乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×開沼博(4)

2013.03.29 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「社会を変える方法が政治に寄りすぎている気がする」(開沼)。「もっと社会学やビジネスを活用してもいいよね」(乙武)

開沼 博「地方は疲弊しているけど、絶望ばかりじゃない」



乙武: 開沼さんは震災以前から、地方産業の弱体化を研究テーマにフィールドワークを続けてきたわけですけど、僕らのジュニア世代が大人になる頃、地方都市はどうなっていると思いますか?

開沼: 「地方経済が疲弊している」ことも、「地方の活性化が大切な問題」なのも事実ですが、その前に、何が「疲弊」でどうなれば「活性」なのかを考えなければならないと思います。たとえば福島県にしても、震災以降いまだに人口流出が止まらないと報じられていますが、統計データを見ると、県外避難者の数はここ1年では減少傾向ですし、避難者以外の人口増減比も震災前と同水準になりつつある。つまり、震災がどうこうという話ではなくて、震災前からあった人口流出問題に戻ってきているんです。

乙武: なるほど。そもそもの解釈が間違っているわけですね。

開沼: だから今本当に必要なのは、そもそもの人口流出問題をどうするかという議論であるはずなのに、このすべてを震災問題・原発問題として考えてしまうから、議論が不毛なものになってしまう。こういう齟齬って、他にもたくさん起きているのではないかと思います。

乙武: ちなみに僕は、地方で人々の生活を成り立たせる、つまり雇用を安定的に確保するということは、大別するとこれはホームランを狙うか、それとも手堅く1点取ることを目指すかに分けられると思っているんです。いってみれば、原発というのはホームラン狙いで、これを地域に誘致することで経済が潤い、一気にたくさんの雇用が生まれる、と。

開沼: たしかにそうですね。

乙武: 他方、手堅く1点を狙うというのは、もしかしたらインターネットなどインフラの発展にかかっているかもしれません。今以上にスカイプなどの活用が進めば、わざわざ人口が密集するエリアで暮らす必要はなくなるかもしれない。あえてデメリットをはらむホームランを狙わずとも、地道に地方での生活を維持していく方法を考え、積み重ねていくという考え方ですね。

開沼: ホームラン狙いで原発やカジノを選択肢に入れて議論することはあっていいと思いますが、他にも考えられることはたくさんありますからね。実際、既存のインフラの使い方によっては、地方の人口や産業の構造がドラスティックに変わる可能性だってある。たとえば僕は今、福島大学の教員なので、福島と東京を行き来していますが、移動時間は片道2時間ほどです。関東圏には通勤にこのくらいの時間を要している人は大勢いますから、福島に居を置くこと自体は決して非現実的ではありません。むしろ、物価は低くて自然も多い。ただ、問題は8000円ほどかかる新幹線代なんです。だったらJRさんと行政が相談して、福島・東京間を一律800円にしちゃう…なんてことが実現すれば、地域の過疎化は改善するかもしれません。単なる思いつきですけど。

乙武: それは面白いですね(笑)。たしかに東電ばかりを槍玉に挙げていないで、他の業種が貢献できることに目を向けるのも重要ですね。

開沼: 原発の問題から考えるべきなのは、その根っこにある不合理・不条理の改善の可能性であって、エネルギー政策をちょっといじって復興予算を落としてすべてリセットすれば解決しますよ、などという話ではないんです。

乙武: 僕が開沼さんに期待しているのはまさにそういう部分で、誰かが新しい提案をするために必要な資料づくりや視点を提供してくれることなんですよ。フィールドワークから得た多角的な情報を、これほどわかりやすく発信できる人は他にいないと思っているので。何より、こと原発問題に関して考えるなら、福島出身という開沼さんの“当事者性”ってすごく重要だと思うんです。障害者問題について、僕だから発言できることがあるのと同じで、やはり他地域出身の研究者とは異なる説得力があると思うんです。

開沼: ありがたいですね。裏を返せば、種々の社会問題に対して、そういった資料づくりをして代替的な仕組みづくりを提案できる人材が、致命的に不足しているということでもあると思いますが。

乙武: だからこそ、開沼さんにはぜひこれからも頑張っていただいて、世の中に多角的な情報と視点を与えてほしい。僕はそれを世に拡散する、拡声器の役を担いますよ(笑)。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
開沼 博さん
1984年福島県いわき市生まれ、社会学者。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。著書に『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『漂白される社会』(ダイヤモンド社)など

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