乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×堀潤(2)

2013.05.10 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「アメリカは情報公開が徹底されている。煩雑な手続きを要する日本とは大違い!」と、留学中の“収穫”を語る堀氏

堀潤「ネットとテレビの情報の乖離が疑心暗鬼を生む」



乙武: メディアとしてのNHKの姿勢を変えたい、そんな強い志をもって入社した堀さんですが、実際にアナウンサーになってみてどうでしたか?

堀: テレビは本当のことを伝えていない、自分たちに都合のいい情報しか流さない、そう思われるのがとにかくイヤで、僕は入局以来ずっと“正直な報道”をモットーにしてきました。しかし実際には、番組の収録というのは事前に打ち合わせを重ね、あらかじめやり取りがかっちり固められているのが普通です。それってもはや“生”放送とはいえないじゃないですか。だから僕は、ゲストの方とトークをする時も、本番で突然「…でも、本当はこうですよね?」と台本にないことをいったりして、ささやかに抵抗してきたんです。

乙武: 正直な報道、いいですね。僕も予定調和というのは大の苦手。なんとかそれを崩してやろうと画策するタイプなので、堀さんの気持ちはすごくよくわかる。それに、そうした姿勢が、堀さんをより個性的なキャスターにしていたように思います。

堀: でも福島原発の問題が発生した時、僕はニュースセンターにいながら、あまりうまく機能できませんでした。それまでずっと「正直な報道を!」と息巻いてきたくせに、“パニックを避けるため、まだ情報の公開は控えましょう”というムードのなかで、何もできなかった。これには反省では済まない忸怩(じくじ)たる思いがあったんです。

乙武: でも、実際には「今、手元にある情報を公開したい」という思いがあっても、NHKが持っている情報を堀さんの一存で公開することは、なかなか難しいわけでしょう?

堀: そうなんです、正規の手順を踏んで放送にかけようとすると時間がかかります。だから自分で取材したことはTwitterを使って発信していこうと考えたんです。実際、あのころTwitter上には一次情報を持っている人がガンガン発信していて、テレビが報じる情報と大きな乖離がありました。こうした乖離が広がると、社会に疑心暗鬼が生まれます。だから自分が、ネットと社会の接点になれないか、と。

乙武: なるほど。しかし、そうした行動が会社側からはよく思われなかった。

堀: そう。規律違反、コンプライアンス違反になるようですね。でも、僕は放送を良くしたいし、情報を公開することが社会のためになると思っていました。それが違反だといわれるなら、もうこの会社では戦えないな…と。

乙武: 堀さんが退社したのは今年3月ですが、実際に「辞めよう」と決めたのはいつごろだったんですか?

堀: じつは何度かあるんです。最初は、震災の半年後くらい。独自に情報を発信すると怒られるし、「だったら辞めさせてください」と。でも、その時はいったん慰留されて思いとどまって。さらにまた3カ月後に、上司に辞意を伝えて。でも、今度は留学を勧められて、2012年の6月から9カ月ほどアメリカへ行くことになりました。日本で起きていることを正しく知るためには、海外にいた方が都合がいいこともあると思うので、これは好都合ではありましたけど。

乙武: アメリカにいても、自発的な情報発信は可能ですしね。アメリカで学んだことや日本との違いなど気づいたことはありますか?

堀: アメリカは情報公開が徹底されていて、政府が持っている情報も基本的にすべてホームページで公開されています。都合がいいものも都合が悪いものも。なかには日本に関する情報も様々あるんですが、そうやって僕がアメリカで得た情報をツイッターで発信することも、やっぱり違反だと会社はいうわけです。

乙武: なるほど。それで、いよいよ本格的に退社を決意するわけですね。この話題、次回もさらに掘り下げさせてください。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
堀 潤さん
1977年、兵庫県生まれ。立教大学・文学部ドイツ文学科卒業後、2001年にアナウンサーとしてNHKに入社。原発事故報道に関する同局の報道姿勢に疑問を持ち、2013年3月末をもって退社。現在はパブリック・ジャーナリズムへの取り組みの一環として「8bitNews」を手がけるなど、新たなメディアの形を求めて活動中

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