乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×堀潤(5)

2013.05.31 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


「今この時代におけるメディアの理想形は、テレビとネットが連携すること」と堀氏。そのための可能性を模索する

乙武洋匡「組織の利を活用することが理想的」



乙武: 堀さんが運営している市民ニュースサイト「8bitNews」。堀さんのTwitterアカウントにも使われていますが、この「8bit」というのはどういう意味ですか?

堀: これは『スーパーマリオブラザーズ』が全盛だった、1985年頃のファミコンが8bitのCPUを使っていたことに由来しています。当時の日本は、土曜の晩には家族みんなでテレビを見るのがわりと普通のことでした。この年はさらに、プラザ合意による円高不況に襲われたり、そこからバブル経済が始まったりと、日本において重要なことがたくさん起きています。あの頃8bitのファミコンで遊んでいた人が今、30~40代になって日本経済の中核を担っていますから、そんな人たちがもう一度集合して、新たな価値を生み出せればいいな、と。

乙武: おお、まさに僕もその“8bit世代”です。たしかに「集合」という意味では、堀さんのようにマスメディアでの経験を持った人と市民メディアがつながり、堀さんが技術を注入したり、また市民メディア同士をつないだりすることで、パブリック・ジャーナリズムの成熟に貢献できますよね。そもそも、「パブリック・ジャーナリズム」って、どういうことなんでしょう?

堀: 既存のニュース報道というのは、どのニュースをどんな切り口で流すのか、制作側が決めています。世の中に出るのは編集された一部分に過ぎず、だからこそ「本当の情報は隠されているのでは!?」という疑心暗鬼を生むこともある。こうした問題を解決するには、扱う情報を決める過程もオープンにして、そこに一般の皆さんがどんどん参加できるのが理想でしょう。

乙武: なるほど、そのニュースが流されるまでの過程を可視化することで、伝える側と受け手の間に信頼関係が生まれますね。堀さんが運営する「8bitNews」は、そこからさらに踏み込んで、誰もが一次情報発信者になれる点が魅力です。

堀: 多くの先進国ではすでに、「パブリック・アクセス」という権利が根付いています。国民に電波を使って発信できる権利が法律で保証されているんです。そして、たいていは国営放送がその受け皿として機能します。イギリスや韓国あたりでは、一般の方とテレビ局が一緒に番組を作って発信することだって珍しくないんですよ。

乙武: へえ、それは興味深い。でも、それができてこそ、“真の公共放送”という気もするなあ。たとえば既存のメディアというのは、先に結論ありきで、視聴者に考えさせるより、「こうなんです」といい聞かせる形になってしまいがちですよね。でも、「こういう理由で反対」「こうだから賛成」などと、視聴者自身もひとつの社会問題について議論していけるようなメディアがあればいいですよね。

堀: まさしく、そういうことです。本当は、マスメディアに多様性のあるニュースが載るのが理想なんですけどね。というのも、メディアというのは公共放送であれ民放であれ、国民がコストを投じて育んできた資産だし、まだまだテレビはすごい力を持っていると思うんです。なにしろ、YouTubeに投稿した映像が50万回再生されたとしても、それってテレビの視聴率に換算すればおよそ1%に過ぎないんですよ。

乙武: ネットの世界ではすごい反響だということになっても、テレビ番組だったら即打ち切られてしまうような視聴率ですよね。

堀: ただ、マスメディアには立派なインフラはあっても、コンテンツに関する考え方がバージョンアップされていないのが現状です。だからこれからしばらくの時代は、ネットとテレビが協業して、いい形で連携していくのがベストだと僕は考えています。

乙武: うんうん、理想的なメディアの形というものが見えてきました。それを実現するためにも、テレビもネットも経験し、両方の見識を持っている堀さんには期待したいな。なんだったら、20年後でも30年後でもいいから、いつか堀さんがNHKの社長に就任する、なんてことがあれば最高!

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
堀 潤さん
1977年、兵庫県生まれ。立教大学・文学部ドイツ文学科卒業後、2001年にアナウンサーとしてNHKに入社。原発事故報道に関する同局の報道姿勢に疑問を持ち、2013年3月末をもって退社。現在はパブリック・ジャーナリズムへの取り組みの一環として「8bitNews」を手がけるなど、新たなメディアの形を求めて活動中

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