乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×駒崎弘樹(4)

2013.03.01 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


地域の社交場として機能し、保育園生活を通して人間性の土台を育むことを理念に設立された「まちの保育園」。練馬区に続き、昨年12月には六本木にも開園。子どもたちが周囲の大人から多くのことを学べる空間作りを目指す

「恩返しならぬ恩送り。自分から次の世代へ」(乙武)



乙武: 病児保育の問題を見ていると、まだまだ女性にとって働きやすい世の中とはいいにくい状況ですよね。

駒崎: そうですね。僕が子どもだった頃は地域の結びつきが強くて、もし僕が急に熱を出したとしても、仕事で不在の母に代わって、近所のおばちゃんが面倒をみてくれるのが普通でした。でも、今はそういった地域の営みが失われています。

乙武: そうなんですよね。僕自身も幼い頃は、いかに周囲の大人たちに恵まれていたかというのを、最近実感しています。

駒崎: 困っているお母さんが大勢いるのに、官のフォローが後手にまわっているのが現状。これはなんとかしなければ――と思い立ったのがフローレンスの始まりです。

乙武: そのあたりは、僕が運営に携わる「まちの保育園」のコンセプトと通ずるものがあるんですよ。2011年4月に開園したこの保育園は、地域と家庭を結び、近隣住民の出会いを生む場にしたいと立ちあげたものです。株式会社として運営していますが、利潤の追求よりも、街全体で子育てを支える仕組みを作りたいというのが基本理念。

駒崎: うん、確かに根っこにある考えは同じですね。法人格は違えども、どちらも社会の問題を解決していこうというソーシャル・ビジネスですし。

乙武: フローレンスは設立からはや10年近く経ちますけど、病児保育を取り巻く環境に何か変化は感じますか?

駒崎: 設立当時は病児保育というサービスに着目する企業はほぼ皆無でしたが、最近になって大手を含む他企業が次々にこの分野に参入しています。もともと僕らの事業をどんどん真似して広めてほしいと思ってやってきましたから、これは非常にいいことだと思いますね。関東ではすでに社会インフラになりつつあるといっても過言ではないですし、次はこれを全国に広げていくのが課題です。

乙武: 素晴らしい。「まちの保育園」のモデルも、どんどん他社に真似してもらえるのが理想ですよ。僕はよく、「恩返し」ならぬ「恩送り」という言葉を使うんですけど、自分が幼少期に周囲の大人たちから受けた恩恵を、今度は自分が大人として次の世代に送りたいんです。

駒崎: うん、すごくわかります。

乙武: 昨今報じられる様々な少年犯罪にしても、加害者となってしまった少年が発するサインを、周囲の大人たちが気づいてやることはできなかったのか。どこかで軌道修正を促してやることはできなかったのか。大人が果たすべき責任と与える影響の大きさを実感するんです。地域の人々がつながることで、子どもにより良い環境を与えていけるんじゃないかという思いで取り組んでいます。

駒崎: 勝手な使命感かもしれませんが、僕も“なんとかしなきゃ!”という思いが病児保育という仕事の根底にあります。そもそも、将来の日本の労働人口を踏まえても、これはすごく大切なことなんです。日本は2050年に高齢者人口が4割に達しますが、これは世界でも過去に例のない、人類史上初の超高齢化社会。その時、労働力は現在の2/3に減るとされています。

乙武: うーん、あらためて聞くと大変な状況ですね。

駒崎: その時代の労働力を補うには、女性の力は欠かせません。日本は他の先進国に比べ、まだまだ女性が社会に出ていない国です。仮に、先進諸国並みに日本の女性が働いたとすると、GDPは4%アップするという試算もあるほど。だから病児保育の整備を進め、彼女たちが安心して働ける環境を作っていかなければなりません。

乙武: 現状に疑問を感じて駒崎さんが病児保育問題に乗り出したように、一人ひとりが興味の持てる分野で、自分にできることは何かを探ってみてほしいですね。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
駒崎弘樹さん
1979年生まれ。NPO法人フローレンス代表として病児保育支援に取り組むかたわら、内閣府非常勤国家公務員(2010年)、明治学院大学・非常勤講師など幅広く活躍。07年にはニューズウィーク誌上で「世界を変える社会起業家100人」に選ばれた

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