乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×堀潤(1)

2013.05.03 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


もともとジャーナリスト志向だった堀氏は、「NHKの在り方を変えたい」という心意気で同局に入社。戦前からの悪しき体質の改善を目指す、野心にあふれたフレッシャーズだったという

堀潤「NHKだけが戦前の落とし前をつけていないんです」



震災以降、メディアと報道の在り方について、僕らの胸中には様々な疑問が湧き上がった。報道の役割とは何か? 受け手はそれをどう吟味するべきか? 今回は4月1日にNHKを退職したばかりのアナウンサー・堀 潤氏をお迎えし、乙武洋匡が“報道との付き合い方”を語り合った――。

乙武: 堀さんとは同世代ですし、ずっと気になる存在だったんです。Twitterなどを見ていても、“異色のアナウンサー”だな、と。堀さんのようにカラーのある、もしくはカラーを打ち出そうとしているアナウンサーって、民放ならともかく、NHKでは珍しい存在でしたよね。

堀: それは、どこかギラギラして見えたということでしょうか(笑)。

乙武: ギラギラ…とはちょっと違うかな(笑)。自分自身をどう見せようか画策しているというより、「伝える」ことに誠実であろうとするがゆえに、カラーを出さざるを得なくなっているような印象を受けたんです。NHKという組織のなかでは出しきれないものを、Twitterなどほかの場所で発信する。そうした行為に「窮屈なんだろうな」と感じていたので、堀さんがNHKを辞めると報じられた時は、多くの人にとっては驚きだったかもしれないけど、僕にとっては「やっぱりな」という印象の方が強かった。それは僕自身が学校という現場で同じ思いをしていたからこそ、感じ取ったことかもしれないけど。

堀: そういっていただけるのはうれしいですよ。僕はもともと、アナウンサーではなく週刊誌の記者になりたかったんです。“メディアが伝えない○○の真実!”みたいな記事がやりたくて。

乙武: へえ、それは意外。何かきっかけがあるんですか?

堀: 1994年に松本サリン事件が起きた時、罪もない人がメディアスクラムで犯人扱いされましたよね。学生ながらにその様子を、「おかしい」と強く感じたんです。折しも世の中は、バブル崩壊の余波でリストラされる人があふれ、それを苦に自殺する人も大勢いて、さらには子どもが子どもを殺めるような事件も相次いで…、おかしなことがたくさん起きていました。そこで、文学部だった僕に何ができるかというと、弁護士になるのでも経済学者になるのでもなく、「これ、おかしくないですか?」と世に問うことだと考えたんです。

乙武: 何かしら社会に対するアプローチがしたかった。そして、自分の学んできたことから、「ジャーナリズムだ」と思ったわけですね。でも、週刊誌の記者を目指していた学生が、なぜNHKのアナウンサーに?

堀: 僕はドイツ文学科だったのでいろいろ調べる機会があったのですが、ドイツは戦後、ナチスが招いた悲劇をしっかりと反省し、国家体制からメディアの在り方まで厳しくテコ入れをしているんです。ところが、日本はわりと戦前から戦後にするっと移り変わっていて、メディアにしても、朝日に読売にNHKと、主要プレイヤーが戦前とまるで変わっていないわけです。

乙武: ああ、なるほど。そういう観点で考えたことがなかった。つまり、日本のメディアは、戦争に対する総括や反省というものをきちんとしていないんじゃないか、と。

堀: ただ、よく紙面を追っていくと、新聞各紙は社説欄で「なぜ我々は大本営発表に加担してしまったのか」みたいな記事を載せていたりして、戦前の過ちを認め、謝罪しているんです。ところがNHKは、ぼんやりと「当時の体制ではやむをえなかった」といった意味の発表をしただけで、いわばちゃんと“落とし前”をつけていない。だから、「そんなのおかしいですよ。それじゃ何も変わらないですよ」と、NHKの入社面接でいったんです。みんな笑ってましたけど、それでも「君がNHKを変えられると思っているなら、一緒にやろうか」と拾ってもらえた(笑)。

乙武: ええっ、入社試験でそんなこといったんですか! いっちゃう堀さんもすごいけど、採っちゃうNHKもすごい。でも、「NHKを変える」という意気込みで入社したはずなのに、この3月で退社されることになった。次回は、なぜ堀さんが辞める決断をしたのか、詳しくお聞きしたいと思います。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
堀 潤さん
1977年、兵庫県生まれ。立教大学・文学部ドイツ文学科卒業後、2001年にアナウンサーとしてNHKに入社。原発事故報道に関する同局の報道姿勢に疑問を持ち、2013年3月末をもって退社。現在はパブリック・ジャーナリズムへの取り組みの一環として「8bitNews」を手がけるなど、新たなメディアの形を求めて活動中

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