乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×開沼博(3)

2013.03.22 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


代表作『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』に続いて大反響を読んだ開沼氏の最新刊『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』と、被災地を実際に歩いてルポした乙武洋匡『希望 僕が被災地で考えたこと』

開沼 博「そんな簡単に是非を決めちゃっていいの?」



乙武: 僕は3.11以前と以降で、変わらなかったことと変わったことが明確にあると感じているんです。

開沼: それは具体的にはどのようなことですか?

乙武: まず変わらなかったことについて誤解を恐れずにいうと、これまで公共の利益よりも自らの地位や利権にこだわってきた権力者たちが、さすがにこの一大事では“私”より“公”を優先せざるを得ないだろうと期待していたんです。ところが、世の中を動かす力を持っているはずの人たちに、そうした目立った変化は見られませんでした。

開沼: たしかにそうかもしれません。日本社会は良くも悪くもすでに「みんながそこそこ快適に生きることができる」バランスが保たれていましたから、震災後もそこに寄りかかろうとしている風潮は私も感じます。

乙武: 一方、変わったと感じる部分もあって、それは開沼さんを含め、社会に対して能動的に行動する人たちが、とくに若い世代に多く現れたこと。なかにはそれまでの職をなげうって福島に移住し、NPOを立ち上げて復興支援に取り組んでいる人だっている。これには“お、日本もちょっと変わってきたじゃん!”とうれしくなりましたね。

開沼: うん、そういう希望が見えてきたところはありますよね。沖縄の米軍基地問題にしても宮崎の鳥インフル問題にしても、これまでは何かが起きても持続的に取り組むべき日本の問題とせずに、すぐ忘れられてきました。誰かを吊るしあげてみたり反省してみたりしただけじゃダメなんです。みんなでワーッと騒ぎました、怒ったり悲しんだりしてみました、スッキリしました、忘れました――というのでは何も変わらない。有事の際に洗い出されたネガティブな要素を直視していくことが、まず必要だと思うんですよ。

乙武: そのために必要なことって何でしょうね。一人ひとりがもっと自分の意見を口にすること?

開沼: そうですね。メディアで交わされている議論に流されず、違和感を持ったのなら異を唱えるべき。これは乙武さんも『五体不満足』以来ずっと取り組まれてきたことでしょうし、僕自身も今後10年、20年かけて取り組まねばならないことだと思っています。

乙武: 問題が大きいなら、「分化」して「消化」していくべきなのかな、と思います。たとえば復興問題でいうと、物理的ながれき撤去や除染といった物理的な課題については、もちろん今後も粛々と続けていかなければなりませんが、それは国民全員で考える問題というより、専門の方々にお任せするタイミングにきているのではないかと。その分、なぜこのような問題が起きたのか、要因を抽出し、それを国民が共有し、これから他の地域で同じことが起こらないようにするためにはどうすべきかを議論するのが大切。

開沼: おっしゃる通りだと思います。「震災と原発事故によって生じた問題」は決して「福島だけの問題」ではないということに、そろそろ気づいてほしい。「被災者は今も怯え苦しんでいます」「みんな避難したがっています」みたいな話は、確かにケアすべき問題なのは事実ですが、それは2011年の春にできた問題設定でしかなく、すでに多くの人が日常に戻り、新しく設定された問題と向き合っています。2年たっているんだから当然です。「被災地を被災地のままにしておきたい。その方がわかりやすい」という無意識的な配慮は、問題を見誤らせます。これはおそらく「障害者をわかりやすい障害者像に閉じ込めようとする配慮」とも通じるかもしれません。いつまでもそこで止まっているのではなく、この危機から何を学び、それを今後にどう生かすかですよね。

乙武: 本当に僕自身も、いかに自分が思考停止していたかを思い知り、反省することが多々あります。とくに開沼さんの著書では、僕が社会に対して漠然と抱いていた違和感を、的確な言葉で指摘してくれる部分がいくつもあったんですよ。

開沼: ありがとうございます。僕が感じている一番の疑問は、原発問題にしても、なぜこんなに重大で難しい問題について、みんな簡単に是非を決めてつぶやけるのかな、ということですよ。

乙武: まったくその通り! 僕のもとにも原発事故以降、「乙武さんは原発推進派ですか? 否定派ですか?」って山ほどメッセージが寄せられたんですけど、なぜみんなそう簡単に答えを出せるんだろうと疑問に思っていたんですよ。世の中には、結論ありきで自分の立場に合った情報を補強していく人が本当に多い。これはやはりちょっと違いますよね。僕自身は、立場の異なる様々な方の意見や苦しみに触れながら、社会全体で進むべき方向を見出していくべきだと思うんです。そのためには、もっと一人ひとりが「見て見ぬふり」をやめ、向き合っていく姿勢が必要ですね。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
開沼 博さん
1984年福島県いわき市生まれ、社会学者。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。著書に『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『漂白される社会』(ダイヤモンド社)など

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