乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×荻上チキ(3)

2013.04.19 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「いきなり社会問題全体をとらえようとせず、まず何か身近なもので議論できるテーマをひとつ持っておきたいですね」(荻上)

乙武洋匡「Twitterではあえて下ネタを発信しています」



乙武: 社会問題に対していま、多くの若手が様々な手法で解決に向けて取り組んでいます。そうしたなかで荻上さんは、既存のメディアを使って発言するだけでなく、自ら「シノドス」というメディアを立ち上げ、広く一般に情報や意見を発信しています。これは興味深い取り組みですよね。

荻上: テレビや新聞などの主流メディアに対して、小さなメディアを作って議論を育てていくということは、これまでも社会運動において行われてきました。日本にかぎらず、軍の圧政が強い国であっても、ガリ版でビラを刷って対抗言論を育てたり。

乙武: なるほど、「自分たちでメディアをつくってしまう」というのは、歴史のなかにもあった、比較的オーソドックスなやり方ではあるんですね。

荻上: 僕らの世代の場合、気がつけばインターネットというメディアが存在していましたよね。そのためか、「ネットで何かできないか」と考える癖がある。実際、様々なNPOが、寄付を募ったり被災地の情報を伝えるだけでなく、問題解決のためのメディアをつくっています。でも、あまり専門性の高いサイトにしてしまうと、広く世間の関心を集めるのが難しい面もある。だからいろんな専門性を横断する、「いざという時に頼れるメディア」を育てたいという思いがありました。

乙武: 個人的にいえば、僕はTwitterを個人メディアとして育てていきたいという思いが強くあるんです。僕が社会的なメッセージを発信したいと思った時に、それをなるべく多くの人に拡散できるメディアにしておきたい。そのためには伝え方が重要で、『五体不満足』があれほど世間に受け入れられたのも、暗く重たい話ではなく、ユーモアまじりに伝えたことが大きかったと思うんです。もちろん、これには批判もあるんですが、面白おかしく伝えることで、より多くの人に興味を持ってもらえるという効果は確実にあると思うんですよね。

荻上: うん、自分のメディアを育てるということは、つまりは力を手に入れることで、アイデア次第でいろんなことに活用できますよね。たとえば、障害者問題の実態を深刻に報じる手法もあるでしょうけど、ある程度エンターテインして伝えるやり方だってあると思う。NHKの『バリバラ』(※ユーモア重視で編集された、障害者情報バラエティ番組)を初めて見た時は“やられた!”と思いましたからね。もう、見逃せない番組。

乙武: “真面目で堅い人”みたいなイメージだと、どうしてもとっつきにくく思われてしまう。だからTwitterでもなるべく間口を広げておいて、いざという時に何かを発信できるメディアにしておきたいんです。僕、けっこう下ネタや自虐ネタをつぶやくんですけど、これも間口を広げるためのひとつの戦略。…本当は、いいトシして60万人近い人たちに下ネタを発信するのはどうなんだろうと思ってるんですけどね(笑)。

荻上: そうなんですか?(笑)。でも、メディアにとっても、「気さくさ」というのは大事な気がします。そのうえで、伝えたいことがあるのに、うまく拡散できない人たちの存在や情報を届ける役割を担っていけたらいい。

乙武: ちなみに、メディアが多様化する現在、情報の受け取り方として心がけておくべきことって何でしょう?

荻上: 難しいけど、ひとつのイシューに特化して知識をつけることが、自分自身にとって信頼のおけるメディアを判断する際にも役立つのではないでしょうか。ポイントを絞り込んで、報道の内容やスタンスを吟味するというか。

乙武: なるほど。メディアの種類が増えてきたからこそ、自分が関心のある分野で様々なメディアに触れておくと、それぞれの報じ方、表現の違いがわかり、自分と相性のいいメディアが見つかるのかもしれませんね。これはぜひ、若い世代にも実践してほしいな。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
荻上チキさん
1981年、兵庫県生まれ。評論家・編集者。「シノドス」編集長。主な著書に『ウェブ炎上――ネット群集の暴走と可能性』『検証 東日本大震災の流言・デマ』『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか――絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想』『彼女たちの売春(ワリキリ)――社会からの斥力、出会い系の引力』ほか

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