支援に取り組むフローレンス。駒崎氏はこうした自らの活動を、事業によって社会問題を解決する「ソーシャル・ベンチャー」と位置づける

「自分に後ろめたくない働き方がしたかった」(駒崎)



乙武: 最近、「社会起業家」という言葉をよく耳にします。駒崎さんもそう呼ばれる1人だと思うんですけど、よく考えるとこれって不思議な言葉じゃないですか? もともと一般企業だって、社会の役に立つことを前提にビジネスを成立させているわけですから、厳密な線引きが難しいですよね。

駒崎: 社会起業家という言葉が生まれた背景には、国からの補助金で営まれるNPOへのアンチテーゼがあったんです。アメリカではレーガン政権時、「小さな政府」を標榜して各種の補助金が片っ端からカットされ、その結果、多くのNPOが潰れてしまいました。そこでNPOも官に頼らずビジネス化する必要に迫られ、“事業として社会問題を解決する”という新しい概念が生まれました。

乙武: なるほど。では、駒崎さんはなぜ社会起業に踏み切ったんでしょう。僕にしても駒崎さんにしても、もともと特別な立場にいたから社会参加に積極的なのだと誤解されがちだと思うんです。でも、僕らだってフツーの人間。実際に病児保育問題の解決に向けて行動を起こしたきっかけって、もっと単純で些細なことだったりしません?

駒崎: ああ、それは間違いなくそうですね。単に、働く母親の姿をずっと見て育ったから、働くお母さんの手助けをしたいと思ったのは大きいです。それから、ITをやっていた頃にアイデンティティ・クライシスに陥ったというのもあります。

乙武: それは具体的には?

駒崎: 昨今はITベンチャーを立ち上げて少し軌道に乗ると、すぐにやれIPO(新規株式公開)だ何だという話になりがちじゃないですか? 僕はその風潮にどうしてもなじめなくて…。この仕事は派手で楽しいかもしれないけど、自分は本当は何がしたいんだろうって。

乙武: なるほど。

駒崎: その時あらためて考え直してみたところ、ベタだけど自分は直接人の役に立つことを通して喜びを感じるタイプだと直感したんです。それがフローレンスの立ち上げにつながりました。

乙武: ちなみに、フローレンスという名前の由来は?

駒崎: これはナイチンゲールのファーストネームからもらいました。フローレンス・ナイチンゲールはよく「白衣の天使」といわれますが、彼女が素晴らしかったのは戦場をまわって兵士を看護したことじゃなく、戦地で統計を取り、「実は銃弾を受けて死ぬ兵士よりも、疫病で死ぬ兵士の方が多い」という現実を、陸軍の上層部に進言したことだと思うんです。つまり、劣悪な衛生環境を解消すれば、状況は劇的に改善するはずだとプレゼンしたわけです。実際、これにより犠牲者の数は一気に減ったそうですよ。

乙武: それは興味深い。確固たるデータを用意して、しかもそれを、状況を変える力を持った人に直談判する。これは簡単なことではないけれど、すごく理に適っている。

駒崎: 彼女の活動は、いわば社会起業家の走りといってもいいでしょうね。ナイチンゲールはその後、看護スタッフをプロフェッショナル化する必要性に目覚め、看護学校を創設し、今日にも大きな影響を及ぼしています。

乙武: 今のエピソードって、まさに駒崎さんの活動理念そのままですよね。目の前の問題を理性的にとらえ、どうすれば解決できるかその方法を模索し、それを実行できる人にかけあって、動かしていく。これはきっと、どんな社会問題にも応用できる動きだと思うんです。フローレンスの活動が、多くの人にとってヒントになれば最高ですよね。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
駒崎弘樹さん
1979年生まれ。NPO法人フローレンス代表として病児保育支援に取り組むかたわら、内閣府非常勤国家公務員(2010年)、明治学院大学・非常勤講師など幅広く活躍。07年にはニューズウィーク誌上で「世界を変える社会起業家100人」に選ばれた

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