乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×堀潤(3)

2013.05.17 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


あえて「すぐに効果を発揮する『退職届』を提出した」という堀氏。大きな決意をもってNHKを飛び出した

乙武洋匡「組織の中にいては変えられないこともある」



乙武: 堀さんの退職が報じられたのは、9カ月のアメリカ留学から戻られて、わりとすぐでしたよね。何があったんですか?

堀: アメリカで、研究論文の代わりに映画を1本つくったんです。それが週刊誌に「堀潤が反・原発映画を制作!」みたいな見出しで載ってしまって。内容的にはイデオロギーを煽るような映像ではなく、原発事故の影響を客観的にまとめたものだったのですが、こういう見出しに会社が反応して「どういうことだ!?」と。そのせいなのか、帰国の日には成田まで上司が迎えに来てましたからね(笑)。

乙武: VIP待遇じゃないですか(笑)。まあ、目を離すとマスコミに何を話すかわからないから、ってことなんでしょうね。

堀: 「出迎え」というより、もうほとんど「容疑者確保」ですよ(笑)。そして出社するなり上司から事情聴取され、決まっていたはずの番組もキャンセルになって…。これはもう辞めるべきだな、と。思い立った翌日の通勤途中に、コンビニで便せんと筆ペンを買って、電車のなかで辞表を書いたんです。

乙武: え、電車のなかで!?

堀: そうなんですよ(笑)。でも辞表なんて書いたことないですから、まずスマホで辞表の書き方を検索してみたんです。すると、「退職願」と「退職届」は別物で、前者はあくまで受理するかどうか相手が判断するもので、提出した瞬間に効果を発揮するのは後者の方だということがわかりました。だから、すぐに「退職届」と書きましたよね。

乙武: へえ、そんな違いがあったんだ。そこですぐに効力を発揮する「退職届」を選んだということは、もう一刻も早く辞めたかったんですね。面白いなあ。上司の方、最初はどんな反応でした?

堀: やっぱり、「こんなの受け取れないよ」と、戸惑ってましたね。でも、そこですかさず「いいですか、これは退職願ではなく退職届なので…云々」と解説してあげたんです(笑)。出した瞬間に効果が発生するものなんですよ、と。

乙武: さも、前から知っていたかのように(笑)。

堀: もちろん、ちゃんとした話し合いもしていて、「やはり今のNHKは本当の意味での公共放送とはいえません。だから僕は、外からちゃんとした公共放送をつくる仕事したいんです」と会社に伝えました。引き止めてくれるのはとてもありがたいことなんですけど、今はスピード感を大切にしたいですからね。いつか、これまでとは違う形でまた、NHKとお仕事ができる日がくれば理想的ですが。

乙武: 僕も3年間、教員という立場を経験して、現場でしかできないことがあるのと同時に、現場にいては変えられないこともあるということを痛感しました。力不足もあるのかもしれないけれど、組織や仕組みを変えるには、外に出て異なる立場からアプローチしていくしかないな、と。今回、東京都の教育委員に就任したのも、そんな思いからです。

堀: なるほど。ちなみに退職の際、最後の最後に「…留学費用は返してもらわなきゃならないんだけど」と言われちゃって(笑)。そもそも留学制度というのは、NHKや視聴者に還元できるスキルや見識を身につけるためのものですから、これはまあ納得しましたけどね。

乙武: 天下のNHKを退社するって、本当に勇気のいることだと思うんです。でも、これで堀さんが日頃から口にしているパブリック・ジャーナリズムの実現に向けて、新しい一歩が踏み出せたわけですね。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
堀 潤さん
1977年、兵庫県生まれ。立教大学・文学部ドイツ文学科卒業後、2001年にアナウンサーとしてNHKに入社。原発事故報道に関する同局の報道姿勢に疑問を持ち、2013年3月末をもって退社。現在はパブリック・ジャーナリズムへの取り組みの一環として「8bitNews」を手がけるなど、新たなメディアの形を求めて活動中

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