乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×荻上チキ(1)

2013.04.05 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「メディアで意見を発信することで、様々な批判も生じます。でも、そういった“見解の違い”もまた、貴重な情報のひとつでしょう」(荻上)

荻上チキ「叩いて終わり、はもう終わりにしよう」



経済を見ても報道を見ても、問題や課題が山積みの現代社会。でも、どうも本質的な部分とはずれたところで議論が迷走しているように感じている人も多いのでは…!? そこで今回は自著のなかで“ダメ出し”ならぬ“ポジ出し”を提言する気鋭の批評家、荻上チキ氏をお招きし、乙武洋匡とポジティブな議論を生み出す方法について意見をぶつけ合った――

乙武: 僕は常々、若い世代にこそ社会問題と向き合ってもらいたいと思っているんですけど、実際には皆それぞれの生活や仕事があるから、なかなかそうもいきません。せめてほんの少しでも、身近な社会問題に目を向けられないかと考えていたところ、荻上さんが著書『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』のなかで書かれていた、ポジティブな改善策を出し合う“ポジ出し”という考え方が大きなヒントになる気がしたんです。

荻上: ありがとうございます。誤解されがちなんですけど、僕はこの本のなかで“ダメ出しはいけないことだ”とは、ひとことも書いていないんです。「ダメ出しばかりしてる奴ってアレだよね」というのも、結局ダメ出しになってしまいますから(笑)。

乙武: たしかにそうですよね(笑)。ただ、世の中には肯定的な意見よりもダメ出しがはびこっているのは間違いありません。すでにある意見や事象についてただダメ出しをする立場って、ものすごく楽ですから、それもやむを得ないのかもしれないけど…。

荻上: 大切なのは、ダメ出しとポジ出しのバランスだと思うんです。社会のバグ(社会問題)をきちんと把握するためには、現状へのダメ出しも必要です。同時にポジ出し、解決策を提案する人の割合も増やしていかなければ、何事も解決のスピードは上がりません。より多くの人が社会問題に目を向けるためにも、少なくとも解決に向けて動こうとスタンバっている者同士、“まずは話そうぜ”と。

乙武: なるほど。まったくその通りですよね。

荻上: ちょっと前までの政治状況だと、自民党のやることにダメ出ししていれば事足りたのかもしれませんが、政権交代を経てつくづく、それだけでは改善しないことを痛感しています。そして、それがなぜなのかを考えるためには、政治経済的な背景を知る必要もある。だから同著は、あえて自己啓発っぽいタイトルに反して(笑)、日本社会の現状整理にかなりの紙幅を割いているんです。地図を更新しながら、そのつどダメ出しとポジ出しをバランスよく交えて、反省点や課題について話し合わなければなりません。そのため、まずは僕の持っている地図を掲示してみた、という感じですね。
『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか 絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想』(幻冬舎新書)
乙武: でも今の世の中、ポジティブな意見自体が、ダメ出しの対象になってしまったりしますよね? 僕も15年前に『五体不満足』を上梓した際には、「お前みたいなヤツが登場したおかげで、障害者も明るく生きていなければならなくなった」という批判をもらいました。実際には荻上さん同様、何かを押し付けているつもりはなく、自分の考えや生き方をひとつのサンプルにしてもらえればそれでいいのですが…。「え、そう受け取るの!?」とびっくりしたものです。

荻上: すごくよくわかります。いろんな意見があるのは当然だし。なかには議論以前の中傷を受けることも多々あります。でも、それも含めて現状の社会なんですよね。自分とはまったく論点や認識の異なる人、あるいは議論の作法さえ共有できない人が一定数いるところからはじめなくてはならない。

乙武: つまり、ポジ出しができる人もいるけど、ダメ出ししかできない人もいる。どちらがいいか悪いかという話ではなくて、ポジ出しできる人たちが活動しやすい環境を作っていくことが大切だ、というのが荻上さんの現在の活動なんですよね。

荻上: 一歩前へ、みたいな。僕はメディアにかかわっている人間なので、そうした人の活動をどう伝えるかを考えます。ルールや仕組みが変われば、動き出せる人はもっと増えていくはずですから。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
荻上チキさん
1981年、兵庫県生まれ。評論家・編集者。「シノドス」編集長。主な著書に『ウェブ炎上――ネット群集の暴走と可能性』『検証 東日本大震災の流言・デマ』『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか――絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想』『彼女たちの売春(ワリキリ)――社会からの斥力、出会い系の引力』ほか

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